定年後研究所2024年年頭所感

 明けましておめでとうございます。今年も、星和ビジネスリンクのメールマガジン「星和HRインフォメーション」をよろしくお願い致します。2024年最初のお届けは、一般社団法人定年後研究所の池口所長の年頭所感です。

 新年おめでとうございます。定年後研究所の池口です。定年後研究所では、昨年から4つの新たな取り組みを進めています。

●早稲田大学と共同で進める講座「キャリア・リカレント・カレッジ」
 1つ目は早稲田大学と産学協働で創設した「キャリア・リカレント・カレッジ(CRC)」です。
 主に50代半ばから後半にかけた、異業種からの多彩な受講生に、昨年の9月末から今年3月末までの半年間にわたる「キャリア探索と知識と実践」の融合プログラムに自費で参加いただいています。平日夜間と土曜日中心の講座やワークショップでは、多様なキャリアや価値観が交錯しあう中で、新しい自分の発見や自らの可能性の広がりが展開されています。受講生の皆さんは、決して転職ありきではなく、自社で働く意味合いを再構築したい、後進世代を支えつつ自らも成長を続けたい、そして定年後も社会に貢献し続ける自分でありたいとの旺盛な自己実現欲求を発露されており、早稲田大学日本橋キャンパスで新しいミドル・シニアのロールモデルが生まれつつあります。

●ミドル・シニアの新しい社会貢献「社会福祉領域への越境プロジェクト」
 2つ目は大企業に勤める中高年社員の社会福祉領域への越境プロジェクト構想です。
 要介護者や知的障がい者を支える福祉施設での人員・人材不足が深刻化する中で、セカンドキャリアを探索する中高年社員に、福祉施設をボランティアなどで越境体験していただき、その担い手としての可能性を広げていく実験的取り組みを進めています。弊所主催の企業人事担当者の情報交換会「シニア活躍推進研究会」でも、福祉法人の経営者に直接ご講演いただき、日常垣間見えない世界で、会社員としての経験や無形のスキルの蓄積を活かせる新しい場所としての可能性を感じていただきました。中には、福祉施設を直接訪問し、未知の世界を自ら体感し、社員に語りかける人事担当者もおられ、かけがえのない社員の活躍場所創出への熱い思いに共感させていただいています。

●ニッセイ基礎研究所との共同研究プロジェクト
 3つ目は、ダイバーシティ経営の中で、中高年社員、とりわけ中高年女性社員の活躍にスポットを当てる研究プロジェクトです。
 これまで主に女性活躍の視点で、大半の企業でダイバーシティ&インクルージョンの取り組みが展開されていますが、シニア社員をその対象に組み込むことで、より多様な人材や価値観の交互作用を経営に活かすマネジメントが胎動しています。弊所では、昨年秋以降、ニッセイ基礎研究所と共同で「大企業の中高年女性社員に対するキャリア開発」に関する意識と実態調査、および企業インタビュー調査を実施しています。現在分析中でありますが、一般職として採用された方(一般職層)を中心に、これまで社内では十分なキャリア開発機会を受けていないこと、一方で社外での学びの経験は総合職よりも多いこと、さらには50代後半の一般職層もおおむね2割の方が上位職志向を持っていることなどが分かりつつあります。企業インタビューでも年齢や性別によらない「人物本位」の人材登用を人事の方々に熱弁いただく場面が多く、人的資本開発に厚みが出てくる動きに期待しています。

●ミドル・シニアの羅針盤となるキャリア研修プログラムの開発
 最後の4つ目は、ロールモデルに着眼したキャリア研修プログラムの開発です。
 ロールモデルの有無によってワーク・エンゲージメントの高低に影響がでることが明らかにされています※1。また、中高年社員向けのキャリア研修に退職した先輩から経験談を語ってもらうコマを設ける企業もあります。ただし、社内には目標となるロールモデルが見当たらないとの声も数多く聞かれます。そこで弊所では多様なキャリアを歩まれ、定年後も多彩な活躍を続けられるロールモデルへの丹念な取材を通じたリアリティーあふれる研修プログラムを開発し、今春にはリリースの予定です。

●2024年を「ミドル・シニアの行動変容元年」に
 これら4つの取り組みを進めて感じることは、
 (1)大半の中高年社員は自らを成長させたいとの強い内発的動機を元来持っている。このことは、加齢とともにワーク・エンゲージメントが上昇するとの先行研究※1からも意を強くしています。

 (2)この成長欲求に応えようとする人事担当者の思いや情熱も同様に強いものがあり、定年制度の見直しにとどまらず、活躍ポストの開発、ライフに配意した両立支援制度の整備、キャリア探索機会の提供など、人事施策のブラッシュアップに意欲的に取り組まれています。

 (3)ただし、中高年社員の意識や行動が1日で変容することはなく、時間をかけた支援行動が必要です。この点、冒頭紹介の早稲田大学CRCでは弊所監修の「キャリア羅針盤(R)」を活用し、eラーニングでの事前履修を経た後に設定するワークショップでの高い研修効果により、半年間にわたる意識変容を上書きしていけることが分かってきました。中高年社員への支援行動には、機能面での何らかの工夫も必要ではないでしょうか。

 辰年の人はスケールの大きい夢を見る特性を持つそうです。阪神タイガース・岡田監督の「アレ」には到底及びませんが、弊所も4つの取り組みを進化させていく中で、今年を「ミドル・シニアの行動変容元年」にしていきたいと意気込んでいます。企業人事担当者の皆様と、「シニア活躍推進研究会」やセミナーなどで意見交換させていただくことを楽しみにしています。これらを通して昨年還暦を迎えた小生も成長を続けたいと思います。

 読者の皆様の今年1年のご健勝を祈念しております。

※1厚生労働省 令和元年版 労働経済の分析 ―人手不足の下での「働き方」をめぐる課題について―

【筆者プロフィール】
池口武志(いけぐち・たけし) 一般社団法人定年後研究所 理事所長

1986年 日本生命保険相互会社入社。
本部リテール販売部門、人事、営業企画、契約管理、販売最前線等で長く管理職(部長、支社長など)を経験し、多様な職種の人材育成にかかわる。その間、オックスフォード大学 Diplomatic Studies修了。
2016年 研修事業も行う株式会社星和ビジネスリンクに出向、「キャリア羅針盤®」の開発を統括。現在、同社取締役常務執行役員も務める。
2023年3月 桜美林大学大学院老年学修士課程修了。キャリアコンサルタント、消費生活アドバイザー、AFP、日本心理的資本協会理事、シニア社会学会会員
著書に『定年NEXT』( 廣済堂新書 2022年4月)、『人生の頂点は定年後』(青春新書インテリジェンス 2022年10月)がある。


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