中高年社員のワーク・モチベーションを高めるために必要なこと
本号から3回にわたり、一般社団法人ソシエトスの代表理事であり、キャリアコンサルタント・研修講師としても活躍されている木暮淳子氏から、中高年層に向けたキャリア研修の必要性についてお話しいただきます。 1回目となる今回のテーマは「中高年社員のワーク・モチベーションを高めるために必要なこと」です。 |
人手不足が叫ばれる昨今、在籍する社員それぞれが年齢や性別等にかかわらず個人の能力を最大限に発揮し、戦力として活躍できる職場をつくることは、企業経営にとって大きなテーマのひとつであるといえるでしょう。
しかし、現実はワーク・モチベーションを下げてしまった社員も多く散見され、企業の経営者や人事の方からは、「一度下がってしまった中高年社員のワーク・モチベーションを上げることができるのか」「そのためには何をすべきか」と質問を受けることもしばしばあります。
「やる気」の低下は40代の早い時期から起きている
中高年社員が活力を失う状況があります。例えば、「仕事上の責任が与えられない」「期待されていない」といった、“挑戦への領域”が失われた場合や、「現在の職位以上の昇進可能性が非常に低い」といったキャリア上の行き詰まりを感じる状態などです。
この活力の低下については、50代の役職定年者や、60歳以上の定年後再雇用者よりも、むしろ40~54歳の非管理職の方が仕事への意欲に課題があるという研究結果(石山(2021))もあり、40代の割と早い時期から「やる気」を失ってしまっている状況が存在していることがわかっています。
これまで50代社員のライフ・キャリア研修を担当してきた筆者は、最近依頼を受ける研修の対象年齢が下がってきていることを実感しています。昇進の可能性が低いと認識したり、成長を実感できない状態が長く続く、または周りから成果を期待されない状況は、役職定年期だけに引き起こされるのではなく、組織によっては40代から生じている場合もあるのです。それだけに、これらの人が早いタイミングからキャリア研修を通して、内省する必要性を強く感じています。
重要なことは「裁量度」と「人間関係の良し悪し」
ワーク・エンゲージメントとは、ご承知のとおり、“仕事上のやる気”に非常に関係がある概念で、近年「エンゲージメント経営」を採り入れる企業も増えてきています。
・仕事から活力を得て、生き生きしている。 「活力」がある。
・仕事に誇りとやりがいを感じている。 「熱意」を持つ。
・仕事に熱心に取り組んでいる。 「没頭」する時間がある。
これら3つがワーク・エンゲージメントと定義されています。職務満足感や、離転職意思の低下、役割外の自発的な行動などに肯定的な影響を与えることも知られています。
(独)労働政策研究・研修機構が実施した「人手不足等をめぐる現状と働き方等に関する調査(2019)」をもとに厚生労働省が作成した「令和元年版 労働経済の分析」によると、日本企業の正社員のワーク・エンゲージメントは、「年齢が高いほど」「職位・職責が高くなるほど」そのスコアは高いという調査結果がでています(図1)。わが国では、年齢が高いほど職位や職責が高い傾向にあり、職位が高まれば、自分で仕事をコントロールできる範囲が広がることや挑戦することが多いため、やりがいや成長実感が得られやすいからではないかと分析しています。
また、調査対象者に1年前との比較でワーク・エンゲージメントのスコアの違いを聞いたところ、特に、仕事における「裁量度」と「職場の人間関係の良し悪し」の変化がスコアに大きな影響を与えているということも同調査によって示唆されています。ある程度自分で仕事をコントロールできる立場であることと、良い人間関係の中で仕事ができることが「仕事上のやる気」を引き出していると考えられます。
この結果を見ると、中高年社員にいつかは訪れる「役職定年」などのポストオフは、ワーク・エンゲージメントの重要な要素のひとつであった「裁量度」が減少することを意味し、それがモチベーションの低下を生み出していることが容易に理解できます。「ポストオフ前後の気持ちの変化」について、リクルートマネジメントソリューションズ(2021)が実施したアンケート調査(n=766)によると、一度やる気が下がったとする人は6割近くにのぼり、その後も下がったままという人が4割前後(再浮上した人は2割前後)いるという結果が出ています。このことは、ポストオフを経験した、実に4分の1の人がやる気を失ったままという状況を示しており、結果として労働意欲の低い中高年社員層ができあがっているわけです。
自分を客観的に見るきっかけとなるキャリア研修
中高年社員のワーク・モチベーションの低下を食い止め、できるかぎり向上・維持させるためには何が必要なのか、近年盛んに研究が進められています。環境変化に合わせて常に能力を磨くリスキリングの努力が中高年社員に求められていると同時に、会社側も制度や風土に関する対応策を構築することが欠かせないでしょう。
筆者は中高年社員のワーク・モチベーションをいかに向上させるかという観点からの活動に取り組んできました。その中で、「キャリア研修」で、全てを解決することはできないが、効果的であるとの見解に至っています。その理由のひとつは、研修という場で、日常からいったん離れ、これからの人生について他者と共に考える時間を持つことが、自分を客観的に見つめる視野を得ることになり、そのことが深い内省の時間をもたらし、人生の位置づけや仕事の意味を深く認識することに繋がるからです。また、そうすることで、自分を落ち着かせることもできるようになります。仮に同期が高い地位に就いていても、もう比較することもなくなります。また、他者も同じ感覚であることを知れば、安心することもでき、前に向かって歩き出そうという意欲もわいてきます。これが内省する強みです。
ふたつめの理由は、こうした内省が自らのこれからの役割について、考えを深めることに繋がるということです。ある方は組織運営における知識力向上に役立とうと考えたり、若い人たちに技術を伝承していこうと考えたり、その会社で弱いとされている部分に積極的に関与して役に立とうと行動計画を立てるなど、期待役割を別の観点から見いだせるようになりました。中高年を対象としたキャリア研修では、現在のご自身の位置から、ある程度の方向性を見いだしていくことができるのです。
このように、中高年社員のワーク・モチベーションは、ご自身の内面をしっかりと認識することで向上可能だと捉えています。キャリア研修を受講した中高年社員がこれまでの経験を大切にしながら、他者と共に考え、年齢の枠も乗り越え、これからも組織で活躍し続けられる人材となることを期待しています。
(参考文献)
・石山(2021):「中高齢労働者によるジョブ・クラフティングの規定要因の解明」石山恒貴
・(独)労働政策研究・研修機構(2019):「人手不足等をめぐる現状と働き方等に関する調査」
・厚生労働省(2019):「令和元年版 労働経済の分析」
・リクルートマネジメントソリューションズ(2021):「ポストオフ・トランジションの促進要因-50~64歳のポストオフ経験者766名への実態調査」
【筆者プロフィール】 一般社団法人ソシエトス 代表理事 木暮淳子 外資系食品メーカーのマーケティング、法人営業を担当し、英国勤務を経て2001年退職。 その後も外資系企業の新規事業開拓責任者、企業再生等の仕事に従事する。 2008年よりコンサルティング会社にて人材開発・組織開発を担当し、2016年に一般社団 法人ソシエトス設立。理事にわが国のキャリア形成支援第一人者で数多くの著書を持つ 筑波大学名誉教授・渡辺三枝子先生を迎え、個に寄り添ったミドルシニアのキャリア形成 を支援している。 現在、ライフ・キャリア開発研修を軸に、都市圏ミドルシニアの活躍の場として地方創生とマッチングする活動や、1on1キャリアコンサルティングで活躍中。 |
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