ミドルシニアの羅針盤レター2024#5
  ミドルシニアの羅針盤レター 2024#5


第1回: 「長く働くライフスタイル」を目指す背景

 本号から新しいテーマになります。4回にわたり、研修講師、経営コンサルタント、そしてビジネス書作家でもある大杉潤氏より、最近の中高年社員向け研修の動向とその背景について語っていただきます。1回目は、 「長く働くライフスタイル」を目指す背景です。

 中高年向け社員研修が今、大きく変わり始めています。これまでの「ソフトランディング型」研修から、中高年社員の積極活用を意図した「再活性化型」研修への転換です。
研修受講後の目指す姿は、自ら内省を深めて情報収集や「学び直し」の行動を起こすこと。自らキャリアや人生を設計する中で、自発的なリスキリングによって長く会社に貢献しようというモチベーションアップやキャリア自律を果たしていく姿です。
その背景として、人生100年時代を迎え、「長く働き続ける」会社員が増えてきて、会社もその支援を積極的に行うようになってきたことがあります。
第1回では、「長く働くこと」を目指す背景を3つに分けて説明していきます。

「働き手不足1,100万人」の衝撃【経済要因】
 会社員が定年後も長く働き続ける第1の背景は、経済要因です。2027年から生産年齢人口(15~64歳)が本格的に減少し始めます。働き手不足が拡大し、2040年には1,100万人もの不足が生じるという衝撃的な予測があります。リクルートワークス研究所によるレポート「未来予測2040 労働供給制約社会がやってくる」(2023)で発表された数字で、その根拠は、国勢調査や国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(平成29年推計)」の中位推計をベースにした人口推移の予測です。(図表1―1、1-2参照)


図表1-1 15~64歳人口と65歳以上人口の推移



図表1-2 労働需給シミュレーション


 働き手とされる生産年齢人口の減少が加速していく一方、65歳以上の高齢者人口は横ばいから微増となって生活維持サービスの需要はむしろ拡大するため、輸送・運搬(ドライバー)、建設、販売、介護、医療などの生活サービスを担う働き手(エッセンシャルワーカー)が大幅に不足するのです。2024年現在でもドライバーや介護分野での高齢化と人材不足は明らかですが、2027年からは不足人数が急拡大します。

 こうした状況下で、元気な高齢者に対する労働需要は増加し、働き手として強い期待が続くものと考えられます。

年金財政の逼迫が加速化【財政要因】
 第2の背景が財政要因です。先ほど述べた人口構成の推移により、年金保険料を支払う現役世代と年金受給者である高齢者のバランスが更にいびつになっていくことから、年金の受給金額は下がっていくでしょう。正確に言えば、これからはインフレによって名目金額は上がっていくでしょうが、物価上昇率ほどには上がらないということになります。年金制度自体に「マクロ経済スライド」という仕組みがビルトインされていて、物価上昇率より少ない年金額上昇率にすることで、人口構成のゆがみを調整していく仕組みになっているからです。

 したがって、年金生活者の購買力は年々、下がっていくことになり、おのずと年金をもらいながら働いて生活費不足分を補うというライフスタイルが一般的になっていくでしょう。

健康面でも「働き続けるメリット」が大きい【身体要因】
 長く働き続ける3つ目の背景が身体要因です。高齢者の就業率トップの長野県の平均寿命が全国的に高いことをはじめ、世界的にも「健康長寿の人には長く働き続けている人が多い」という調査・研究が数多くあります。

 「健康だから働いている」と解釈する人も多いのですが、私は逆だと考えていて、「働き続けているから健康なのだ」と思うのです。働いてお金を稼ぐには、規則正しい生活を続け、緊張感を持って日々を過ごし、仕事の関係で人との会話や交流があって孤独を感じることは少ない傾向です。無理のない働き方であれば、心身の健康に「働くこと」は大きなメリットになるでしょう。最大の予防医療は「働くこと」と提唱している医学の専門家も多いのです。(拙著『定年ひとり起業 生き方編』を参照)

 以上の3つの背景、すなわち「経済要因」「財政要因」「身体要因」から、今後ますます「長く働き続ける」というライフスタイルが増えていくでしょう。ただし、働き方は多様化していくものと思われます。2021年4月に施行された「改正高年齢者雇用安定法」では、雇用という形態にはこだわらず、「70歳までの就業機会の確保」を大企業の努力義務として定めています。その大企業の中でも対応している企業はまだ3割程度と言われていますが、今後は中小企業も含めて多くの企業で、「長く働くライフスタイル」を支援する取り組みがなされていくでしょう。

【参考文献・資料】
『「働き手不足1100万人」の衝撃』(古屋星斗ほか著・プレジデント社)
2024年2月18日付日本経済新聞朝刊記事「70歳以降も働く、最多39% 将来不安「経済」が7割」
『定年ひとり起業 生き方編』(大杉潤著・自由国民社)

【筆者 大杉潤氏 プロフィール】

 1958年東京都生まれ。フリーの研修講師、経営コンサルタント、ビジネス書作家。
早稲田大学政治経済学部を卒業、日本興業銀行(現みずほフィナンシャルグループ)に
22年間勤務したのち東京都庁に転職して新銀行東京の創業メンバーに。
人材関連会社、グローバル製造業の人事・経営企画の責任者を経て、2015年に独立起業。
年間300冊以上のビジネス書を新入社員時代から40年間読み続け累計1万2000冊以上を読破して、3400冊以上の書評をブログに書いて公開している。
著書には、『定年ひとり起業』シリーズ3部作(自由国民社)、『定年後不安』(角川新書)、『50代 お金の不安がなくなる副業術』(エムディエヌコーポレーション)などがある。



当メールマガジンは一般社団法人定年後研究所が総合監修し、配信運営は株式会社星和ビジネスリンクが行っております。