ミドルシニアの羅針盤レター
  ミドルシニアの羅針盤レター 2024#1

第1回 求められる「覚悟」

 昨年度まで皆様にお届けしてまいりました「星和HRインフォメーション」は、今年度から「ミドルシニアの羅針盤レター」として生まれ変わります。配信運営は変わらず株式会社星和ビジネスリンクが行いますが、コンテンツについて、一般社団法人定年後研究所が総合監修を行います。併せて、配信を基本的に隔週にさせていただきます。引き続きご愛顧のほどお願い申しあげます。

新年度最初の企画として、本号から4回にわたり、学習院大学名誉教授の今野浩一郎氏より、シニア活躍のための視点について語っていただきます。
1回目は、企業、シニア社員双方に求められる覚悟です。

 

●高齢者をめぐる労働市場
わが国にとって、高齢者に働き手として活躍してもらうことは重要な課題であり、そのためには働く環境を整備する必要がある。今回の連載では、それに向かって企業は何を、高齢者は何をすべきかを考えてみたい。なお、一般的には60歳以上の高齢者が問題になっているので、以下では60歳以上を高齢者、企業で働く高齢者をシニア社員と呼ぶことにする。

まずはシニア社員が企業にとってどの程度重要な存在であるかを確認する必要がある。わが国の労働市場は当面、労働力人口のほぼ5人に1人が60歳以上という状況にある。このように高齢者が大きな労働者集団として登場した背景には、少子高齢化のなかで高齢者が増えているうえに、高齢者の労働力率が高いことがある。

わが国はもともと高齢者の労働力率の高い国であるが、ここにきて労働力率が確実に増加している。図表高齢者(男性)の労働力率の推移をみると、労働力率は21世紀に入るまで長期にわたって一貫して低下している。その背景には、年齢に関わりなく働く自営の人たちが減少したことと、年金の充実等を背景に「高齢者になれば働くことから引退する」が雇用社会に広く浸透したことがある。しかし、その後の推移をみると、年金支給開始年齢が65歳まで延び60歳を超えても働かざるを得ない高齢者が増えたことを背景に、高齢者の労働力率は一貫して上昇し、「高齢者になっても働き続ける」ことが働く人のなかで普通のことになってきている。

こうした労働市場の状況は企業の平均的な姿を表しているので、わが国企業は「社員の5人に1人がシニア社員」の時代を迎えていることになる。この大きな社員集団化したシニア社員が労働意欲の低い社員集団になれば、その経営に及ぼす影響は余りにも深刻である。そうなれば企業はシニア社員を戦力化することに踏み出さなければならないし、シニア社員は引退気分で働くことは許されず、職場の戦力として働くことが求められる。


高齢者(男性)の労働力率の推移

●シニア社員の人事管理の現状
 ではこうした状況に、企業はどのように対応してきたのか。高年齢者雇用安定法によって、希望者全員を65歳まで継続して雇用することが義務付けられるなかで、多くの企業は60歳定年後に再雇用するとの対応をとってきた。そのため多くの企業は、60歳定年までを正社員、それ以降のシニア社員を嘱託社員等の非正社員とし、両者に異なる人事管理を適用する「1国2制度型」の人事管理をとってきた。問題はその内容である。

この点を「何の仕事」に従事して「何時間」「どこで」、働くのかという労働給付の面と、働きぶりを「どう評価して」「どう賃金を払うのか」という反対給付の面から整理すると、概ね次のようになる。

まず労働給付については、「何の仕事」は、定年前と同じ分野の仕事に従事するが職責は低下する、「何時間」は、定年前と変わらずフルタイムで働くが、残業等が少なくなり労働時間の限定性は高まる、「どこで」は、転勤や出張が少なくなり働く場所の限定性は高まる。

反対給付については、評価は行わず、賃金は定年時から一律に下げ、その後の昇給はないとする企業が少なくない。この対応をみると企業は、いかに頑張って働いても評価されないし、賃金に反映されることもない、つまり貢献を期待することなくシニア社員を雇用する「福祉的雇用」と呼ぶにふさわしい人事管理をとってきたことが分かる。

60歳以降の雇用確保が法律で義務付けられていることが背景にあるとは思うが、これではシニア社員からすれば意欲をもって働く気になれないし、企業からすればシニア社員を戦力化して経営成果をあげることにはならない。

●「覚悟」が全ての出発点
 それでは、どうするのか。企業に求められることは、どのような施策をとるべきかを考える前に、まずはシニア社員を戦力として活用する「覚悟」を持つことである。いかに立派な施策を作っても、「覚悟」がなければ機能しない。またシニア社員も職場の戦力として働く「覚悟」を持つことが求められる。それは、60歳を超えても戦力として働くことを受け入れられないシニア社員が少なくないからである。企業にとってもシニア社員にとっても、「覚悟」を持つことが全ての出発点である。

「働く」の本来の姿は、働く意欲があって、必要とされる仕事があれば年齢と関係なく実現するはずである。それにも関わらず「高齢者になっても働き続ける」ことがここにきて大きな問題になるのは、「高齢者になれば働くことから引退する」が長く雇用社会の常識であったからである。「高齢者になっても働き続ける」ことは「働く」の本来の姿に近づく動きといえるのかもしれないのである。

【筆者プロフィール】
今野 浩一郎氏
1946年生まれ。1973年東京工業大学大学院理工学研究科(経営工学専攻)修士課程修了。神奈川大学、東京学芸大学を経て学習院大学教授。現在は学習院大学名誉教授、学習院さくらアカデミー長。著書には『マネジメントテキスト―人事管理入門』(日本経済新聞出版社)、『正社員消滅時代の人事改革』(日本経済新聞出版社)、『高齢社員の人事管理』(中央経済社)、『同一労働同一賃金を活かす人事管理』(日本経済新聞出版)等がある。

 


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