ミドルシニアの羅針盤レター
 2026#1

シニアの熟達とプロアクティビティ
―経験を職場の価値につなげる組織マネジメント―

【第1回】シニアの主体的な行動は年齢とともにどう変わるのか?

一般社団法人定年後研究所は、7月にシニア活躍推進研究会を開催しました。
「シニア人材の強みを引き出す組織マネジメント」をテーマとして、早稲田大学大学院経営管理研究科の竹内規彦教授に基調講演をいただき、シニア社員の強みやそれを踏まえた役割設計などについて、分科会で熱心な議論が繰り広げられました。
東京・大阪で150名のご参加をいただき、好評をいただいた研究会の内容について、竹内教授より「シニアの熟達とプロアクティビティ―経験を職場の価値につなげる組織マネジメント―」としてご寄稿をいただきましたので、4回にわたりお届けします。
第1回目は、「シニアの主体的な行動は年齢とともにどう変わるのか」です。

[各回タイトル]
第1回 シニアの主体的な行動は年齢とともにどう変わるのか?
第2回 シニアの行動を左右する「こころ」と「仕事」
第3回 高業績シニアに見られる職場の特徴
第4回 シニア活躍を支える役割と関わり方

第1回 シニアの主体的な行動は年齢とともにどう変わるのか?

1.「働き続ける力」と「職場で役立つ行動」
 高齢者雇用が進み、個人の職業生活は以前よりも長期化しています。その中で、シニア人材については、何歳まで働き続けられるのか、雇用され続けるためにどのような能力が必要なのか、といった議論が多くなされてきました。これは、いわゆる「エンプロイアビリティ(employability)」の視点です。

 もちろん、働き続けるための能力を維持・向上させることは重要です。しかし、働き続けられる力があることと、その人の経験が現在の職場で価値を生むことは、必ずしも同じではありません。長年の経験や知識があっても、改善を提案する、知識を周囲と共有する、若手を育てる、部門間をつなぐ、将来のリスクを早めに示す、といった行動が自然に増えるとは限らないからです。

 そこで本連載では、エンプロイアビリティから一歩進めて、「プロアクティビティ(proactivity)」に注目したいと思います。

2.プロアクティビティの2つの側面
 少し専門的な話になりますが、プロアクティビティとは、将来を見越して、自ら状況に働きかける行動を指します。筆者は、これを大きく2つに分けて考えています。

 1つは、「キャリア面のプロアクティビティ」です。学び直す、次の役割を探す、社内外に新しい接点をつくるなど、自分のキャリアを先回りして組み直す行動です。

 もう1つは、「仕事面のプロアクティビティ」です。現在の仕事や職場において、業務を改善する、知識を共有する、人を育てる、部門をつなぐ、リスクを先読みするといった、先回りして価値を生む行動を指します。

 両者はいずれも自発的な行動ですが、働きかける対象が異なります。前者は自分の今後のキャリアに、後者は現在の仕事や職場に向けられた行動です。

3.2つのプロアクティビティは同じようには変化しない
 では、この2つのプロアクティビティは、年齢とともにどのように変化するのでしょうか。図1は、筆者が実施した調査をもとに、働き続ける見通しとキャリア面のプロアクティビティを年齢階級別に示したものです。



図1 働き続ける見通しとキャリア面のプロアクティビティの年齢階級別比較

 図1から、キャリア面のプロアクティビティは、20歳代から50歳代まで大きくは変わらない一方、60歳代で最も高い値を示しています。また、社内で働き続ける見通しは年齢階級とともに低下しますが、社外や別の機会に対する見通しは、50歳代まで低下した後、60歳代でやや持ち直しています。つまり、少なくともこのデータからは、シニアになると、自分の今後を考え、キャリアを組み直そうとする行動が一様に弱まるとはいえません。

 一方で、現在の仕事に向けられたプロアクティビティを見ると、異なる傾向が表れます。図2では、日々の業務そのものに働きかける「タスク領域」、周囲のメンバーに働きかける「チーム領域」、会社全体に働きかける「組織領域」のいずれにおいても、年齢階級が上がるにつれ、先回り行動(プロアクティビティ)は弱まる傾向にあります。



図2 仕事面のプロアクティビティと熟達志向の年齢階級別比較

 ともすると、私たちは、自分のキャリアを組み直す行動と、現在の仕事を変える行動を一括りにして「主体性」と呼んでいるかもしれません。しかし、両者は分けて見る必要があります。自分の次の役割を考える行動は弱まっていない一方で、現在の職場や仕事を変えようとする行動は表れにくくなっているのです。

4.熟達志向と先回り行動(プロアクティビティ)は別物
 更に興味深いのが、図2に示した「熟達志向」との関係です。熟達志向とは、仕事をより深く理解したい、正確に進めたい、経験からよりよく判断できるようになりたいという志向を指します。

 図2から、熟達志向は年齢階級が上がるほど高まる傾向にあることがわかります。一方で、仕事面の先回り行動(プロアクティビティ)は同じようには高まっていません。つまり、シニアは仕事を深く理解し、確実に遂行しようとする一方、その志向が改善、共有、育成、連携といった行動として外に表れるとは限らないのです。

 ここで注意が必要なのは、データが直接示しているのは、客観的な能力としての「熟達」そのものではなく、熟達しようとする「志向」であるという点です。また、年齢階級別の平均値の違いを、そのまま個人の加齢変化とみなすこともできません。年齢層による仕事内容、役割、雇用条件などの違いが関係している可能性もあります。

 とはいえ、「シニアは主体的でなくなる」という1つの見方だけでは、これらの結果を十分に説明できません。大事な点は、経験や熟達志向の有無ではなく、それらが現在の職場における先回り行動として表れる条件があるかどうかです。

 以上のことから、組織側に求められるのは、シニアに一律に「もっと主体的に行動してほしい」と促すことではありません。何について先回りしてほしいのか、どこまで本人の判断で変えてよいのか、どの経験をどの場面で生かしてほしいのかを明確にする必要があるでしょう。

 次回は、熟達志向を先回り行動へつなぐ要因として、「心理的資本」と「仕事の停滞感」を取り上げます。

早稲田大学 大学院経営管理研究科
教授 竹内 規彦


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