ミドルシニアの羅針盤レター 2024#4 |
第4回 定年延長を進めるうえで考えるべきこと
定年制の機能変化を理解すること しかし、それには多くの誤解があり、再雇用と定年延長・定年廃止(以下では「定年延長等」と呼ぶ)は何が異なるのか、定年延長等を進める意味とは何かを改めて考えてみる必要がある。定年延長等に取り組む企業が増えているので、今回は連載の最後として、この点について考えてみたい。 まず重要なことは、希望者全員を65歳まで雇用することが法律で義務づけられているので、企業はすでに「実質65歳定年制」時代にあること、そのなかで現状の60歳定年制はこれまでとは異なる定年制に変質していることを理解することである。 定年制の主要な機能は、定年年齢を理由に一律に社員との雇用関係を終わらせる雇用終了機能であるが、現行の60歳定年制はすでに「実質65歳定年制」のなかで雇用終了機能を喪失している。しかし他方では、多くのシニア社員が定年を契機にキャリアと役割を見直していることから分かるように、定年制はキャリア・役割の転換を促進する機能を果たすようになっている。 定年延長等にどう対応するかについては、この60歳定年制の機能変化を踏まえて考える必要があり、特に以下の2つのポイントに注意してほしい。
キャリア・役割転換の装置をどう作るのか この点から現状をみると、上記のように60歳定年制がその転換を促進する装置として機能している。キャリア・役割をどう転換するかは個々の社員の状況によって異なり、ある人は転換が必要ないかもしれないし、ある人は大きく転換する必要があるかもしれない。それにもかかわらず定年を契機に一律に役割・キャリアを見直すという対応は、定年がもともと働き方や生き方の転換を生む重要なイベントであるため、社員の納得を得やすい方法であるうえに、キャリア・役割を見直す苦しい作業に踏み出すようにシニア社員の背中を押すという点で効果的な方法である。 それを踏まえたうえで定年延長等を選択するのであれば、60歳定年制に代わる、キャリアと役割の転換を促進する装置を新たに構築する必要がある。しかも、キャリア・役割転換はもともと、企業にとってはシニア社員の納得を得ることが難しく、シニア社員にとっては苦しい作業であるので、その装置は強力なものとして作られる必要がある。 核心は「型」より人事管理のコンテンツ 定年延長等はシニア社員を戦力化する切り札であると考える風潮が強いように思うが、定年延長等をとってもシニア社員を戦力化できていない会社もあるし、再雇用であっても戦力化できている会社もある。つまり問題の核心は再雇用、定年延長等のどちらを選択するかではなく、シニア社員を戦力化する配置、処遇等の人事管理をどう構築するかである。 このことは次のように言い換えることができる。65歳まで雇用する制度的な「箱」はすでに出来あがっており、「箱」には再雇用型と定年延長等型の2つのタイプがある。このことを前提にシニア社員の人事管理を考えるにあたって大切なことは、定年延長等型が再雇用型より優れているという原則も、あるいはその逆の原則もなく、いま問われていることは、「箱」の中に盛り込むコンテンツである。 つまり、シニア社員の人事管理の検討は再雇用型にするか定年延長等型にするかを決めるという点から入らないでほしい。シニア社員の役割・キャリア転換を円滑に進め、シニア社員を戦力化するにはどのような人事管理をとるべきかを自社の事情に沿って考え、そのうえで、人事管理を効果的に運用するには再雇用型、定年延長等型のどちらの「箱」が望ましいかを考え選択する、というアプローチをとってほしい。
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