第4回「中高年女性会社員」の定年への意識
本年(2024年)3月14日の公開セミナー「中高年女性会社員の活躍に向けた現状と課題」で登壇、ご好評をいただいた、坊美生子氏(ニッセイ基礎研究所准主任研究員)の連載(全4回)の最終回です。
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今回は、中高年女性の「定年」について取り上げます。「定年」というと、これまで、「セカンドキャリアをどうするか」、「定年退職後の居場所づくり」など、“仕事一筋”で働き続けてきた男性を想定した議論が多かったように思います。実際に、定年を迎える正社員の数は、女性よりも圧倒的に男性が多いため、無理もないでしょう。
ですが、連載の1回目で見たように、50歳代の女性正社員は2022年に初めて250万人を超え、中期的には、今後、定年を迎える女性が増えると予想されます。企業としては、これからは女性に着目して、「定年まで意欲を持って働き続けてもらうにはどうしたら良いか」、「定年退職後へのスムーズな移行をどうサポートするか」といったことを考えていく必要があるのではないでしょうか。
その一助になればと、定年後研究所とニッセイ基礎研究所が共同研究として行ったインターネット調査「中高年女性会社員の管理職志向とキャリア意識等に関する調査~『一般職』に焦点をあてて~」では、定年についても取り上げました。
その中からまず、退職時期に関する意識をご紹介しましょう。「現在の会社でいつまで働き続けたいですか」という問いに対し、「今すぐ退職したい」が8.4%、「定年より前に早期退職したい」が13.9%、「定年まで働きたい」が27.7%、「定年を経て、継続雇用の上限まで働きたい」が17.9%、「働けるうちはいつまでも働きたい」が20%、「分からない」が11.9%などとなりました(図1)。
「定年より前に早期退職したい」と回答した人に、その理由を尋ねると(複数回答)、「趣味や旅行などをして、楽しく暮らしたいから」が57.4%でトップとなりました。次いで「働くことに疲れたため」が47.9%となり、その他、「体力面、体調面に不安があるため」(27.7%)、「他にやりたいことがあるため」(18.1%)などが続きました。
次に、「高齢になっても同じ会社で働き続けるために、会社に望む取組や制度」を尋ねたところ(複数回答)、トップ2は「待遇改善」(36.0%)と「適切な評価」(35.7%)でした(図2)。「昇進、昇給」(28.9%)も多く、評価・待遇面が一つのネックになっていることが分かりました。
その他に多かったのは、「職場の人間関係が良いこと」(33.3%)でした。職場の雰囲気が悪く、ストレスがたまるようなところでは、年を取ってまで働き続けたくない、ということでしょう。また、「勤務時間に融通が利くこと(フレックスタイムなど)」(29.9%)や「短時間勤務(1日6時間や4時間など)ができること」(25.4%)、「勤務場所に融通がきくこと(テレワークなど)」(24.1%)、「短日勤務(週3日勤務など)ができること(23.5%)」など、柔軟な働き方への希望も多く見られました。更に、「これまでに経験のある業務や職場で働き続けられること」(27.8%)など、従来の経験と連続性のある仕事や職場への希望も多いことが分かりました。
これらの希望を大まかにまとめると、評価・待遇に代表される「働きがい」と、柔軟な働き方や職場の雰囲気といった「働きやすさ」が実現すれば、高齢まで働き続ける意欲が高まる、と言えるでしょう。
次に、共同研究で得られた様々なデータをクロス分析して、実際に、高齢まで働き続ける意欲が強いのはどんな女性かについて、検討しました。
まず、職務や職場に関する満足度と、退職時期に関する意識をクロス分析すると、仕事の内容や仕事のやりがい、評価制度、人事異動ローテーションや転勤の範囲、教育・研修機会、職場の雰囲気、労働時間の長さや有給休暇の取りやすさといった項目について「不満」または「やや不満」と回答した層は、いずれも「今すぐ退職したい」という回答が全体に比べて高いことが分かりました。つまり、職務や組織運営、働き方などの面で「働きがい」と「働きやすさ」を感じられない女性は、退職への動機が強いことが分かりました。
次に、職場での経験と退職時期に関する意識をクロス分析すると、キャリアデザイン研修の受講経験がある層は、「定年まで働き続けたい」という回答が全体に比べて高いことが分かりました。キャリアデザイン研修によって、自身のキャリアを見つめ直し、今後の働き方を計画的に考える機会がある層は、「頑張って定年まで働き続けよう」という意識が高いと言えます。
繰り返しになりますが、中高年女性が長く働き続けたいという意識には、「働きがい」と「働きやすさ」が大きく関わっていることが分かりました。したがって、企業としては、これらを高めるような組織運営や職場づくりが求められていると言えるでしょう。
【筆者プロフィール】
坊 美生子(ぼう みおこ)
ニッセイ基礎研究所 生活研究部 准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任
神戸大学大学院国際協力研究科修了。読売新聞記者として、大阪社会部や東京社会部、地方部で、主に労働分野や地方行政を取材。現在は、ミドルシニア女性のライフデザインや、高齢者の移動サービス、ジェロントロジーなどを研究している。2018年から和歌山放送ゲストコメンテーター。
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