ミドルシニアの羅針盤レター
  ミドルシニアの羅針盤レター 2024#2

第2回 シニア社員の人事管理の方向

 学習院大学今野名誉教授による第2回のお話は、シニア社員の人事管理の考え方です。シニア社員(企業で働く60歳以上の高齢者)の仕事、賃金の考え方についてお話いただきます。

仕事の決め方は「需要サイド型」に
 前回は、企業はシニア社員を戦力化する「覚悟」を、シニア社員は職場の戦力として働く「覚悟」を持つことが、シニア社員が活躍する働く場を作るうえでの出発点であることを強調した。それでは企業はシニア社員を戦力化するために、どのような人事管理をするべきなのか。今回は、この点を多くの企業がとる「60歳定年+再雇用」を前提に考えてみたい。

 まずはシニア社員の仕事の決め方である。これまでは、どちらかというと、会社が「シニア社員がいるので、それに合った仕事を探す(あるいは作る)」という、労働サービスを提供するシニア社員に仕事を合わせる「供給サイド型」の方法をとる傾向が強かった。しかし、これではシニア社員が職場から必要な人材として受け入れられ、戦力として働くことは難しい。そこで、これからは「業務ニーズを満たす人材をシニア社員から探す」という、人材に対する需要に焦点を当てる「需要サイド型」の方法をとる必要がある。

 そのためには、シニア社員に担ってほしい業務(つまり、シニア社員に対する人材ニーズ)を明確にする必要がある。更にシニア社員は、こうした人材ニーズをみて職場にどう貢献するかを考え、自分を売り込むことが求められる。

 では、どうするのか。職場の管理者が人事部門の支援を得ながら、職場の人材ニーズとシニア社員の事情を個別的に考えて対応するという方法が中心になるが、シニア社員が増える、シニア社員の戦力化の要請が強まる、職場を超えて仕事につくシニア社員が多くなる等の状況が進むと、何らかの制度的な対応が必要になろう。職場の「この仕事につく人材がほしい」という求人情報と、シニア社員の「この仕事で働きたい」という求職情報を社内から集め、人事部門等が社内ハローワーク的機能を果たして両者のマッチングをはかる、シニア社員版の社内公募制がその有力な制度になろう。

●シニア社員の賃金の2つの原則
 次の賃金の決め方は、シニア社員がどのような特性を持つ社員であるかに規定される。定年(60歳)前の社員(以下では定年前社員と呼ぶ)は、長期にわたって雇用することを前提に、将来の貢献を期待して育てて活用する長期雇用型社員である。それに対してシニア社員は、現状では60歳から65歳までの短い期間で働くことが想定されている。そうなると、シニア社員は育成しながら働いてもらう社員にはならず、いまの成果を期待して、いまの能力をもって働いてもらう短期雇用型社員の特性を持つ。それに合わせてシニア社員の賃金は、担当する「仕事の重要度」に基づいて決めることが合理的であり、このことを「仕事原則」と呼ぶことにする。

 シニア社員のもう一つの特性は、業務ニーズに合わせて働く時間、働く場所を柔軟に変える定年前社員と異なり、働く時間、働く場所が制約的になるということである。この働き方の制約度の違いに合わせて、シニア社員の賃金は仕事が同じであっても定年前社員より低く設定される必要がある。これを「制約配慮原則」と呼ぶことにする。

 シニア社員の賃金は、この「仕事原則」と「制約配慮原則」に基づいて決定される必要があり、これらの原則に基づいて定年を契機に賃金がどう変わるかをみると図表になる。

●「シニア社員の賃金の決まり方
 まず、定年前の賃金が成果主義型賃金をとる場合について考えてみる。ここでは定年時の賃金は仕事と成果によって決まるので図表の「仕事・成果に対応する部分」になる。そのうえで定年後の仕事が定年前と変わらないとすると(図表の【現職継続の場合】)、シニア社員の賃金は「仕事原則」にしたがって定年前と同じ水準になるが、「制約配慮原則」にしたがって働き方の制約度の変化に対応する「制約化部分」だけ低くなる。したがって、シニア社員の賃金は「定年前賃金-制約化部分」になる。

 しかし現状をみると、多くのシニア社員は定年前と同じ分野の仕事についたとしても職責が低下する「仕事が変わる場合」に当たる。この場合の賃金は、「仕事原則」にしたがって「仕事の重要度」の低下に合わせて「仕事変化部分」だけ低下する。更に「現職継続の場合」と同様に「制約配慮原則」が適用されるので、シニア社員の賃金は「定年前賃金-制約化部分-仕事変化部分」になる。

 次に定年前の賃金が年功賃金の場合を考えてみる。賃金の決め方の基本は成果主義型賃金と同じであるが、図表に示したように、「仕事変化部分」、「制約化部分」に加えて「後払い部分」を考慮する必要がある。つまり定年時の賃金が仕事・成果を上まわるので、シニア社員の賃金を決める際には、この上まわる部分に当たる「後払い部分」を控除する。したがってシニア社員の賃金は、「現職継続の場合」では「定年前賃金-後払い部分-制約化部分」、「仕事が変わる場合」では「定年前賃金-後払い部分-制約化部分-仕事変化部分」になる。


シニア社員の賃金の決め方

【筆者プロフィール】
今野 浩一郎氏
 1946年生まれ。1973年東京工業大学大学院理工学研究科(経営工学専攻)修士課程修了。神奈川大学、東京学芸大学を経て学習院大学教授。現在は学習院大学名誉教授、学習院さくらアカデミー長。著書には『マネジメントテキスト―人事管理入門』(日本経済新聞出版社)、『正社員消滅時代の人事改革』(日本経済新聞出版社)、『高齢社員の人事管理』(中央経済社)、『同一労働同一賃金を活かす人事管理』(日本経済新聞出版)等がある。


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