令和4年度「所得拡大促進税制」とは

 今回は、従業員の所得拡大にも関わる令和4年度の「所得拡大促進税制」について税理士の追中先生に分かりやすくご説明いただきます。



1.所得拡大促進税制
 令和4年度税制改正大綱は、参議院選挙を目前に控え、総じて小粒の改正といわれています。
目玉といわれた相続税・贈与税の一体課税など資産税関係の動きは少なく、翌年度に先送りされた感じです。
 その中で、早期の賃上げ実現のため、法人税関係では税額控除額を大企業の場合、給与等支給増加額の最大30%、中小企業では最大40%と拡充することが挙げられています。

2.大企業(資本金等の額が10億円以上かつ常時使用従業員数1,000人以上)向け賃上げ促進税制
【賃上げ要件】
・令和5年度末を期限として、継続雇用者(当期及び前期の全期間の給与支給がある者)給与等支給額の対前年度増加割合が3%以上(含む賞与)である場合、雇用者給与等支給額の対前年度増加額の15%の税額控除を行う。
・税額控除の上乗せ措置として、継続雇用者給与等支給額の対前年度増加割合が4%以上(含む賞与)である場合、税額控除率に10%を加算して25%の税額控除を行う。
【人的投資要件】
・教育訓練費の対前年度増加割合が 20%以上である場合、税額控除率に5%を加算する。
【その他要件】
・給与の引上げの方針、取引先との適切な関係の構築の方針等をインターネットで公表して、かつ、経済産業大臣に届け出ること。
 これらの要件を満たせば、給与総額の前年度増加額の最大30%を税額控除(控除上限は法人税額等の20%)することができます。

3.中小企業向け賃上げ促進税制
【賃上げ要件】
・令和5年度末を期限として、雇用者給与等支給額の対前年度増加割合が1.5%以上である場合、雇用者給与等支給額の対前年度増加額の15%の税額控除を行う。
・税額控除の上乗せ措置として、雇用者給与等支給額の対前年度増加割合が2.5%以上である場合、税額控除率に15%を加算して30%の税額控除を行う。
【人的投資要件】
・教育訓練費の対前年度増加割合が10%以上である場合、税額控除率に10%を加算する。
 これらの要件を満たせば、給与総額の前年度増加額の最大40%を税額控除(控除上限は法人税額等の20%)することができます。
この税額控除率は、賃上げに係る税制措置としては過去最高水準となっています。

4.賃上げ促進税制で賃上げは進むか?
 法人税等を納付していて賃金を上げる余地のある企業は、この仕組みによって賃上げが促進される可能性はあると思います。
 しかし、検討過程での賞与を除く月額給与のベースアップで考えるという前提はなくなったものの、対前年度比で、大企業だと3%以上、中小企業だと1.5%以上の賃上げというそれなりに高いハードルを要件としています。
少しだけ賃上げすれば税制優遇が受けられるわけではありません。
企業にそれなりの賃上げを求めている、ある意味、厳しい仕組みであるといえます。
特に、賃金を上げるのは喜ばれますが、一度上げてしまうと、後で下げるのは至難の業となることも覚悟しておかねばなりません。
 また、法人税をそもそも払っていない赤字企業には、この恩恵は及びません。
近年でも法人税を払っていない企業が全体の7割を占めるともいわれています。
多くの企業にとっては、この賃上げ促進税制は無関係であるともいえます。
 そう捉えると、賃上げ促進税制で賃上げを促すにも限界がある、といえそうです。
そもそも、既に賃上げ税制自体は10年弱にわたり続けられてきましたが、目に見える成果を上げてきたとはいえません。
 むしろ、賃上げや設備投資に消極的な大企業に対して、研究開発などに関する投資減税の優遇を停止する措置を強化しています。
具体的には給与総額の伸びが令和4年度は0.5%、その後は1%に届かず、設備投資額も一定以上を超えていない場合は減税の対象から外されることになります。
賃上げしない企業への懲罰的な措置となりますが、こちらの方が賃上げには有効なのかもしれません。

著者略歴
追中徳久(おいなか・のりひさ)
 税理士、日本税務会計学会法律部門委員、生命保険経営学会所属、補佐人税理士
 大手生保での経験を活かし、年間8,000件を超える相談業務で活躍中。
 モットーは、「わかりにくい税金問題をわかりやすく」
【著書】
 「保険税務のプロによる相続・贈与のお悩み解決ノート」(2021年・ぎょうせい)
 「Q&A保険販売のための税務トラブル回避事例」(2019・ぎょうせい)  など多数
【研修・講演】
 全国各地の税理士向けや一般向けの研修や講演実績多数

◎ 星和ビジネスリンクは、現役世代が定年後の人生を豊かに過ごすための調査研究を行う機関として、「一般社団法人 定年後研究所」を設立しました。
定年後研究所のWebサイトはこちら

◎ 一般社団法人 定年後研究所 お問い合わせフォーム