「変身資産」の有無がこれからのミドルシニアのキャリアを決める(前編)

 今回は、ミドルシニアのキャリア形成に詳しい木村 勝先生に「人生100年・現役80年」の時代に必要なビジネスパーソンの「変身資産」と「求められるシニア人材に成長するための心得」を、それぞれ(前編) (後編)、4回にわたって語っていただきます。

 本号では、ミドルシニアのキャリア形成に重要と言われている「変身資産」とは何か?と「変身資産」の重要性についてご説明いただきます。



 日本でも2021年10月に リンダ・グラットンの『ライフシフト2-100年時代の行動戦略』(東洋経済新報社)が発売となり、前作 『ライフシフト-100年時代の人生戦略』(東洋経済新報社) とあわせてシリーズ50万部を超えるベストセラーになっています。
 『ライフシフト』の中では、人生100年時代を生き抜くための3つの資産 「生産性資産」 「活力資産」 「変身資産」が取り上げられていますが、その中でも特に 「変身資産」 の重要性が強調されています。「変身資産」 とは、変化に応じて自分を変えていく力です。
「生産性資産」と「活力資産」を使って、収入、生きがい、楽しみを獲得し、「変身資産」を使ってさらにキャリアをバージョンアップしていくイメージを思い浮かべていただければと思います。
 しかしながら、この3つの資産のうち、日本のミドルシニアのビジネスパーソンにとって、最も蓄積が進んでいないのが 「変身資産」です。
 今までは入社した会社で定年まで勤めあげることが “美徳” であり、実際に鉄壁のキャリアでした。
新卒一括採用により新入社員は全員横並びで会社の出世レースに参加し、「収入」 と 「役職」 を働くモチベーションエンジンとして頑張ってきました。
会社の敷いたレールの上をひたすら走ってもらうのが組織としての最大のパフォーマンスを上げるための方策だったからです。
会社が敷いたレール以外のルートを走られては困ります。変化を求めてほかのレールがあること、レール乗り換えがあることに気づかせるキャリアデザイン研修などは、「百害あって一利なし」だったのです。
 VUCAの時代(先行きが不透明で、将来の予測が困難な状態の時代)になると様相が変わります。
「変化する力=変身資産」 がないと、これから待ち受ける人生100年・現役80歳時代を生き抜いていくことができなくなってきたのです。

次図をご覧ください。

働く期間の長期化×環境変更の大きさ
制作:リスタートサポート木村勝事務所



 横軸に年齢、縦軸に環境変化の幅を取っています。
 高度成長期は、国内・海外市場もどんどん拡大し企業は 「良いものを安く作る」 という方策を取っていればよかった時代です。
外部環境の変化の幅もまだ小さかった時代でもありました。また、この時代は、60歳定年直後から年金が支給され、同じ企業に長く勤めれば勤めるほど退職金も積みあがりました。
定年後には悠々自適の引退生活を実現することができた稀有な時代だったのです。
 今、社会問題となりつつある 「働かないおじさん」 問題もこの時代は顕在化していません。
その当時から役職定年制はありましたが、例えば55歳、58歳で役職を降りても60歳定年までの実稼働期間は短く、大きな問題にならなかったからです。
 今は違います。外部環境変化の幅は大きく、働く期間も65歳、70歳、80歳とどんどん長期化しています。
環境変化に耐えうる個人としての変化する力=「変身資産」を持っているかいないかが大きなカギになってきたのです。
 私は、自動車産業で長年働いてきましたが、ご承知の通り自動車業界では、自動運転対応、ガソリンから電気への動力源シフトなど、20世紀初頭に登場したT型フォードからつい最近まで100年を超える時代の総変化量をしのぐほどの大変革の波が押し寄せています。
 変身資産の重要性は、各種調査結果にも示されています。
労働政策研究・研修機構の調査で、「転職経験がある人ほど、高年齢の就労率が高い」 というデータもあります。
 働く期間が長期化した人生100年・現役80歳時代を生きるミドルシニアは、これからの長いキャリアの中で従来予想もしなかった変化に柔軟に対応していく必要があります。
将来の変化を読み込み、想定外を想定内にする変身資産をしたたかに蓄積していく必要があるのです。
 今までは、学生時代のポテンシャルで定年60歳というゴールにたどり着くことができました。
そのポテンシャルに加えて会社が提供するタイミングで研修(社内対応スキル中心)を受けておけば、職業生活をつつがなく全うすることができました。
 これからは違います。変化への対応は自責です。自ら学びという先行投資を行い、常に自分のキャリアに付加価値を加え続けなければなりません。
 今回のコロナ禍をきっかけに、これまで一向に進まなかった時差出勤やテレワークが加速し、日本のビジネスパーソンの働き方も大きく変わりました。
こうした外部環境の変化に対してしたたかに対応していくための「変身資産」をどう積み上げていくのかが、人生100年時代を生きるカギを握ります。
 「変身資産」を蓄積していくためには、「変身資産」の重要性を十分理解しておくことはもちろん、「変化をチャンスと捉える変化指向性」 「小さな変化も見逃さない変化感受性」 もポイントになります。
これからは、この変化に対応できる変身力自体があなたの将来価値になるのです。

 次回は、それではどうやって「変身資産」を獲得していくか、について話を進めてみたいと思います。

【筆者略歴】
木村 勝(きむら・まさる)
木村勝一橋大学社会学部卒業、大手自動車メーカーの人事部門を経て、独立人事業務請負「リスタートサポート木村勝事務所」及び「行政書士木村勝事務所」開設独立開業。

30年を超える人事経験を通じて多くのシニア世代ビジネスパーソンのキャリアチェンジのサポートを行っている。


【著書】

『ミドルシニアのための日本版ライフシフト戦略』(共著・WAVE出版刊・2021
)『働けるうちは働きたい人のためのキャリアの教科書』(朝日新聞出版刊・2017)、
『知らないと後悔する定年後の働き方』(フォレスト出版刊・2019)など
木村勝 著書
【所属】
リスタートサポート木村勝事務所/行政書士木村勝事務所(代表)、国立大学法人 電気通信大学(特任講師、非常勤)、ビューティフルエージング協会(事務局)、東京都行政書士会杉並支部(会員)、インディペンデントコントラクター協会(会員)


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