心理的安全性を実現するために重要なこと

 星和ビジネスリンクが毎週配信中のメールマガジン「星和HRインフォメーション」、2023年度も「中高年層」のキャリア自律に役立つ各界の著名識者のコラムと公開セミナー情報を人事・人材開発部門でご活躍中の皆様に向けてお届けします。
 本号と次号では、日本アンガーマネジメント協会理事 戸田久実氏に組織の生産性向上に欠かせない「心理的安全性」の実践についてお話しいただきます。

◆組織の生産性を上げる「心理的安全性」に注目が集まっています
「心理的安全性」という言葉を、よく聞くようになってきました。
そのため、研修先の組織からは
「心理的安全性を実現するには、どうしたらいいのだろう?」
というご相談やそのための研修のご依頼を受けることが多くなってきました。

 心理的安全性とは、組織のなかで自分の考えや気持ちを、誰に対しても安心して発言できる状態のことをいいます。
 Google社が、2012年から2016年にかけて大規模労働改革プロジェクトを実施しました。その研究の成果として、「心理的安全性は、組織の生産性を上げるために欠かせないものである」ということが結論づけられ、多くの組織から注目され始めたのです。
昨今では、価値観が多様化してきました。一括採用・終身雇用・年功序列という働き方から、複数の組織でキャリアを重ねる形も一般化しはじめ、いまや、多くの人が日々さまざまな価値観に囲まれて働いています。
 このような背景も重なり、心理的安全性が重要であることが急速に広まっていったのではないかと考えます。

 また、「パワハラ防止法施行から、『パワハラ』と言われないか怖くて、気になることがあっても、うまく伝えることができない。どう指導したらいいのか」「価値観に相違のある相手ともうまくコミュニケーションをとるにはどうしたらいいのだろう」
「新型コロナ禍でリモートワークが進み、コミュニケーションの手段も大きく変化しました。そのなかで、戸惑い、ストレスを感じることも多くなった。どうコミュニケーションをとったらいいのか」
という相談も多く寄せられます。

◆心理的安全性を実現するために、対等な関係性の環境をつくろう
 これらの課題から、相手も自分も大切にした自己表現である「アサーティブ・コミュニケーション」の考え方やスキルを取り入れようとする組織が増えてきました。
基本的に、アサーティブ・コミュニケーションをテーマにした研修では、
・お互いの考えや意見や価値観が違っても、相互尊重・相互信頼をもとに建設的な議論ができる
・お互いが正直に、率直に忖度せずに伝え合うことができる
・キャリアや立場に違いがあったとしても、心のなかは対等な姿勢で対話ができる
というマインドを持つことを大切にしつつ、講義や実習をすすめています。

◆まずは思い込みがないかを振り返る
 アサーティブになるために欠かせないのは、相手と対等な気持ちで向き合うことです。組織では役職、立場、キャリアの違い、スキル、知識の差など、上下関係が明確にわかっていますが、コミュニケーションをはかる際は、対等に向き合うことが大切です。ここでいう対等とは、立場の違いを乗り越えてなれなれしい言葉をつかうということではありません。心のなかで次のような思い込みがないかを振り返ってみましょう。
 自分よりも立場が上、キャリアが長い相手に対して次のように思うことはありませんか。
「疑問や異なる意見を言ってはいけない」
「NOと言ったら関係が悪くなる?評価が下がるのでは」
 また部下や後輩に対しても
「叱ったら嫌われる、関係が悪くなる」
「どうせ私はうまく伝えられない」
というネガティブな思い込みを抱くことはないでしょうか。
このような考えが頭に浮かんできたら、
「そう思ってはみたけれど、そうとは限らない」
というように、ネガティブな思い込みに影響されないことが重要です。
このような思い込みから、言葉にすることができなくなる、遠慮がちで遠回しな言い方になってしまう、波風立てず嫌われないことを目的とし、言いたいことが明確に伝わらないという結果になることがあります。
また、自分の方が相手よりも立場が上、キャリアが長い、専門知識がある場合、
「わたしの意見や判断が正しい、これが当たり前」「相手がわたしの言うことに従うのは当たり前」と思い込まないようにすることも欠かせません。
 価値観が多様化し、時代の変化が激しい昨今では、たとえ立場やキャリアに違いがあったとしても、相互尊重のもとに、伝えたいことを伝え合えるために、ネガティブな思い込みに引っ張られたり、必要以上にへりくだったり、思い通りに相手をコントロールしようとしたり、決めつけ、押し付けようとしないこと。
これらを振り返り、意識することからはじめてみませんか。

【筆者略歴】
戸田久実(とだ・くみ)

アドット・コミュニケーション株式会社 代表取締役
一般社団法人日本アンガーマネジメント協会 理事

 立教大学文学部卒業後、株式会社服部セイコー(現 セイコーホールディングス株式会社)にて営業、その後音楽業界企業にて社長秘書を経て2008年にアドット・コミュニケーション株式会社を設立。
 研修講師として銀行・製薬会社・総合商社・通信会社などの大手民間企業や官公庁の研修・講演の仕事を歴任。
 講師歴28年、登壇数は4,000回を超え、指導人数は22万人に及ぶ。 豊富な事例やアンガーマネジメント、アサーティブ・コミュニケーション、アドラー心理学をベースにしたコミュニケーションの指導には定評があり、 受講者は新入社員から管理職までと幅広い。
リピート率は92%超で、実践スタイルの研修が好評を博している。

【著書】

怒らない100の習慣
怒らない100の習慣
出版社: WAVE出版 (2023/2/21)
発売日:2023/2/21
並製・単行本/232ページ
ISBN-10: 4866214473
ISBN-13: 978-4866214474
アサーティブ・コミュニケーション
アサーティブ・コミュニケーション
出版社:日経BP日本経済新聞出版
発売日: 2022/7/20
並製・単行本/240ページ
ISBN-10: ‎ 4296114514
ISBN-13: ‎ 978-4296114511


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