ミドルシニアの羅針盤レター
 2026#3

シニアの熟達とプロアクティビティ
―経験を職場の価値につなげる組織マネジメント―

【第3回】高業績シニアに見られる職場の特徴

今回も早稲田大学大学院経営管理研究科の竹内規彦教授による
「シニアの熟達とプロアクティビティ~経験を職場の価値につなげる組織マネジメント~」をお送りします。
第3回目は、「高業績シニアに見られる職場の特徴」です。

[各回タイトル]
第1回 シニアの主体的な行動は年齢とともにどう変わるのか?
第2回 シニアの行動を左右する「こころ」と「仕事」
第3回 高業績シニアに見られる職場の特徴
第4回 シニア活躍を支える役割と関わり方

第3回 高業績シニアに見られる職場の特徴

1.「本人の問題」だけで捉えてよいか
  前回は、シニア人材のプロアクティビティに関係する要因として、心理的資本と仕事の停滞感を取り上げました。心理的資本が高く、現在の仕事に新しい学びや貢献の余地を感じられる人ほど、キャリア面・仕事面のプロアクティビティが高い傾向が見られました。

 では、この心理的資本や仕事の停滞感は、本人の中だけで決まるのでしょうか。筆者が企業に勤務する50歳代以降の正規社員を対象に実施した時系列調査では、職場の心理的安全性は心理的資本と正の関連を持っていました。また、職場のビジョン浸透や上司の開放的行動は、仕事の停滞感の低さと関係していました。

 ここでいう心理的安全性とは、意見や懸念を伝えても不利益を受けにくいと感じられる状態です。また、上司の開放的行動とは、単に穏やかに接することではありません。提案をすぐに否定しない、従来と異なるやり方を試す余地を認める、リスクの指摘を反発と受け取らない、といった関わりを指します。

 つまり、シニアのプロアクティビティを考える際には、本人の意欲や性格だけでなく、その人がどのような職場で、どのような上司のもとで働いているかを見る必要があります。

2.高業績シニアに見られる4つの職場条件
 では、実際に高い業績を上げているシニアには、どのような職場の特徴が見られるのでしょうか。ここで扱うのは、前回の時系列調査とは別に筆者が実施した、直属上司による業績評価を用いた調査です。その結果、業績評価が相対的に高いシニアには、以下の4つの職場条件が備わっている傾向が示されました(表1)。

 第1は「ビジョンの浸透」です。組織が目指す方向や大切にすることが、日々の仕事における優先順位や判断基準として現場で共有されている状態を指します。これは、単にスローガンを覚えているということではありません。何に向かって、何を優先し、どこを見て判断するのかが明確になっていることが重要です。

 第2は「仕事知識の共有」です。仕事を進めるうえで必要となる手順や情報に加えて、判断の前提、優先順位の理由、リスクを見る観点などが職場で共有されている状態を指します。単に作業手順を伝えるだけでなく、なぜその判断をするのか、どこに注意を向けるのかといった判断材料まで共有されていることが重要です。

 第3は「育成志向のフィードバック」です。本人の強みや今後伸ばせる点、次に期待する役割や行動について具体的に伝えるという関わりを指します。単に不足している点を指摘するだけでなく、これまでの経験をどのように次の成長や貢献につなげていくかを示すことが重要です。

 第4は「上司との信頼関係」です。意見や懸念、仕事上の見立てを率直に伝えられ、それが受け止められる関係を指します。単に関係が良好であるだけでなく、経験に基づく判断やリスクへの気づきを安心して表に出せることが重要です。



図1高業績シニアに見られる4つの職場条件

 もちろん、この結果だけから、4つの職場条件が高い業績を生み出したと因果的に結論づけることはできません。高い業績を上げているからこそ、上司から信頼され、育成的なフィードバックを受けやすくなっている可能性もあります。

 とはいえ、4つの条件に共通しているのは、シニアが蓄積してきた経験を、現在の仕事の方向や判断基準に照らして使いやすくしている点です。

3.シニアにも知識を共有する必要がある
 シニアの知識共有というと、シニアから若手や周囲へ知識を伝えることを思い浮かべるかもしれません。しかし、別の分析からは、逆方向の知識共有も重要であることが見えてきました。

 分析では、キャリア面のプロアクティビティが、新しいスキルや役割を学ぼうとする姿勢を通じて、改善提案、知識共有、育成、連携といった仕事面のプロアクティビティとして表れるプロセスが示されました。そして、上司の知識共有は、このプロセスを促進する方向に関係していました。

 少し専門的に表現すると、キャリア面のプロアクティビティが仕事面のプロアクティビティとして表れるまでの間に、「新たに学ぼうとする姿勢」が媒介していると考えられます。シニアであっても、新しい役割や現在の仕事に合わせて、経験を学び直す過程が必要なのです。

 ただし、ここでいう上司の知識共有は、仕事のやり方を一から教えることではありません。判断の前提、例えばなぜその仕事を優先するのか、どのリスクを重く見るのか、過去の失敗から何を学んだのか、顧客や現場のどこを見るのか、といった「判断材料」を共有することです。

 言い換えれば、重要なのは「情報を渡す」こと以上に、「判断材料を渡す」ことです。

4.経験を現在の仕事で活かすために
 シニアは、長年の仕事を通じて多くの経験を蓄積しています。しかし、経験が豊富であることと、その経験が現在の職場で価値を生むことは同じではありません。事業環境や顧客、組織の方針が変われば、過去に有効だった判断がそのまま通用するとは限らないからです。

 大事なのは、経験の量だけではありません。現在、組織が何を目指し、何を優先し、何を基準に判断しているのか理解すること。そして、意見や懸念を出し、必要に応じて学び直せる関係があることです。こうした条件があって初めて、経験は改善、知識共有、育成、連携といったプロアクティビティとして表れやすくなります。

 次回は、こうした職場の条件を、実際の役割や上司との関わりの中でどのように具体化するかを考えてみたいと思います。

早稲田大学 大学院経営管理研究科
教授 竹内 規彦


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