求められるシニア社員になるための中高年社員の心得 【前編】

 前号に引き続き中高年社員のキャリア形成について、木村勝氏の集中連載、「求められるシニア社員になるための中高年社員の心得」をお届けします。3回目の今回は、中高年社員が仕事に対するモチベーションを失っていく過程について解説いただきます。



 皆さんの職場にも、役職定年や定年年齢を迎えてモチベーションを下げたシニア社員がいるのではないでしょうか?
 「働かないおじさん」 「妖精さん」などと呼ばれ揶揄されるシニア層です。
2018年11月に発表された一般社団法人定年後研究所と株式会社ニッセイ基礎研究所の試算によると、55歳以降の世代が役職定年でやる気を失うために生じる経済的な損失は年に約1兆5000億円にのぼるという報告がなされています。
一企業だけの問題にとどまらず日本経済にとっても大きな課題です。
コラム前編では、「なぜ働かないおじさんが量産されるのか」 について、まずはその原因から考えてみたいと思います。

 先にお届けした、「変身資産の有無がこれからミドルシニアのキャリアを決める(前編)(後編)」 でも書いたところですが、新卒一括採用で入社した新入社員は、全員横並びで会社の出世レースに参加し、「収入」 と 「役職」 を働くモチベーションとして頑張ってきました。
入社以来働くモチベーションとなっていた 「収入」 と 「役職」 という目標が無くなるのが、「役職定年」と 「定年」 という2回のタイミングです。

 正社員の賃金カーブを見ても給与のピークは50代前半で、55歳を過ぎると下がり始めます。
また、役職定年制により、55歳で課長職から、58歳で部長職から降りるケースが多くなってきます。
「人生100年・80歳現役時代」役職定年の55歳から25年、定年の60歳から20年間、これから先が長いのですが、この2回(「役職定年」「定年再雇用」)のタイミングをシニア社員は会社人生におけるキャリアのゴールと考えてしまい、モチベーションを下げてしまうのです。
「定年再雇用になって、年収が40%減り、仕事の量・質が50%、モチベーションが80%減った」 ある知り合いの定年再雇用者の実感です。
正社員から契約社員(名前は嘱託、シニアエキスパートなど会社によって違いますが)になり、賃金が減り、責任ある仕事がなくなったことにより、大幅にモチベーションを下げているのです。


性別、年齢階級による賃金カーブ


 もちろん、賃金が大幅に下がったこともモチベーションダウンの大きな理由の一つですが、それ以上にモチベーションに影響を与えているのが、責任ある仕事の減少にあると個人的には感じています。
この傾向は、定年前に管理職だったシニア社員に顕著です。
役職定年により、今まで参加していた管理職会議が無くなり、部下の評価など管理職としてのマネジメント業務が無くなります。
図に表すと以下のようなイメージです。


役職定年でシニア社員が暇になる理由

管理職時代より明らかに業務量が減っているのですが、多くのケースで新たな役割をアサインされることもなく、また、仕事の期待値を具体的に示されることなく、従来通りフルタイムで働いています。暇を持て余すのは当然です。
また、時間はありますので、どうしても年下管理職のマネジメントに 「アドバイス」 と称して “善意で” 口出ししたくなります。
こうした構図が一方で「働かないおじさん」を生み、また、一方で年下上司が扱いを持て余す「困ったおじさん」 が生まれるのです。

「人生100年・80歳現役時代」を迎え、国も70歳まで働く社会の実現に動いています。
2021年4月から70歳までの就業機会の確保を企業の努力義務とする「改正高年齢者雇用安定法」、通称 「70歳定年法」が施行されました。
改正の目的は、意欲ある人が長く働ける環境を整えることにあります。
60代の働き手を増やし、少子高齢化で増え続ける社会保障費の支え手を広げる狙いです。
法改正に対する筆者の周囲にいる50代、60代シニア層の受け止めは概して好意的です。
 「これで70歳までどうにか仕事ができる」
 「今の職場で働けるのが一番だ」

 こうした意見を裏付ける調査結果があります。
一般社団法人 定年後研究所が2019年9月に発表した「70歳定年」に関する調査です。
定年制度のある組織に勤務し65歳以降も働き続けたいと考える40~64歳を対象に、65歳以降の理想の働き方を聞いたところ、7割が「現在と同じ会社」で働くこと、と回答しています。

 それでは今後もシニアに働く場はあるのでしょうか?
幸運にも長年勤めてきた会社に残り続けられたとしても油断はできません。
シニアが担える仕事が今後も社内にあるとは限らないからです。
人工知能(AI)や事務作業をソフトウエアに代行させるロボティック・プロセス・オートメーション(RPA)の導入が急加速しています。
「株式会社三井住友フィナンシャルグループ」をはじめとしたメガバンク各社がRPAを活用し、数千人、数万人相当の業務効率化を図ろうとしているのが、その象徴です。

 データ入力や経理といったホワイトカラーの典型的な仕事も今や外注化や外部への部門売却が当たり前になっています。
シニアが担う業務は、どんどんなくなっていくと考えていたほうがよさそうです。

 職場で行き場に困ったシニアが、単純作業要員としてこき使われたり、パワハラ系若手上司の下でメンタルを病んでしまったりする事例も、これからは増えてくると予想されます。
こうした中、どのような点に注意して準備していけばよいのでしょうか。
次回は、今回のテーマである「求められるシニア社員になるためのキャリアの考え方・準備」 について考えてみたいと思います。

◎ 星和ビジネスリンクは、現役世代が定年後の人生を豊かに過ごすための調査研究を行う機関として、「一般社団法人 定年後研究所」を設立しました。
定年後研究所のWebサイトはこちら

◎ 一般社団法人 定年後研究所 お問い合わせフォーム