ミドルシニアの羅針盤レター
 2025#10

  【第2回】自律性は、モチベーション3.0の時代
―“やらされ”から“湧き上がる”へ―

習慣化コンサルティング㈱代表の古川武士氏に「自律型人材を育てるための習慣化メソッド」について、4回にわたって語っていただいています。
今回は2回目になります。

外発的モチベーションの終焉――報酬では続かない
 ある企業の人事部長が、私にこんな相談をしてくれました。
「最近の若手は評価や報酬で動かない。昇進よりも
“意味のある仕事がしたい”と言うんです」

まさにこれが、今の時代の変化を象徴する言葉です。
モチベーション2.0の時代、つまり「やれば報われる」「頑張れば昇進できる」
という外発的動機づけの仕組みは、もはや限界を迎えています。

もちろん、報酬や評価は重要です。
しかし、それだけでは“持続するやる気”は生まれない。

なぜなら、人間の脳は「報酬」に慣れてしまうからです。
たとえば、賞与が増えた瞬間はうれしい。
しかし、数日後には元の状態に戻る。
これを心理学では「快の順応」と呼びます。

つまり、外側から与える刺激には“賞味期限”があるのです。
この構造を理解せずに、「もっと報酬を」「もっと評価を」と外側の施策を
重ねても、社員のエンゲージメントは一時的に上がるだけで、すぐに元に戻ります。

これからの時代に必要なのは、
“内側から湧き上がるエネルギー”=内発的動機を引き出すマネジメントです。

モチベーション3.0とは何か?
 モチベーション3.0とは、ビジネス書作家ダニエル・ピンクが著書『Drive』で
提唱した、“内側から湧き上がる持続的なやる気”を示す概念です。

まず、モチベーション1.0は原始的な“生存の欲求”。「食べたい」「寝たい」
「安全でいたい」といった生理的動機づけが中心で、人類の初期から
存在してきました。

次のモチベーション2.0は、報酬・評価・罰などの“アメとムチ”。
外発的動機づけで、人を管理しやすく、20世紀の組織運営では効果的でした。
しかし、内心では「やらされ感」が強く、継続性や創造性には限界があります。

そこで現代に求められるのが、モチベーション3.0。
人生100年時代、キャリア自律、副業の広がりなど、働く意味が問われる今、
人も企業も“内なる火”で動く3.0型への転換が不可欠なのです。

やる気の源泉、ディープドライバーとは何か?
 ではそのモチベーション3.0をどうすれば見つけられるのか。

それが、私たちが提唱する「ディープドライバー(Deep Driver)」です。
ディープドライバーとは、「自分を突き動かす内的な動機」。
「成長したい」「支えたい」「極めたい」「喜ばせたい」――
人は誰でも、自分の内側に“やる気の種”を持っています。
それは人によって異なります。

この“根っこ”を見つけることができると、
人は外から動かされなくても、自ら動けるようになります。

たとえば、あるシニア社員が研修でこう言いました。
「昔は会社のために頑張ってきた。でも今は何のために働けばいいのか
分からない」

私はその方にこう尋ねました。
「これまで仕事をしてきて、一番心が動いた瞬間はどんな時ですか?」
少し考えたあと、その方は言いました。
「後輩が成長して、“ありがとうございます”と言ってくれた時です」
その瞬間、表情が変わりました。
“やる気がない”のではなく、“やる気の源泉を忘れていただけ”だったのです。
人は、他人の評価や立場を失っても、
「自分のディープドライバー」と再びつながることで、
再びエネルギーを取り戻すことができます。

やる気の源泉を見つければ、今いる場所で再燃できる
 多くの人が「やる気が出ない」と感じる時、私たちは“場所”を変えようとします。

「部署を変えたい」「転職したい」「もうやりきった」――
しかし、本当に変えるべきは、場所ではなく「内側」です。
人は、自分の中にある“意味”を見つけた瞬間、
同じ環境でも違う行動を取り始めます。

たとえば、「後輩育成」という言葉一つとっても、「仕事だからやる」
ではなく、「成長を支えることが自分の喜びだ」と捉え直せば、
日々の小さな関わりにも使命感が宿ります。

ディープドライバーは、環境を選ばずに発揮できる力です。
それが見つかると、人は「今の場所」で再び燃え始める。
これが、“キャリア自律の再燃メカニズム”です。

ディープドライバーを軸にした組織運営には、3つの効果があります。

自律行動が増える
 →「やらされ」から「やりたい」行動に変化し、報告や指示待ちが減る。
関係性が深まる
 →上司と部下、同僚同士が“価値観レベル”でつながることで、心理的
    安全性が高まる。
離職率が下がる
 →“自分の中の意味”を見出した人は、他者と比較する必要がなくなる。

つまり、ディープドライバーは“個人のモチベーション”で終わらず、
組織文化を変える起点になるのです。

「自律」は、会社のためではなく“自分のため”に生きる力
 最後に、少し哲学的なお話をします。
「自律型人材を育てる」というと、「社員が勝手に動く」「会社の指示が
いらなくなる」という誤解を持たれることがあります。

しかし、本当の自律とは、
“会社のために働く”から“自分のために生きる”へと軸を変えることです。
その変化を恐れずに支援することこそ、これからの人事・マネジメントに
求められる役割だと思います。

ディープドライバーは、個人の生き方の中に眠っています。
それを見つけて、日常の行動につなげることで、社員一人ひとりが
“自分の人生を生きながら、組織に貢献する”状態が実現します。

【筆者プロフィール】
古川 武士
(ふるかわ たけし)

習慣化コンサルティング株式会社代表取締役
1977年大阪府生まれ。関西大学卒業後、日立製作所などを経て2006年に独立。
約5万人のビジネスパーソンの育成と1000人以上の個人コンサルティングの経験から「続ける習慣」が最も重要なテーマと考え、日本で唯一の習慣化をテーマにしたコンサルティング会社を設立。オリジナルの習慣化理論・技術を基に、「習慣が人を育てる」をミッションに、法人向けに「ザ・習慣化プログラム」(キャリア自律の習慣化)(仕事の高密度化研修)などを提供している。NHK「あさイチ」「ごごナマ」、TBS「情報7daysニュースキャスター」など250以上のTV、ラジオ、雑誌に出演。著書は、習慣化に特化したテーマでこれまでに25冊を出版し、累計120万部を超える。


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