趣味の効用

明治大学大学院 野田稔教授の連載コラム、第4回(最終回)はミドルシニアのキャリア自律に欠かすことのできない「趣味の効用」についてお話をしていただきます。

◆趣味の達人になる
 私は、趣味はミドルシニアのキャリア自律にとってすごく大切だと考えています。
趣味を極めることができれば、重要な人生の構成要素となります。

 当然ながら、趣味に熱中している時は充実した時間を過ごしているわけですし、同好の士がいればコミュニティが発生する。うまくいけば、認知と称賛を得ることもできるし、趣味がビジネスに発展することだってあります。

 私の知人を紹介しようと思います。
 この人は幾つか趣味をもっているのですが、趣味の達人といってもいい人です。
 彼の一番の趣味は、ビールの缶を集めることです。
 40年以上もビールの缶を集めていると、メーカーですら所蔵していないような珍しいビール缶が彼のコレクションの中にあるのです。すると、ビール会社がイベントなどで展示するために、彼のコレクションを借りに来るようになって、小さいながらもビジネスとして成立しています。ここでもやはり、セルフブランディングが効いてきます。ビールの缶を集めるのが趣味であることを周りに知ってもらっていれば、珍しいビール缶があれば友人が缶ビールをお土産に買ってきてくれる。ビールメーカーからのオファーもセルフブランディングがあってこそです。

 彼は、ビール缶の本を出版していて、もうすぐ2冊目も出版されるそうです。趣味も極めていくとそこにマーケットが眠っていることもあるのです。

 彼はほかにも幾つかの趣味を持っていて、そのひとつが「選挙」です。これもだいぶ変わった趣味ですが、国政・地方問わず候補者のことを調べ上げて、当落の予想をするんです。国政選挙の投票日ともなれば、自宅に飲み物や食べ物を用意して、選挙仲間?を自宅に招いて、政党の選挙事務所よろしく、候補者の名を書いた書割を張り出して、当選者の名前の上に赤い花をつけて楽しんでいるんです。

 この、第二の趣味が第一の趣味とリンクして、もうひとつの趣味が生まれました。地方で選挙がある時には、その地方まで出かけて行って、候補者のことを調べる傍らその土地のビールを買って帰ってくるんです。

 地方の選挙に出かけているうちに、旅行が好きになって、温泉も楽しんだりしています。
 彼は、会社では目を見張るような出世をした訳ではないんですが、広がりのある趣味を楽しんで、同好の仲間に囲まれて、すごく楽しい人生を送れているように思います。

◆自由なつながりを持つにはマイナーな趣味を持つのがいい?
 私は、趣味の達人になるということは、ミドルシニアが自律的なキャリア形成をしていくうえですごく大きな要素であると考えています。
 そして、趣味を持つならちょっとマイナーな趣味がいいと考えています。

 私は「マンボウの遭遇」と言っているのですが、大海をさまよっているマンボウは生まれてから命が尽きるまで、ゆっくりゆっくり海の中を泳ぎ続けます。広い海で仲間に遭遇することは殆ど無いのでしょうが、まれに仲間に遭遇できたマンボウはさぞうれしいでしょうね。

 これと同じで、マイナーな趣味であるがゆえに仲間に会うとすごく嬉しいし、その仲間はすごく大切ですね。マイナーな趣味の同好者なので、当然ながらそこにヒエラルキーはなく、とてもフラットで自由な関係を築くことができるのです。

 趣味を持つに際して、空間的広がりと時間的な広がりの両方を楽しむことができるのも重要ですし、四季の変化を楽しむためにも、複数の趣味を持つこともお勧めします。

 ここでも、学びの要素が必要で、すぐに極められてしまうような趣味は長続きしません。努力を重ねて向上していく趣味こそが面白いんです。このコラムをお読みいただいている皆さんはビジネスパーソンですから、PDCAサイクルを回したり、KPIを設定したりするのが得意な方が多いのではないでしょうか。これを趣味に活かすとすごく楽しいですよ。

 もうひとつ、何かを鑑賞して楽しむ趣味も持っているといいと思います。こういう趣味があると、体調を崩しても楽しみを持ち続けることができます。

◆原点のCan?
 試しに、若いころ熱中していたことを再開してみてください。
これが意外にハマるかもしれません。
 私の友人にも、ちょっと会社でつまずきかけたのをきっかけに、20年ぶりに趣味のジャズピアノを再開した人がいます。それが、病膏肓(やまいこうこう)に入ってしまって、いまではベトナムに演奏旅行をするまでの腕前になってしまっている人もいます。

 これも、第1回でお話した「原点のCan」なのかもしれませんが、昔やっていた趣味を再開すると、ものすごく上達することもあるのです。

 私も昔やっていたことを再開しています。昔ボーイスカウトとして活動していたので、キャンプはよくやっていました。今みたいな便利な道具を持っていたわけではないので、竹材や縄などで「立かまど」を作ったりしていたんです。いまなら野外でも使える便利なコンロが売っていて、昔とは比べ物にならないほど便利になったのですが、無いものは自分で工夫しながら不便を補っていたので、技術はいまのキャンパーとは比較にならない、「キャンプの天才」ですよ(笑)。

◆夢の周りをまわり続ける
 夢を見続けることはすごく大切なことなのですが、夢をかなえるのはあきらめた方がいいです。身もふたもない言い方に聞こえるかもしれませんが、夢の周りをまわり続ける人生を考えてみてください。

 例えば、むかし飛行機のパイロットになりたかった人、いますよね、でもパイロットになれた人ってまれですよね。じゃあ、パイロットを夢見てパイロットをあきらめた人生は無駄なのか? そんなことないですよね。パイロットになれなかった人だって、家族を養って、パイロット以外の仕事で価値を創造しているわけです。であれば、飛行機を趣味にすればいいと思いませんか?

 夢の周りをまわり続けているってとても大切なことだと思いますよ。ミドルシニアといわれる歳になったらこういう考えは必須です。
 残念ながら私自身、達人の域に達するような趣味は持っていないので、これから学んでいかなくてはなりません。

 趣味は、いろんな意味でキャリアを充実させる重要な要素のひとつです。
 いろいろお忙しいと思いますが、できない理由を探すよりも、セカンドライフを充実させる動きを始めてみてください。

【筆者略歴】
野田 稔(のだ・みのる)

明治大学大学院グローバル・ビジネス研究科 教授

1981年一橋大学商学部卒業 株式会社野村総合研究所入社。
1987年一橋大学大学院修士課程修了。
野村総合研究所復帰後、経営戦略コンサルティング室長、経営コンサルティング一部部長を経て2001年3月退社。多摩大学経営情報学部教授、株式会社リクルート 新規事業担当フェローを経て、2008年4月より現職。リクルートワークス研究所 特任研究顧問を兼任。

著書:『組織論再入門』(ダイヤモンド社)、『中堅崩壊』(ダイヤモンド社)、『二流を超一流に変える「心」の燃やし方』(フォレスト出版)、『野田稔のリーダーになるための教科書』(宝島社)、『あたたかい組織感情』(ソフトバンククリエイティブ)など多数。

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