ミドルシニアの羅針盤レター2024#6
  ミドルシニアの羅針盤レター 2024#6


第2回: キャリアプランは「自営型」シフト

 研修講師、経営コンサルタント、そしてビジネス書作家でもある大杉潤氏による第2回目のお話は、キャリアプランは「自営型」シフト についてです。

 第1回では、中高年向け社員研修が、これまでの「ソフトランディング型」研修から、中高年社員の積極活用を志向した「再活性化型」研修へ転換していることを示しました。その背景として、人生100年時代を迎え、「長く働くこと」を目指す会社員が増えてきて、会社もその支援を積極的に行うようになってきたことを「3つの要因」から説明しました。

 第2回から第4回では、「長く働くこと」を志向する中高年社員向け研修は実際にどのようなプログラムで実施されているのかを見ていきます。私が中高年社員向けに行っている「50代向けライフキャリア研修」(名称は、キャリアデザイン研修、リフレッシュ研修などさまざま)をベースに最新プログラムを、3回に分けて紹介・解説していきます。

 プログラムの柱は以下の3つからなり、それぞれ第2回、第3回、第4回において具体的な内容とその狙いについて説明していきます。

1. キャリアプラン ~ トリプルキャリアと「自営型」シフト 【第2回】
2. マネープラン ~ 「WPP」と戦略的な準備       【第3回】
3. ライフプラン ~ 「幸福学」と人生のミッション     【第4回】

第2回の今回は「キャリアプラン」についてです。

定年後の働き方「4つの選択肢」
  一般的に60歳定年後の選択肢は以下の4つと言われています。

1. 定年再雇用
2. 出向・転籍
3. 転職
4. 独立・起業

 このうち、8割以上の会社員は1番目の定年再雇用を選択し、大企業では9割以上と言われています。再雇用は一見リスクがなさそうに見えますが、65歳以降も「長く働く」というライフスタイルを目指す場合、65歳のときに取れる選択肢が狭くなり、実はリスクが大きいとも言えます。

 一方で、4番目の独立・起業はハードルも高く最もリスクが大きく感じられます。しかし今後は企業が70歳までの就業機会を確保する観点から、雇用にはこだわらず「業務委託契約」を締結する形で会社員の起業を支援する流れも出てくるものと思われ、意外にリスクが少ないかも知れません。「65歳以降の人生が長い」ということをベースとした人生の全体像から、60歳以降の働き方やキャリアプランを組み立てる時代になってきたのです。

長く働くための「トリプルキャリア」という考え方
  私の行う研修では、長く働くために、働く期間を3つに分けて考える「トリプルキャリア」という考え方を紹介しています。次の3つに区分します。

1. ファーストキャリア: 会社員として「雇われる働き方」
2. セカンドキャリア: 定年のない「雇われない働き方」
3. サードキャリア: ライフワークに絞り込む「理想の働き方」

 それぞれ「65歳の壁」、「75歳の壁」という年齢の壁を迎えるまでに、ファーストキャリアからセカンドキャリアへ、セカンドキャリアからサードキャリアへ、働き方を戦略的に変えていくのです。「65歳の壁」とは完全定年の壁で、これを越えて「雇われる働き方」では働き続けることが難しくなります。「75歳の壁」は体力・健康面の壁で、それまでと同じフルタイムでの働き方は難しくなります。
そうした年齢による壁はあらかじめわかっているので、そこに備えて50代のうちから計画的に準備をしていくのが「トリプルキャリア」という考え方です。

 コツは、人生の最期まで続けたいサードキャリアでの活動、すなわちライフワークを先に決めること。そこから逆算して(バックキャスティングで)セカンドキャリアとしてどんな仕事をするかを決め、そのための準備としてファーストキャリアの50代にはどんな働き方をしていくのかを戦略的に考えていくのです。(図表2-1参照)


図表2-1 人生100年時代のトリプルキャリア

人生とキャリアの棚卸しで、「好き」や「強み」を再発見する

 雇われない働き方のセカンドキャリアへ移行して長く働き続けるには、自分の「好き」や「強み」を明らかにして、それを組み合わせることが必要になります。できれば3つ以上の個性や専門性を組み合わせることで「オンリーワンの存在」になることを目指すのです。

 研修では、生まれてから現在までの人生とキャリアを棚卸しして、その時々の「人生満足度」を数値化してグラフに描いてもらいます。さらに、エドガー・シャインが提唱するキャリア・アンカーの「動機」「コンピタンス」「価値観」というフレームを、そのベースとなるキャリアプランニングの3つの視点「Will(したい)」「Can(できる)」「Must(すべき)」に対応させて、3つが重なるコンセプトを内省してもらうのです。(図表2-2参照)


図表2-2 キャリア・アンカーを明確にする


 そうした個人での思考、言語化を通して、サードキャリアでのライフワークにつながる活動のイメージを考えてもらいます。将来のキャリアを自ら描くという時間をもって、同世代の仲間とアウトプットし合うのは貴重な体験になります。
グループ演習による意見交換・情報交換を経て、50代からは会社の中で、メンバーシップ型でもジョブ型でもない、「自営型」の働き方をすべきではないかと考える人が多くなり、キャリア自律につながっていくのです。

【参考文献】
『「自営型」で働く時代』(太田肇著・プレジデント社)
『定年ひとり起業』(大杉潤著・自由国民社)
『定年後不安』(大杉潤著・角川新書)

【筆者 大杉潤氏 プロフィール】

 1958年東京都生まれ。フリーの研修講師、経営コンサルタント、ビジネス書作家。
早稲田大学政治経済学部を卒業、日本興業銀行(現みずほフィナンシャルグループ)に
22年間勤務したのち東京都庁に転職して新銀行東京の創業メンバーに。
人材関連会社、グローバル製造業の人事・経営企画の責任者を経て、2015年に独立起業。
年間300冊以上のビジネス書を新入社員時代から40年間読み続け累計1万2000冊以上を読破して、3400冊以上の書評をブログに書いて公開している。
著書には、『定年ひとり起業』シリーズ3部作(自由国民社)、『定年後不安』(角川新書)、『50代 お金の不安がなくなる副業術』(エムディエヌコーポレーション)などがある。



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