中高年社員のワーク・モチベーションを高めるために必要なこと
会社の成長には中高年社員のエンゲージメント向上が不可欠
中高年層に向けたキャリア研修の必要性について語る木暮淳子氏の連載2回目。今回は、「会社の成長には中高年社員のエンゲージメント向上が不可欠」をテーマにお話しいただきます。 |
従業員の意欲や満足度、仕事への参画意識を重視する従業員エンゲージメントという概念が注目されています。これは会社の目指す方向を従業員がきちんと理解・共感し、その組織に誇りや愛着を持って能力を発揮できる状態を作るための経営手法のひとつであり、単に従業員満足度を高めて社員を組織につなぎとめることではありません。
元々、組織心理学や経営学の研究、企業実践の中から派生してきたもので、近年同様に注目されている「パーパス」を中心に据えた企業経営とシンクロさせながら日本企業でも広がりを見せています。
高い従業員エンゲージメントがある組織は、(1)業績向上 (2)モチベーション向上 (3)よい雰囲気の職場づくり (4)顧客満足度向上 (5)離職率低下 がみられると言われているのは、ご承知のとおりです。
しかし、従業員エンゲージメントを高めて自律的で活力のある組織をつくろうという活動を推進していくうえでは、ワーク・モチベーションが低下した中高年社員がチームにいることはマイナスの影響をもたらしかねません。
中高年社員も巻き込みながら高エンゲージメント・チームを作る必要性
筆者がキャリアコンサルティングを実施しているある中堅イベント会社では、新社長(48歳)が、バブル前入社の高年齢社員が70%を占める組織において、若手社員の離職が続く現状に危機感を募らせていました。知識も経験も豊富な中高年社員が仕事の要諦を押さえてくれるのはありがたいが、「定年まであと○年」と唱える高年齢社員のワーク・モチベーションの低下が、若手によくない影響を与えているというのです。
よく聞く事例ですが、人手不足の中、貴重な若手社員が「辞めてしまう」、あるいは「やる気を失ってしまう」状況というのは大きな損失です。中堅企業にとっては、配置転換や新規採用で打つ手は限られています。また、大企業であっても80年代に揶揄されたような「窓際族」を維持していく余裕はもはやないでしょう。あらゆるチームのリーダーは、中高年社員も巻き込みながら高エンゲージメント・チームを作り上げ、目標達成に向けてマネジメントを推進していかなければならない、そんな時代となっているのです。
エンゲージメント調査の質問文から透けて見える理想のチームの姿
2019年に米国のコンサルティングファームであるADPリサーチ・インスティチュートが、世界1万9千人の勤労者に対して8つの質問文(表1)を使って、従業員エンゲージメントの大規模調査を実施しました。これらの質問の答えに肯定的な評価をした回答者が多ければ、その組織は従業員エンゲージメントが高い組織と言うことができます。
この8つの質問文から、従業員エンゲージメントが高い職場では、従業員がその会社で働くことを心から喜び、メンバー同士がお互いの価値観を認めて信頼し合っていて、それぞれの強みを活かしながら仕事を遂行している様子や、困ったときにはサッとサポートを申し出てくれる仲間が隣にいる安心を感じることができる。そんな職場風景が透けて見えてきます。
同調査の分析では、高エンゲージメントの組織をつくるためには、年齢に関わらず「孤独な仕事」ではなく、いかに一緒に仕事をする同僚との関係を作るか、そして、その同僚と質の高いやり取りができるかといった「チームづくり」の重要性を主張しています。大小を問わず会社組織は、意思決定の連続体でもあります。不確実性が高い経営環境では、謙虚に叡智を結集する必要があります。そのため、リーダーはチームを信頼し、働ける環境を整えていく必要があるのです。
45歳以上64歳以下の雇用者数が雇用者全体の約43%(表2 総務省統計局「労働力調査」2022)に達している現状を踏まえると、中高年社員にもその能力を最大限発揮してもらうことが求められています。エンゲージメントの向上を図るため、チームの一員として中高年社員をオープンマインドで迎え入れ、個を尊重する雰囲気づくりが必要となっています。その際に、とりわけ重要になるのが、個に寄り添ってくれるリーダーの存在です。社員が直面している課題を理解し、社員のウェルビーイングに気を配ってくれるような伴走型のリーダーシップが求められています。
組織全体で中高年社員の役割を捉え直す
「インポスター症候群(Impostor Syndrome)」をご存じでしょうか。これは「自分の成功や地位、あるいは自分の本当の実力を、外的な理由から周囲が過大評価している」と考えてしまう傾向のことです。そして、多くのリーダーが孤独になる要因のひとつに、「インポスター症候群」があると考えられています。筆者もこのようなリーダーに多く接します。
仮に、リーダーがインポスター症候群に苦しんでいると仮定すると、これを支えていく人材が必要になります。この役割は、勿論、リーダーの上長に求められますが、中高年の方々にも、リーダーを支える役割としての期待が大きいのです。
事例にあげたイベント会社の社長は、中高年社員の活躍の場として、若手から中堅、およびリーダーのサポート役としての役割を担ってもらうことにしたそうです。豊富な経験を振り返り、「自分もそうだった」と気づくことで、リーダーを支えることができるのです。業務遂行のみならず、チームメンバーの一人ひとりをケアしながらマネジメントを実施する現場リーダーには、大きな負担がかかってきます。一人のリーダーが孤高にそびえるのではなく、チームでマネジメントを推進できてこそ、組織の力が向上します。
中高年社員のワーク・エンゲージメントを引き出すキャリア研修の意義
中高年社員のワーク・エンゲージメントを向上させるためのキャリア研修では、これからの職業人生を生きていくうえで、自身の感情に気づき、それをコントロールすることを学ぶこともひとつの目標です。「もう自分は終わりに近づいている」のではなく、「まだまだできることがある」と捉え直しをすることが必要なのです。もしかしたら、負の感情が自分の内面から湧いて来るかもしれません。例えば、同期が高い地位にいたり、社会で華々しく活躍していれば、「なぜ自分だけこのような境遇にあるのか」と考えてしまうこともあるかもしれません。しかし、「なぜ自分がそんな感情に振り回されるのか」
「なぜ他人と比較してしまうのか」「自分とは何者か」等について冷静に捉え直し、認知のあり方を前進する方向に変えることができれば、その感情に振り回されなくなります。キャリア研修で、「自分はどのような未来を恐れているのか」といった本質の議論に向き合い、自分を外からみつめる機会をもつことで、様々な不安、恐れといった感情は急速に影響力を失います。その機会としてキャリア研修を活用し、自分のこれからの人生について前向きに考えていただければ、それは非常に意義深いものとなり、単なる仕事やキャリアの探索に留まらず、生きるうえでの自信にもなっていきます。
(参考文献)
・『ダイヤモンド ハーバード・ビジネスレビュー』 2019年11月号:「チームの力が従業員エンゲージメントを高める」M.バッキンガム、A.グッドール著
・「労働力調査」(2022) 総務省統計局 年齢階級別雇用者数(5歳階級)
【筆者プロフィール】 一般社団法人ソシエトス 代表理事 木暮淳子 外資系食品メーカーのマーケティング、法人営業を担当し、英国勤務を経て2001年退職。 その後も外資系企業の新規事業開拓責任者、企業再生等の仕事に従事する。 2008年よりコンサルティング会社にて人材開発・組織開発を担当し、2016年に一般社団 法人ソシエトス設立。理事にわが国のキャリア形成支援第一人者で数多くの著書を持つ 筑波大学名誉教授・渡辺三枝子先生を迎え、個に寄り添ったミドルシニアのキャリア形成 を支援している。 現在、ライフ・キャリア開発研修を軸に、都市圏ミドルシニアの活躍の場として地方創生とマッチングする活動や、1on1キャリアコンサルティングで活躍中。 |
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