ミドルシニアの羅針盤レター2024#15
  ミドルシニアの羅針盤レター 2024#15

第3回「中高年女性会社員」のキャリアと仕事への意識

 本年(2024年)3月14日の公開セミナー「中高年女性会社員の活躍に向けた現状と課題」で登壇、ご好評をいただいた、坊美生子氏(ニッセイ基礎研究所准主任研究員)の連載(全4回)の3回目です。

 今回は、中高年女性のキャリアや仕事への意識について、定年後研究所とニッセイ基礎研究所が共同研究として行った「中高年女性会社員の管理職志向とキャリア意識等に関する調査~『一般職』に焦点をあてて~」からみていきましょう。

 はじめに、現在の役職についてみると、「役職なし」が74.4%、「係長相当職」が14.8%、「課長相当職」が6.9%、「部長相当職」が1.5%、「役員相当職」が0.5%でした。課長級以上の管理職に就いている女性は1割弱に過ぎません。「これまでに就いた最も上位の役職」でも「管理職」は12.3%にとどまりました。

 次に、職場での経験についてみていきましょう(図1)。まず人事・配置面では、「転勤を伴わない異動」や「チームリーダーの仕事」の「経験がある」は3~4割でした。図には示していませんが、「転勤を伴う異動」と「転勤を伴わない異動」のいずれも未経験の層は約4割に上りました。つまり、中高年女性の約4割は、入社以来、ずっと同じ部署で働き続けているのです。

 教育面では、「実務スキル研修の受講」の「経験がある」は半数近くに上りましたが、その他の研修は1~3割にとどまりました。注目されるのは、いずれの研修についても「経験はないが、希望している」女性が1割~2割弱いることです。

 以上の結果から、中高年女性は役職経験者が少なく、職務経験や教育を受けた経験も浅いものの、本当は、「研修を受講したい」「もっとスキルを伸ばしたい」と考えている層が一定、いることが分かりました。


図1 中高年女性会社員の職場での経験 

 次に、自発的な学び直しに関する結果を見てみましょう(図2)。中高年女性のうち「学び直しの経験がある(学び直し中も含む)」は12.8%、「学び直しの経験はないが、関心がある」は26.4%、「学び直しの経験はなく、関心はあるが、実際に行う時間が無い」は17.1%、「学び直しに関心はない」は27.6%でした。

 学び直しの経験・関心がある層をまとめると、全体の過半数となり、学び直しに対する関心が非常に高いことが分かりました。上述したように、社内での職務経験や教育経験が浅い分、自発的な学び直しでスキルアップを目指そうとしている中高年女性が多いと考えられます。


図2 中高年女性会社員の「学び直し」の経験と関心

 次に、管理職志向についてみていきましょう。非管理職の中高年女性に、将来、管理職に就きたいかを尋ねると、圧倒的に多かったのは「就きたくない」の64.3%でした(図3)。「就きたい」はわずか8.6%でした。ただし、「職場の状況次第では就いても構わない」が12.1%、「家庭の状況次第では就いても構わない」が3.6%あり、これらの“条件付き”を合わせると、管理職を希望する層は、4人に1人の割合まで増えることが分かりました。年齢階級別に見ると、希望する層は、50歳代後半や60歳以上でも2割近くに上ったことは特筆すべきでしょう。

 それでは、「職場の状況次第」や「家庭の状況次第」と回答した人の、具体的な条件とは何でしょうか。複数回答で尋ねると、最多は「管理職の給与水準の改善」(34.8%)、次に「管理職の評価制度の改善」(28.7%)、その他には、「管理職の職務内容や職務範囲の見直し」(28.4%)、「管理職に対するより上位の管理職からの支援やアドバイス」(24.2%)、「転勤がない管理職ポスト」(22.8%)などが挙がりました。家庭に関しては「家庭で、育児や介護など、家族のケアがひと段落すること」(9.8%)などがありました。

 つまり、女性の昇進意欲が弱いのは、女性個人だけの問題ではなく、企業の組織運営や働き方、また家族のケアなどの問題が大きく関連していることが分かったのです。逆に言えば、企業が組織運営や働き方などを改善すれば、中高年女性の管理職志向は強まると言えます。


図3 中高年女性会社員の管理職志向

 以上をまとめると、中高年女性の中には研修受講や学び直しへの意識が高い層が一定、存在していること、中高年女性の昇進意欲は、企業や家庭の状況次第で、上昇するということが分かりました。したがって企業としては、組織運営や働き方を見直し、同時に中高年女性会社員に対しては、個人の意欲や適性を見て育成していけば、より高い能力発揮や役職登用につなげることができるのではないでしょうか。

【筆者プロフィール】

 坊 美生子(ぼう みおこ)
ニッセイ基礎研究所 生活研究部 准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任
神戸大学大学院国際協力研究科修了。読売新聞記者として、大阪社会部や東京社会部、地方部で、主に労働分野や地方行政を取材。現在は、ミドルシニア女性のライフデザインや、高齢者の移動サービス、ジェロントロジーなどを研究している。2018年から和歌山放送ゲストコメンテーター。




当メールマガジンは一般社団法人定年後研究所が総合監修し、配信運営は株式会社星和ビジネスリンクが行っております。