第1回「中高年女性会社員」への注目
本号からは、本年(2024年)3月14日の公開セミナー「中高年女性会社員の活躍に向けた現状と課題」で登壇、ご好評をいただいた、坊美生子氏(ニッセイ基礎研究所准主任研究員)より4回にわたり語っていただきます。
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「働く女性」の問題と言えば、少子化対策と関連して「仕事と子育ての両立」に注目が集まることが多いようです。また近年では、2016年に女性活躍推進法が施行されたことなどから、「女性管理職」への注目度も高いと言えます。この二つの課題に対しては、多くの企業が「次世代育成支援対策推進法」や「女性活躍推進法」に沿って行動計画を策定し、様々な取り組みを積み重ねてきたことと思います。「くるみん」マークや「えるぼし」マークの認証取得もその一環です。
ですが、実際の職場に目を移すと、未婚の女性もいれば、結婚をしても子を持たない女性、子育てがひと段落した女性もいます。企業による「両立支援」は、どうしても小さい子を持つ若年女性が対象となりやすく、また「女性管理職」は“エース級”の女性に限られがちです。その結果、「両立支援」と「管理職登用」のいずれの射程からも微妙に外れた中高年女性会社員は多いのではないでしょうか。
一方で、企業の人事管理の問題に目を向けると、採用難や若年層の離職増加により、人手不足感は強まっています。そこで、企業が既に抱えている中高年社員、とりわけ、これまであまり注目されてこなかった中高年“女性”会社員を活用することによって、組織の生産性や持続可能性を上げていく余地があるのではないでしょうか。子育て中ではなく、管理職候補でもない、「普通の中高年女性会社員」を、どのようにキャリア支援していくか、ということです。
また、中高年女性会社員の側から見ても、退職前にスキルを磨いて成果を上げ、賃金水準を上げておくことには大きな意味があります。近年、シングルが増えている影響などにより、老後、貧困に陥る女性が増えているからです。実に、一人暮らしの高齢女性の4割以上は相対的貧困、という研究結果もあるのです。(阿部彩(2024)「相対的貧困率の動向(2022調査update)」JSPS 22H05098)したがって、企業側は生産性と持続可能性向上のため、女性会社員側は老後の経済基盤を強化するために、ともに協力して、より能力を発揮できるように取り組んでいくべきではないでしょうか。
そのような観点から、定年後研究所とニッセイ基礎研究所は2023年9月から11月に、「中高年女性会社員の活躍に向けた現状と課題」をテーマに共同研究を行いました。今年1月のメルマガで、定年後研究所の池口所長からも紹介があったように、大企業で働く中高年女性会社員を対象としたアンケートと、企業の人事担当者らを対象としたインタビュー調査で構成したものです。筆者からは、このアンケートをもとに、中高年女性会社員の活躍に向けた現状と課題について、お話しします。
アンケート結果の紹介に入る前に、連載1回目の今回は、国内における「中高年女性正社員」の状況について、政府統計から概観してみたいと思います。
まず、総務省の「令和4年就業構造基本調査」で中高年の女性正社員の数を確認すると、例えば45歳から59歳までだと約400万人となり、男女合わせた正社員総数の1割強を占めています(図1)。次に、男女別に割合を見てみると、「45~49歳」でも、「50~54歳」や「55~59歳」でも、男女比はおおよそ7対3となっています。
このような「中高年女性正社員」の人数は、中長期的に、どのように変化してきたのでしょうか。上述の「就業構造基本調査」を遡って、1987年以降の5年ごとのデータを確認してみました。ここでは、「50歳代」に限って計算してみました。すると、1987年には145万人でしたが、徐々に増加して、2022年には初めて250万人を超えました。
過去35年でなぜ50歳代女性正社員が増加したかと言えば、そもそも人口が増えたことと、特に現在の50歳代は「団塊ジュニア」を含むボリューム層であることに加え、女性の有業率(15歳以上人口に占める有業者の割合)が上昇してきたことが挙げられます。図3のように、1987年から2022までの35年間に、50代前半の有業率は16.5ポイント、50歳代後半の有業率は23.8ポイント上昇しました。
このように、「中高年女性会社員」が、企業で働く正社員の中で一定の存在になったのですから、その役割や、活用方法を今一度、考え直すことが必要ではないでしょうか。図1からも分かるように、特に男性は若い世代ほど正社員の数が減っていくので、今後、企業によっては社員全体に占める「中高年女性」のシェアは増してくるでしょう。更に、これらの中高年女性が今後、次々に定年を迎えていくので、「女性の定年」という問題も、より大きなテーマになるでしょう。
そこで、中高年女性会社員に、職場でより役割を担ってもらい、また、定年まで生き生きと働き続けてもらうためには、どんなことが必要になるのでしょうか。次稿以降、定年後研究所とニッセイ基礎研究所の共同研究の成果をご紹介しながら、そのヒントについて、考えていきたいと思います。
【筆者プロフィール】
坊 美生子(ぼう みおこ)
ニッセイ基礎研究所 生活研究部 准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任
神戸大学大学院国際協力研究科修了。読売新聞記者として、大阪社会部や東京社会部、地方部で、主に労働分野や地方行政を取材。現在は、ミドルシニア女性のライフデザインや、高齢者の移動サービス、ジェロントロジーなどを研究している。2018年から和歌山放送ゲストコメンテーター。
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