ミドルシニアの羅針盤レター 2024#1 |
第1回 求められる「覚悟」
●高齢者をめぐる労働市場 まずはシニア社員が企業にとってどの程度重要な存在であるかを確認する必要がある。わが国の労働市場は当面、労働力人口のほぼ5人に1人が60歳以上という状況にある。このように高齢者が大きな労働者集団として登場した背景には、少子高齢化のなかで高齢者が増えているうえに、高齢者の労働力率が高いことがある。 わが国はもともと高齢者の労働力率の高い国であるが、ここにきて労働力率が確実に増加している。図表高齢者(男性)の労働力率の推移をみると、労働力率は21世紀に入るまで長期にわたって一貫して低下している。その背景には、年齢に関わりなく働く自営の人たちが減少したことと、年金の充実等を背景に「高齢者になれば働くことから引退する」が雇用社会に広く浸透したことがある。しかし、その後の推移をみると、年金支給開始年齢が65歳まで延び60歳を超えても働かざるを得ない高齢者が増えたことを背景に、高齢者の労働力率は一貫して上昇し、「高齢者になっても働き続ける」ことが働く人のなかで普通のことになってきている。 こうした労働市場の状況は企業の平均的な姿を表しているので、わが国企業は「社員の5人に1人がシニア社員」の時代を迎えていることになる。この大きな社員集団化したシニア社員が労働意欲の低い社員集団になれば、その経営に及ぼす影響は余りにも深刻である。そうなれば企業はシニア社員を戦力化することに踏み出さなければならないし、シニア社員は引退気分で働くことは許されず、職場の戦力として働くことが求められる。
●シニア社員の人事管理の現状 この点を「何の仕事」に従事して「何時間」「どこで」、働くのかという労働給付の面と、働きぶりを「どう評価して」「どう賃金を払うのか」という反対給付の面から整理すると、概ね次のようになる。 まず労働給付については、「何の仕事」は、定年前と同じ分野の仕事に従事するが職責は低下する、「何時間」は、定年前と変わらずフルタイムで働くが、残業等が少なくなり労働時間の限定性は高まる、「どこで」は、転勤や出張が少なくなり働く場所の限定性は高まる。 反対給付については、評価は行わず、賃金は定年時から一律に下げ、その後の昇給はないとする企業が少なくない。この対応をみると企業は、いかに頑張って働いても評価されないし、賃金に反映されることもない、つまり貢献を期待することなくシニア社員を雇用する「福祉的雇用」と呼ぶにふさわしい人事管理をとってきたことが分かる。 60歳以降の雇用確保が法律で義務付けられていることが背景にあるとは思うが、これではシニア社員からすれば意欲をもって働く気になれないし、企業からすればシニア社員を戦力化して経営成果をあげることにはならない。 ●「覚悟」が全ての出発点 「働く」の本来の姿は、働く意欲があって、必要とされる仕事があれば年齢と関係なく実現するはずである。それにも関わらず「高齢者になっても働き続ける」ことがここにきて大きな問題になるのは、「高齢者になれば働くことから引退する」が長く雇用社会の常識であったからである。「高齢者になっても働き続ける」ことは「働く」の本来の姿に近づく動きといえるのかもしれないのである。
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