ミドルシニアの羅針盤レター2024#8
  ミドルシニアの羅針盤レター 2024#8


第4回: ライフプランは「幸福学」と人生のミッション

 研修講師、経営コンサルタント、そしてビジネス書作家でもある大杉潤氏による第4回(最終回)のお話は、ライフプランは「幸福学」と人生のミッションについてです。

 これまで、中高年向け社員研修が「長く働くこと」を目指す社員に向けたプログラムに変貌していることを説明し、キャリアプランとマネープランの方向性について解説してきました。ライフプラン(人生設計)を考える際の両輪がキャリアプランとマネープランです。私が実施する企業研修では、締めくくりとして「幸福学」の考え方を紹介し、それをベースに自らの「人生のミッション」を考えて整理してもらい、グループの中で1人ひとり発表して相互にフィードバックをし合う演習を最後に行っています。



「幸福学」が明らかにした「幸せの4つの因子」
 日本で学問として「幸福(=Well-being)」を研究し、「幸福学」の第一人者と言われている前野隆司・慶應義塾大学大学院教授が日本人だけを対象に調査をし、その結果を因子分析した結論として、幸福度の高い人には、次の「幸せの4つの因子」が共通してあることを明らかにしました。

1.「やってみよう!」因子(自己実現と成長の因子)
2.「ありがとう!」因子(つながりと感謝の因子)
3.「なんとかなる!」因子(前向きと楽観の因子)
4.「あなたらしく!」因子(独立とマイペースの因子)

 4番目の「あなたらしく!」因子はのちに「ありのままに!」因子(独立とあなたらしさの因子)と表現を変えていますが、この4つの因子を心的特性として持っている人は、そうでない人に比べて明らかに幸福度が高いことがわかりました。
ライフプラン(人生設計)を考えていくときに、この「幸せの4つの因子」をベースに組み立ていくことが大切なのです。

「ありがとう!」因子から人生のミッションを考える
 私の行う研修では、長く働くために、働く期間を3つに分けて考える「トリプルキャリア」という考え方を紹介していることを 第2回:キャリアプランは「自営型」シフト において説明しました。以下の3つに分ける考え方です。

1. ファーストキャリア: 会社員として「雇われる働き方」
2. セカンドキャリア: 定年のない「雇われない働き方」
3. サードキャリア: ライフワークに絞り込む「理想の働き方」

 その最後にあたるサードキャリアでの活動、すなわちライフワークを先に決めることが大切で、そこから逆算して(バックキャスティングで)セカンドキャリアとしてどんな仕事をするかを決め、そのための準備としてファーストキャリアの50代にはどんな準備をしていくのかを戦略的に考えていくということでした。

 年齢で言えば、体力面・健康面での制約が避けられない75歳以降のキャリア(活動)になり、「そんな先のことはわからないし考えられない」と言う人が大半なのですが、あえて「人生のミッション」として考えてもらうのです。

 ミッションの語源はキリスト教にあり、「神から与えられた使命」ということ。キリスト教系の学校を日本では「ミッションスクール」と呼んでいます。ミッションという言葉は、企業経営でもよく使われていて、その場合は「社会的使命」と訳します。我々の会社や事業は「なぜ世の中に存在しているのか」という社会的な存在価値のこと。昨今、注目される「パーパス経営」でいう「パーパス」もほぼ同じ意味になります。

 人生でも同じで、「人生のミッション」とは、「自分はなぜ、この世の中に生まれてきたのか」、つまり世の中に存在する意味を自らに問うことなのです。

 いきなり「人生のミッション」を問いかけられても戸惑う人が大半です。そこで、考えるヒントとして、幸福学の「幸せの4つの因子」の2番目である「ありがとう!」因子(つながりと感謝の因子)を手掛かりに、これまでの人生で感謝した人や経験を振り返ってもらい、そこから自らの「人生のミッション」を考えてもらいます。

 図表4-1のシートを使って、仕事面・生活面・その他に分けて、右列の「感謝すべき人・経験など」から記入し、「優先度」を評価したうえで、「自らの『使命』」を言語化してもらいます。ここでアウトプットした「人生のミッション」をライフワークとして、生涯現役・生涯貢献のライフスタイルで日々を過ごすことが幸福度の高いライフプラン(人生設計)になるのではないかと思います。


図表4-1 自らの「使命」と感謝すべき人・経験


 以上で、4回連載「最近の中高年社員向け研修の動向とその背景」は終了になります。

 最後に、前野隆司教授の著書『99.9%は幸せの素人』(星渉・前野隆司 共著・KADOKAWA)に掲載されていた「IKIGAIベン図」(図表4-2)を紹介します。図表4-2で4つのことが重なるものが「IKIGAI(生きがい)」で、これをライフワークとして生涯現役・生涯貢献で活動するのが幸せなライフプラン(人生設計)ということです。サードキャリアの活動は、ここに集約されるのかも知れません。
人生とは「時間配分」の積み重ねであり、どんな「時間の使い方」をしていくのかが人生そのものと言えるでしょう。


図表4-2 IKIGAI ベン図

【参考文献】
『幸せのメカニズム 実践・幸福学入門』(前野隆司著・講談社現代新書)
『99.9%は幸せの素人』(星渉・前野隆司 共著・KADOKAWA)
『12000冊のビジネス書を読んで試した経営コンサルが名著100冊から「すごい時間のつかい方」を
 抜き出して1冊にまとめました』(大杉潤著・WAVE出版)

【筆者 大杉潤氏 プロフィール】

 1958年東京都生まれ。フリーの研修講師、経営コンサルタント、ビジネス書作家。
早稲田大学政治経済学部を卒業、日本興業銀行(現みずほフィナンシャルグループ)に
22年間勤務したのち東京都庁に転職して新銀行東京の創業メンバーに。
人材関連会社、グローバル製造業の人事・経営企画の責任者を経て、2015年に独立起業。
年間300冊以上のビジネス書を新入社員時代から40年間読み続け累計1万2000冊以上
を読破して、3400冊以上の書評をブログに書いて公開している。
著書には、『定年ひとり起業』シリーズ3部作(自由国民社)、『定年後不安』(角川新書)、『50代 お金の不安がなくなる副業術』(エムディエヌコーポレーション)などがある。



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