産業雇用安定センターをご存知ですか

 星和HRインフォメーションでは、本号から3回にわたり「失業なき労働移動」を支援する専門機関として設立され、35年以上の歴史を持つ「公益財団法人産業雇用安定センター」について、同センターの業務部長である金田弘幸(かなだ・ひろゆき)氏よりお話をいただきます。

◆はじめに
 このメールマガジンをお読みの皆様は、「産業雇用安定センター」をご存じでしょうか?
 産業雇用安定センターは、1987年に当時の労働省、日経連のほか、様々な産業団体のご協力により公益財団法人として設立されました。以来、多くの企業の出向・移籍の支援を行い、これまでに約25万人の出向・移籍のあっせんを成立させてきました。

 センターは、企業が雇用調整を行う際の在籍型出向支援や移籍支援のほか、高齢者の再就職支援のためのキャリア人材バンクや、企業間で人材育成・交流等を行う場合の出向・副業に関する支援にも取り組んでいます。

 これらの事業は、企業が負担する雇用保険料の一部を財源として厚生労働省から補助金の交付を受けて無料で実施しています。ですから、企業の皆様が支援を必要とする場合には、是非当センターの事業をご活用いただきたいと考えています。

 このメールマガジンでは、センターが行う事業が企業にどのように役立つのか、その具体的な支援の対象者や支援のプロセスについてご紹介いたします。

◆産業雇用安定センターの出向支援
 我が国における在籍型出向は、主に大企業の人事慣行のひとつとしてグループ内企業や取引先企業に出向させる形で定着していました。しかし、経済環境の変化によって一時的に高水準の雇用過剰の状態となった時には、グループ内企業で吸収することは困難になります。従業員の雇用を維持するためには、グループ内企業や取引先企業にとどまらず、グループ外の企業への出向も必要となります。センターが設立された当時は、急激な円高が進行し、重厚長大系の輸出産業を中心に高水準の雇用過剰の状態にあったことから、雇用を維持するための在籍型出向支援を行う専門機関として当センターが設立されました。

 その後、バブル経済の崩壊を経て製造業を中心とする多くの大企業では、人員過剰となった従業員の雇用を維持せず、早期退職募集を行う傾向が顕著になりました。結果、センターが取り扱う出向事案は減少する一方、退職を余儀なくされる従業員の再就職=移籍の支援にセンター事業の軸足が移ることとなります。

 2010年代の後半になると、アベノミクスによる経済効果などにより多くの企業の生産活動は活発となり、一時的な雇用調整のための出向は更に減少しましたが、2020年以降、新型コロナウィルス感染症の影響が拡大するにつれて、航空業・鉄道業や旅行業、宿泊業、娯楽業、外食チェーンなどの多岐にわたる業種で経済活動が停滞することとなりました。 一方で外出抑制に伴い小売業や食料品製造業などが活況となり、自動車部品や機械器具などの一部の製造業の生産活動も高い水準で推移していました。このような背景から、雇用過剰となった企業から雇用が不足する異業種の企業への在籍型出向のニーズが高まり、センターが支援する出向のあっせん実績は大きく伸びることとなったのです。

 また、コロナ禍では大きな影響を受けた中小企業が、雇用を維持するために一時的に従業員を出向させるケースも増加しました。多くの中小企業は、コロナ禍前でも必要な人員が確保できず苦慮していたことから、従業員を一度解雇してしまうと、新たに従業員を雇用するのが難しいことは明らかであり、今の従業員の雇用を何とかして守りたいという意図が大きく作用したものと考えられます。

 センターとしては、企業規模や業種にかかわりなく、出向として送り出す企業に対して出向を受け入れていただく企業をあっせんすることにより、双方の企業の人材ニーズに応えています。

◆産業雇用安定センターの移籍支援
 離職を余儀なくされる従業員の再就職支援については、企業からセンターにご依頼いただくと、センターは在職中から支援に着手し、離職後も1年にわたって再就職支援を行います。よくハローワークとセンターの再就職支援の違いについて質問を受けますが、ハローワークは、失業された方や求職活動を行う方などが広く利用できます。一方、センターの場合は、まず企業からの支援依頼が前提で、その後個々の従業員に対して在職中から再就職支援を行うという点が異なります。

 離職を余儀なくされる従業員の方は、家族のことや将来の生活設計に大きな不安を抱えることとなります。在職中の早い段階から再就職活動を行うことにより、新たな職場が決まることで、従業員の不安も大きく軽減することとなります。

 ところで、企業が成長発展を続けるためには、構造改革は避けて通れないことは言うまでもありません。企業が自らの新陳代謝を進める上で、経営資源の重点化や、それに伴う人員構成を是正するために、主に40歳代以上の従業員に対して早期退職募集を行う場合が少なくありません。近年、経営状態に問題がない企業であっても、将来を見越して従業員の年齢構成の是正のための所謂「黒字リストラ」を行う企業も増えてきました。

 企業が早期退職募集を行う場合、割増退職金を特別損失として計上するとともに再就職支援会社に従業員のセカンドキャリア支援を依頼するための費用も負担するのが一般的です。また、有料の再就職会社の利用と並行して、センターにも再就職支援の依頼のご連絡をいただければ、センターは無料で在職中からの再就職支援を行うとともに、場合によっては再就職支援会社とも協力しながら支援を進めます。

 これまで長く企業に貢献してこられた大切な従業員の方々に次のステップに進んでいただくためのツールのひとつとして、全国47都道府県にあるセンターを活用していただければと考えています。

次回は、高齢者のための「キャリア人材バンク」についてご紹介いたします。


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