社会福祉の現場で、人材育成の原点をみた

 日頃は、「星和HRインフォメーション」をご覧いただきありがとうございます。本年度の最終配信となる本号は、「定年後研究所 News Letter #6」として、池口所長の越境体験記をお届けいたします。

社会福祉の現場で、人材育成の原点をみた
 昨年還暦を迎え、定年後研究所長としての業務の傍ら、セカンドキャリアやサードエイジを徐々に自分事として考える機会が増えてきました。

 小職は、これまで定年後に活躍する数多くのロールモデルにインタビューをし、その取材成果を書籍や論文で紹介してきました。その中でロールモデルとなる方の多くは、長年勤めた会社とは異なるフィールドで、自身の存在価値を新たに見出し、周囲から頼りにされることで「やりがい」や「生きがい」を獲得されているように感じています。

 日頃、キャリア研修や中高年向けの住民セミナーで、将来に向けた「試行錯誤の第一歩」をお勧めしている手前、小職も去る1月末に二日間にわたって自宅に近い知的障がい者の就労支援施設でボランティア活動を行ってきました。

 この施設は、「就労継続支援B型」と言われる中軽度の知的障がい者を対象に、通い方式での就労機会を提供し、生産高に応じた工賃を支払う区立の施設です。40名の利用者が、近隣の複数の町工場から受託した「比較的簡易な軽作業」を幾つかの工場ごとのラインに分かれて、朝の9時から16時まで従事されていました。

 「長年の仕事人生で培ったマネジメント力を、福祉の現場で活かしたい」と意気込んでいた小職でしたが、初日・二日目ともに、利用者のみなさんと同じライン作業に専念することになりました。

 周囲を見渡すと、片腕で器用に黙々と作業をこなされている方もいれば、ずっと賑やかに話し続けながら作業に従事する人もいました。中には午後になると、こくりこくりとされる人もおられ、当日納期の作業に間に合わせるため、施設の職員さんが慌ててラインに入られたり、小職も別ラインの応援に駆り出されたり、慌ただしい中で一日を終えました。

 15時30分からのミーティングでは、「納期」に間に合ったことの共有が図られ、作業場に大きな拍手が起きました。その後は、チームに分かれ、班長である職員と、5名前後の利用者一人一人との懇談が始まりました。

 そこでは、
「今日は、いつもよりも仕事のスピードが遅かったけど、原因は何かな?」
「先週出来なかった作業が、ついに出来るようになったね!」  
「もうひと頑張りを期待しているよ」
「朝から大声を張り上げて部屋に入ってくるのは止めたほうが良いのではないですか?」
など、フェースto フェースで16時まで行われました。

 小職は、30代前半で、保険会社の小さな営業所の所長として勤務し、30名程度の営業社員を管理・指導する立場にありましたが、個々の営業社員の働く環境の違いや、経験・スキル格差を踏まえた個別指導が十分出来ずに、上辺だけのマネジメントに留まっていたことが突然脳裏に蘇ってきました。

 コロナ禍以降、テレワークが急速に普及し、メールだけでなく、チャットやメタバース空間での執務環境も整備されつつありますが、
「大切なことをメール一本で済ましてはいないだろうか?」
「もっと踏み込んで社員一人一人と向き合うことが重要ではないか?」など、
日常の周囲への関わり不足を反省しきりで、施設を後にしました。

 弊所では、シニア社員の活躍に向けた企業人事担当者の研究会を定期開催しています。2024年1月開催の研究会では、「60歳以降社員の一層の活躍に向けて~社会貢献も視野に~」をテーマに、厚生労働省高齢者雇用対策課の宿里課長から改正高年齢者雇用安定法への対応状況の共有と企業への期待を、また公益財団法人さわやか福祉財団の清水理事長からは社会貢献活動を通じた人材育成についてご講演を頂戴しました。

 そこで、多くの人事担当者から聞こえてきたのは「シニア社員の活躍場所の一つとして社会福祉領域もあることに気づいた」「社会の課題に触れる越境体験が、視野拡大に繋がることが理解出来た」「改正高年齢者雇用安定法が定めた社会貢献活動への従事の可能性を検討したい」との声でした。

 まさに、自らも越境体験することで、多くの気づきを得ることが出来ましたので、自信を持って、企業人事のご担当者にも社会福祉領域やNPOへの越境をお勧めしたいと思っております。

 社会福祉法人やNPOへの具体的な越境体験、副業・出向も視野に入れたセミナーも開催していますので、ご関心ある方は弊所または星和ビジネスリンクの担当者にお声がけいただければ嬉しく思います。

【筆者略歴】
池口 武志(いけぐち・たけし) 一般社団法人定年後研究所 理事 所長

1986年 日本生命保険相互会社入社。
本部リテール販売部門、人事、営業企画、契約管理、販売最前線等で長く管理職(部長、支社長など)を経験し、多様な職種の人材育成にかかわる。その間、オックスフォード大学 Diplomatic Studies修了。
2016年 研修事業も行う株式会社星和ビジネスリンクに出向。
「キャリア羅針盤®」の開発を統括。現在、同社取締役常務執行役員も務める。
2023年3月 桜美林大学大学院老年学修士課程修了。キャリアコンサルタント、消費生活アドバイザー、AFP、日本心理的資本協会理事、シニア社会学会会員
著書に『定年NEXT』(廣済堂新書 2022年4月)、『人生の頂点は定年後』(青春新書インテリジェンス 2022年10月)

【定年後研究所とは】
一般社団法人定年後研究所は、定年後の人生を豊かにするための調査研究を行う機関として2018年に発足致しました。人生100年時代の中で、特に、50代以上の企業人のセカンドキャリア支援・準備に向けた研究活動を行っています。
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