ミドルシニアの羅針盤レター
 2025#9

 【第1回】自律型人材を育てるのになぜ習慣化が必要か?―習慣で動く人材育成―

今回より習慣化コンサルティング㈱代表の古川武士氏より、企業研修や個人コーチングを通じてお伝えしている「自律型人材を育てるための習慣化メソッド」について、全4回でお届けします。
テーマは――『自律型人材を育てるやる気の源泉の見つけ方 〜ディープドライバーからキャリアを動かす〜』。
今回のシリーズは、単なる「モチベーション理論」ではなく、人が“本当に動き出す”仕組みを、習慣化のプロの視点から具体的に解説していきます。
ぜひ、あなたの職場でも「自律が生まれる仕組みづくり」のヒントとしてご活用ください。

一時的な対策ではなく、習慣を変える理由
 「社員が受け身で、研修後も行動が続かないんです」
人事の方から、最も多く聞く言葉の一つです。
多くの企業が、「モチベーション」や「意識改革」をキーワードに様々な施策を打ち出しています。
しかし、残念ながら多くは一過性の盛り上がりで終わってしまう。
なぜなら――“意識”は一瞬で変わるけれど、“行動”は習慣にならなければ続かないからです。
私は15年以上、企業研修の現場で延べ5万人以上の方と関わってきました。
どんなに優秀な人でも、「やる気があるうちしか続かない」人は多い。
逆に、淡々と小さな行動を積み重ねていく人は、確実に成果を出していく。
両者の違いは、「意志の強さ」ではありません。

 “仕組みの有無”です。
「やる気が出たらやる」ではなく、「やる気がなくてもできる」仕組みを持っているか。
その違いが、キャリアの長期的な差となって現れていきます。

自律型人材は、自律性と継続力で育つ
 自律とは、「自分で決め、自分で動く力」。
しかし、ここにはもう一つの前提が必要です。
それは――“続ける力”です。

 一瞬の意欲では、自律は定着しません。
毎日の小さな行動を、意識せずとも続けられる状態――
つまり、“習慣化された自律”が、本物の自律型人材を育てる基盤になります。
行動科学の視点で見ると、習慣は「トリガー(きっかけ)→アクション(行動)→リワード(報酬)」の連鎖で成り立っています。
この仕組みを整えることで、行動は努力から“自然な反応”に変わっていきます。
人は「やる気」で動く生き物ではありません。
“環境と習慣”で動く生き物なのです。

 ここを理解せずに「もっと主体的に!」と掛け声をかけても、
社員は一時的に動いて、すぐに元に戻ってしまいます。
一方で、「習慣」という仕組みを整えれば、やる気に波があっても、行動は止まりません。

「意識改革」よりも「行動設計」を
 たとえば、ある大手企業の管理職研修でこんなことがありました。
受講者の一人がこう言いました。
「部下を育てたいと思っても、日々の業務に追われて続かないんです」

 私は尋ねました。
「それを“いつ・どこで・どんな形で”やるか、決めていますか?」
彼はハッとした表情を見せました。

 多くの人は、“やる気”の問題と捉えていますが、
実際には「行動の設計」が曖昧なだけなのです。

 「毎週木曜の朝15分を“1on1の時間”として固定する。」
「ミーティング冒頭に“部下の行動を一つ承認する”。」

 このように“仕組み”に落とし込むだけで、行動は続くようになります。
つまり、自律を育てるとは、精神論ではなく“構造設計”の話なのです。
そしてその設計の単位が「習慣」なのです。

目標ではなく「習慣」にフォーカスする時代へ
 これまで多くの企業では、「目標設定」が自律の第一歩だとされてきました。
しかし、現代のように変化が激しい時代には、目標を立てても環境が変わり、モチベーションが揺らいでしまいます。

 キャリア理論の中でも、クランボルツ博士の「計画的偶発性理論」は示しています。
人生の8割は、予期せぬ偶然によって形成される。
だからこそ、偶然をつかまえる習慣を持つ人が、最終的にキャリアを切り開くのです。

 そのために必要なのは、壮大な計画ではなく、
「小さな好奇心を行動に移す習慣」。
好奇心・持続性・楽観性・柔軟性・冒険心――
これらを日常の習慣として磨いていくことで、
予期せぬチャンスを活かす力が育ちます。

自律とは「自分で動ける仕組み」を持つこと
 では、結局“自律”とは何か?
それは、「自分の中に“自動的に動ける仕組み”を持っている状態」です。
それは性格ではなく、訓練によって身につけることができます。

 「朝の5分で一日の優先順位を整理する。」
「週の終わりに『小さな達成』を振り返る。」
たったそれだけでも、自分を律し、行動を整えるリズムが生まれます。
人は、仕組みがあれば安定し、仕組みがなければ乱れます。
だからこそ、「自律」とは、自由のためのルール設計なのです。
“自分を縛る”のではなく、“自分を解放するための構造”。
それが、習慣化の本質です。

人事ができる最も効果的な支援とは
 最後に、企業側ができる支援についてお伝えします。
社員の「行動を変えたい」と思った時、一番効果的なのは、
「本人の小さな一歩を支援する環境をつくる」ことです。

 上司が部下に「何から始められそう?」と問い、
その答えを見守りながら一緒に進める。
この“ベビーステップ型マネジメント”が、自律型人材育成の土台になります。

 「一気に変えよう」とせず、「小さく始める仕組みを整える」。
それこそが、習慣化のプロが考える“自律支援の原則”です。

【筆者プロフィール】
古川 武士
(ふるかわ たけし)

習慣化コンサルティング株式会社代表取締役
1977年大阪府生まれ。関西大学卒業後、日立製作所などを経て2006年に独立。
約5万人のビジネスパーソンの育成と1000人以上の個人コンサルティングの経験から「続ける習慣」が最も重要なテーマと考え、日本で唯一の習慣化をテーマにしたコンサルティング会社を設立。オリジナルの習慣化理論・技術を基に、「習慣が人を育てる」をミッションに、法人向けに「ザ・習慣化プログラム」(キャリア自律の習慣化)(仕事の高密度化研修)などを提供している。NHK「あさイチ」「ごごナマ」、TBS「情報7daysニュースキャスター」など250以上のTV、ラジオ、雑誌に出演。著書は、習慣化に特化したテーマでこれまでに25冊を出版し、累計120万部を超える。


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