変化の本質

 今期も星和Career Nextへのご登壇が決まった慶應義塾大学SFC研究所上席所員の高橋俊介氏のコラムを本号から3週にわたりお届けします。

 コラムでは、皆さんが渦中にある急激な変化の本質とその変化に柔軟に対応するための学びとその問題点についてお届けします。

◆未来は予測できない
 AIがどのような仕事が得意で、どのような仕事が苦手かということは、最近話題になっているChat GPTなどを試してみるとなんとなくわかるかもしれません。このようなAIの進化によって無くなる仕事もありますが、実はそのこと以上にビジネスモデルが変わることによって無くなる仕事や、同じ仕事であってもその業務の内容が変わっていくものが多いのです。

 このことは、テクノロジーの進歩や地政学的な要素も含んだグローバルな出来事や変化がビジネスモデルにも大きく影響しているのですが、これらが今後いつ、どのように変化するかを予測することは困難です。1~2年先であればなんとなくわかるかもしれませんが、10年先の予測はできませんね。AIがビジネスに与える影響も昔から言われてきましたが、第一次、第二次、第三次のAIブームでも予測されていた通りにはなりませんでした。さらに言えば、新型コロナによってこれほどまでに働き方が変わることも予測していなかったですよね。

 そもそも先のことなんてわからないわけですが、これからは、益々そういう時代になっていくわけです。

 仕事をしていれば、2年・3年先のことも考えなければならない。でも、皆さんの人生はまだ、10年・20年・30年と先が長いわけです。そんな中で、先が分からないことを極端に恐れ、何処かの誰かが予想した未来にすがることはやめた方がいいと思うのです。これから先は何が起こるか分からないという前提で考えるようにしていただきたいですね。

◆変化の本質
 私はよく自動車の話をしますが、EV化が進み内燃機関が無くなれば、内燃機関に関わるエンジニアの仕事も無くなる。このこと自体はわかり易い話ですね。ただ、その本質は、仕事が「組み合わせ型」になるということです。これまでの「すり合わせ型」のビジネスモデルが、「組み合わせ型」のモデルに移行していくことを理解しなければなりません。

 これまでの自動車業界のように、昔からお付き合いがある部品のサプライヤーと、打ち合わせを重ねながら良好な関係の中でビジネスを組み立てていく「すり合わせ型」のビジネスモデルは、生み出すものが内燃機関だったからこそ上手く機能していたわけです。EV車には、交流モーターとVVVFインバーター、リチウムイオン電池が必要ですが、これらは、それぞれが完成されたコモディティーであって、EV車の製造はこれらを組み合わせてつくるという「組み合わせ型」モデルのビジネスです。このように自動車をつくるというビジネスであっても、ビジネスのモデル自体が大きく変わっています。

 では、このような「組み合わせ型」モデルで、どのように付加価値を求めるのか。それは、車両と周辺部品のコネクティビティーであったり、ソフトウエアであったりするわけで、そういう部分は長いお付き合いの中から付加価値を築き上げる「すり合わせ型」モデルでは迅速に対応することができないのです。つまり、外向きにアンテナを高く張っている人が従来のすり合わせ型の組織で急に必要になったわけです。

 「すり合わせ型」のモデルは内向きの組織モデル、一方で「組み合わせ型」のモデルは外向きの組織モデルと言ってもいいでしょう。ただ、誤解が無いようにしていただきたいのですが、私はここで「すり合わせ型」と「組み合わせ型」のビジネスモデルについて優劣を語っているわけではありません。

◆同じ仕事でも求められる能力が変わる
 これからは、社員も経営者も外向きに高いアンテナを立てて、環境の変化に即対応できる体制でなければ、時代に取り残されてしまいます。
 「すり合わせ型」の組織モデルの中でキャリアを積んできた人は、ビジネスモデルが「組み合わせ型」に変化していく過程で、一人ひとりが組織の外で刺激を受ける必要があります。トヨタ自動車は優秀な技術者をわざわざ「プロボノ」という社会貢献ボランティアで社外に派遣しています。

 地域の中小企業などにプロボノ派遣されたトヨタの技術者は、業態も環境も異なる中で自身がどれだけ役に立てるのかを体験するのです。
プロボノを受け入れた会社からは「さすがトヨタの社員だ、すぐれた技術を持っている」 と感謝の声が多いらしいのですが、派遣された技術者は、社内とは異なる環境の中で、いかに個人では無力で、自身に何が足りていなかったのかを気づくきっかけを得るのです。

 トヨタのように成功を収めてきた会社でさえ、このように従業員に外からの刺激を受けるための準備期間を持たせているのです。それは、トヨタのビジネスモデルが大きく変わるからです。それにより組織のモデルも変わりますし、今後はリーダーに求められるマネジメントやコミュニケーションのスタイルも大きく変わるでしょう。リーダーの皆さんがこれまでに培ってきた経験値では役に立てない部分が出てくるのです。

 こういった変化は、いま例に挙げた自動車業界だけではなく、他の製造業や金融業にも広く深く波及していくでしょう。

 このコラムをお読みの皆さんの周りでも何か変化が起こっているのではないでしょうか。
 次回以降では、変化に対応するために必要な学びの方法と、ミドルシニアが抱えている問題点をお届けします。

【筆者略歴】
高橋俊介(たかはし・しゅんすけ)

慶應義塾大学SFC研究所 上席所員
1978年東京大学工学部航空工学科を卒業し日本国有鉄道に入社。
1984年米国プリンストン大学工学部修士課程を修了し、マッキンゼーアンドカンパニ-東京事務所に入社。
1989年世界有数の人事組織コンサルティング会社である米国のワイアットカンパニーの日本法人ワイアット株式会社(現ウイリスタワーズワトソン)に入社。
1993年に同社代表取締役社長に就任。
1997年7月社長を退任。個人事務所ピープル ファクター コンサルティングを通じて、コンサルティング活動や講演活動、人材育成支援などを行う。
2000年5月慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授に就任。個人事務所による活動に加えて、藤沢キャンパスのキャリアリソースラボラトリーを拠点とした個人主導のキャリア開発や組織の人材育成についての研究に従事。
2011年11月慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任教授。
2022年4月より現職。

[主な著書]
『ホワイト企業 サービス業化する日本の人材育成戦略』PHP研究所(2021年12月)
『キャリアをつくる独学力 プロフェッショナル人材として生き抜くための50のヒント』 東洋経済新報社(2022年8月)
ほか多数

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