求められるシニア社員になるための中高年社員心得 【後編】

先週配信した【前編】では、木村勝先生から仕事へのモチベーションを失ってしまう「シニア社員」が増えてしまう理由についてお届けしました。
本号では、「求められるシニア社員になるためのキャリアの考え方・準備」について解説いただきます。



 5月11日配信の【前編】では、「なぜ働かないおじさんが量産されるのか」 について、その原因を考えてみました。
今回は、「働かないおじさん」 と呼ばれることなく求められるシニア社員として活躍するための処方箋を示してみたいと思います。

 前回、「働かないおじさん」が生まれてくる理由として、シニア社員が役職定年や定年年齢到達を長い会社生活でのキャリアのゴールと考えてしまうことを理由の一つとして説明させていただきました。「収入」と「役職」を働くエンジンとして馬車馬のように会社人生を歩んできたビジネスパーソンにとって、ゴールの喪失はやる気の喪失につながります。

 終身雇用を前提にするとキャリアというものは人生一度きりです。
しかしながら、これからの「人生100年・80歳現役時代」には、「役職定年」「定年」到達をキャリアの重要な節目として認識し、ファーストキャリアからセカンドキャリアへの新たなスタートを切る必要があります。
もちろん、今の会社に継続して勤務する方が多いと思いますが、その場合でもこうした節目をスルーすることなく一度立ち止まって、じっくり自分のキャリアを考えることが重要です。

 「まわりの仲間もそうだから」 「特にやりたいこともないから」 と流されることなく、「キャリアは自分で決める」 という自己決定意識がその後の活躍に大きく影響します。
キャリアの方向性をきちんと持ったシニア社員は、若手にも魅力的で目指すべきロールモデルです。若手に揶揄される存在ではなく、きちんと自身のキャリアの方向性を持ったシニア社員になることは、求められるシニア社員の条件です。

 続いてシニア人材活躍に関する調査研究からヒントを探ってみたいと思います。
一般社団法人 企業活力研究所が2020年3月に公表した 「これからのシニア人材の活躍支援の在り方に関する調査報告書」という報告書があります。
この報告書では、個人アンケート、インタビュー、企業での事例などを踏まえ、60歳以前社員(主に50代)に対して、「企業が取り組むべきこと」 と 「シニア社員本人が取り組むべきこと」の2方向から提言していますが、ここでは、「シニア社員本人が取り組むべきこと」 を紹介いたします。

 報告書で提言する取り組みは、(1)自らの強みを発揮できる新たな専門性やスキルを磨き続け、Employabilityを高める、(2)キャリアのオーナーシップを持ち、定期的にスキルの棚卸しやキャリアプランの検討を続ける、(3)会社一辺倒ではなく、職場以外での活動範囲を広げる、の3点です。

 いずれも 早くからの自律的キャリアデザインとその実行が要であり、以前このコラムでもテーマとして取り上げた 「変身資産の準備」 にほかなりません。
この調査からも、会社任せのキャリア形成から自分のキャリアは自分で決める重要性が指摘されています。

 筆者は、シニア社員に求められる力として次の3つの力があると考えています。
(1)超実務力(一気通貫)と(2)寄り添い力(傾聴力)と(3)ネットワーク力(人脈)です。


三つの力


(1)超実務力とは、管理としてのマネジメント業務がなくなり、今までの経験で培ってきた実務遂行力です。
セカンドキャリアを見据えて自分の専門領域の実務力を再度磨き上げておかなければなりません。
実務ができずに口だけのシニアは必要とされません。

(2)寄り添い力も重要です。
「サントリーフーズ株式会社」には、「TOO」 という役職があります。「隣のおせっかいおじさん」の略称です。
忙しすぎて目が行き届かない管理職と若手社員の間に入り、個人が抱える問題を早期に摘み取る役目や人材育成の後押しもしています。
こうした役割を果たすためのポイントは、「自分が、自分が」 と前に出ていくのではなく、一歩下がって若手・ミドルの話をよく聴き、彼らに寄り添うようにサポートしていくスタンスです。
肩書も権限もなくなった、人の話を聞けないパワハラ系シニアには誰もついていきません。

(3)ネットワーク力(人脈)も重要です。
長いキャリアで培った人的ネットワークや人間関係力をベースに顧客開拓や組織内で 「ノウフー」 「ノウハウ」 の達人となり、若手に人脈を紹介、人間関係での問題を調整する存在です。

 最後に求められるシニア社員になるために必要なこと(=熟年力)が学べる映画をご紹介させていただきます。
日本では2015年に封切られた映画 「マイ・インターン」です。
ロバート・デ・ニーロが演じるシニアが若い女性経営者をサポートします。
映画から学ぶことができるのは、「熟年力の発揮」です。
 □新しいことに挑戦し続ける
 □頼まれたら何でも気軽に引き受ける
 □自ら仕事を見つけて働く
 □アドバイスは短く、控えめに話す
 □昔の話を聞かれない限りしない
 □自分のスタイルを大切にする
 □清潔で身ぎれいにしている 等々
求められるシニア社員になるためのヒントが満載です。

 自分で自分のキャリアを早めから設計する自律的キャリアデザイン力とそれを実行する3つの力(超実務力・寄り添い力・ネットワーク力)を着実に学び磨き続けること。
この2つが本コラムのテーマである 「求められるシニア社員になるための中高年社員心得」 です。

【筆者略歴】
木村 勝(きむら・まさる)
木村勝一橋大学社会学部卒業、大手自動車メーカーの人事部門を経て、独立人事業務請負「リスタートサポート木村勝事務所」及び「行政書士木村勝事務所」開設独立開業。

30年を超える人事経験を通じて多くのシニア世代ビジネスパーソンのキャリアチェンジのサポートを行っている。


【著書】

『ミドルシニアのための日本版ライフシフト戦略』(共著・WAVE出版刊・2021)
『働けるうちは働きたい人のためのキャリアの教科書』(朝日新聞出版刊・2017)、
『知らないと後悔する定年後の働き方』(フォレスト出版刊・2019)など
木村勝 著書
【所属】
リスタートサポート木村勝事務所/行政書士木村勝事務所(代表)、国立大学法人 電気通信大学(特任講師、非常勤)、ビューティフルエージング協会(事務局)、東京都行政書士会杉並支部(会員)、インディペンデントコントラクター協会(会員)


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