第4回 仕事のパフォーマンスアップのためのマインドフルネス
「星和 Career Next(公開セミナー)」本年度最後となる6回目では、人材育成と健康経営の両面から注目を集めている「マインドフルネス」の効果・効用と実践方法を、臨済宗建長寺派 林香寺 住職でRESM新横浜 睡眠・呼吸メディカルケアクリニック副院長の川野泰周氏よりご講演いただきました。 ご講演前から「星和HRインフォメーション(メールマガジン)」では川野氏の集中連載を配信中です。 4回目(最終回)は、ストレスが原因で発生する様々な心身の不具合の予防や治療に役立つマインドフルネスについて解説していただきます。 |
仕事に活かす「マインドフルネス」 マインドフルネスで心理的安全性を高める ■日 程:2023年2月22日(水) 13:30~15:00 ■開催方式:オンラインライブ配信(Zoom) ■講 師:第1部 川野泰周氏/第2部 古畑克明 ■定 員:300名 ■主 催:株式会社星和ビジネスリンク(東京都港区芝4-1-23 三田NNビル4F) |
2000年代に入ってから、GoogleやMeta(旧Facebook)など、アメリカのグローバル企業が従業員のパフォーマンスアップのためにマインドフルネスを取り入れ始めたことは、大きなインパクトを世界に与えました。その後も、シリコンバレーやウォールストリートなど、ビジネスの最前線にいるビジネスパーソンたちを中心に、マインドフルネスの考え方やメソッドは広がっていきました。
その背景には、IT企業でハードワークが常態化しているビジネスパーソンほど、脳を著しく疲労させている…ということがありました。
脳には、常に外から与えられる情報に反応しようと備える「デフォルト・モード・ネットワーク(以下、DMN)」という機能があります。創造力を働かせて新しいアイデアを生んだり、収集した情報に合わせて柔軟に判断するために、重要な機能といわれています。一方、このDMNの機能は「脳のアイドリング状態」ともいわれるように、スイッチが入っている間じゅう、脳はエネルギーを消費し続けることになります。
つまり、膨大な情報処理が必要なビジネスパーソンほど、このDMNを働かせ続けることになるため、過度な負担がかかり、脳のオーバーヒートを起こしやすくなるということです。すると、何が起こるのかというと、感情のコントロールができなくなったり、燃え尽き症候群やうつ症状を起こしたり――あるドイツの研究者は「うつ病患者の脳では、DMNが過剰になったまま収まらない傾向があり、それによって脳疲労を起こしている可能性がある」とも語っています。
そんな中で登場したマインドフルネスは、オーバーヒートした脳をクールダウンさせ、疲労を癒すものとして、注目を集めました。
呼吸瞑想などで「今、この瞬間」に意識を集中させることで、流れ込み続ける情報を一時遮断し、脳と精神を安らかにする。そうすることで脳がリフレッシュされ、集中力や思考力を取り戻し、パフォーマンスをアップさせることが期待されています。
実際に、マインドフルネスの呼吸瞑想が脳のパフォーマンスを高めることは、数々の研究で明らかになっています。
その一つが、自己コントロールや判断力の向上です。2014年、カナダのブリティッシュコロンビア大学とドイツのケムニッツ工科大学の研究チームが行った研究によると、20件以上の研究データをメタ解析したところ、マインドフルネスによって脳の「前帯状皮質(ACC)」と呼ばれる部位が活性化することが確認されました。
ACCは注意や行動、衝動のコントロールや判断力との関連が強い脳の部位です。また、学習した内容をもとに適切な判断をする力も司っています。
また、アメリカのマサチューセッツ総合病院とハーバードメディカルスクールが行った研究では、8週間のマインドフルネスプログラムを行うことで、海馬の灰白質(神経細胞の集合体)の密度が有意に増加することも確認されました。
脳の海馬は、記憶や学習、空間認識にかかわるだけでなく、レジリエンス(逆境から再起する力)にも関連していることが分かっています。つまり、マインドフルネスを実践することで、集中力、記憶力、学習する力だけでなく、立ち直るためのレジリエンスをも養うということが、科学的に明らかになったということです。
特に注目したいのは、レジリエンスでしょう。10年先どころか、5年先も読めない、目まぐるしく変化をし続けている現代社会は、どんな困難がやってくるのか、どんな問題が急に降って湧いてくるのかが分かりにくくなっています。そんな時代のなかで仕事をしていれば、当然ながら、想定していなかったトラブルに対面することは少なくないでしょう。
そんなとき、思考がストップして心が折れてしまう人、あっさりそれを受け入れて突破法を考え、即行動する人がいます。この2者の違いは何かというと「認知的柔軟性」があるかどうかです。
認知的柔軟性とは、外部から刺激を受けたときにそれに合わせて柔軟に考え方や行動を変えられる力のこと。新しい環境にもすぐに対応できたり、急な変化をすぐに受け入れることができる、「こだわり過ぎない」能力ともいえます。
この認知的柔軟性が、マインドフルネスの呼吸瞑想で養われることが、ボストン大学と北京大学が共同で行った研究で明らかにされました。
呼吸瞑想を続けるうちに、「起きた出来事をありのままに見つめ、自分の感情で判断せずにただ受け入れる」――そんな「マインドフル」な状態にメンタルが整えられていきます。そのフラットなメンタルがあれば、トラブルに直面したときも、思考停止に陥ることなく、情報収集をしながら現状で最適と思われる突破法を見いだすことも可能になるでしょう。それこそが、見通しのつきにくい現代社会において、ビジネスパーソン必須のレジリエンス力になるといえます。
ストレスと情報にあふれた現代社会で働くための防御力、そしてパフォーマンスを引き出すための秘策として、マインドフルネスを役立てていきましょう。
【筆者略歴】 川野泰周(かわの・たいしゅう) 臨済宗建長寺派 林香寺 住職 1980年横浜市生まれ。 国内初のマインドフルネスのための通信教育講座「マインドフルネス実践講座」(キャリアカレッジ・ジャパン)の監修を務める。NHKラジオ「ラジオ深夜便」、TBSラジオなど、メディア出演を通してのマインドフルネス普及活動にも取り組む。著書・共著・監修多数。 【著書】
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