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定年後研究所 News Letter#2では、定年後研究所とパソナマスターズの共同調査報告の内容を一部紹介します。

大企業シニア活用の現在地
~定年後研究所&パソナマスターズ共同調査結果報告書より~


 改正高年齢者雇用安定法(以下「70歳法」)が施行されて2年が経過し、大企業の対応はどうなっているのか? この、素朴な疑問をもとに、当研究所は、今年2~3月にパソナマスターズと共同で企業アンケート調査を実施した。その結果を『大企業シニア社員活用の現在地 ~70歳法への対応状況』として報告書にまとめたので、当コラムにて共有させて頂く。

 調査は、比較的従業員数が多い52社を対象に行った。「これが全て」とはいえないものの、そこから見えてくる「課題」や「傾向」を共有することには、大きな意味があると感じている。

 まず、“シニア社員活用の「ポジティブ要因」”としては、「技術継承」「後進指導」をあげた回答が多く見られた。次いで「人材不足・人員不足」への対応が続き、時代環境を裏付ける結果となった。特筆すべきは、「特になし」の回答がゼロであったことで、従来聞かれた「働かないオジサン問題」から脱皮し、戦力としての期待が高まりつつあるといえる。

 逆に“シニア社員活用の「ネガティブ要因」”としては、「モチベーションの低下」を大半の企業があげている。それに付随して「学習意欲の低下」「スキル陳腐化」が続くが、「新陳代謝」「健康状況」「人件費」「ポスト不足」など課題は多岐にわたっていることが浮き彫りになった。

 ネガティブ要因との絡みで、シニア社員に関して「会社として取組むべき課題」としては、「モチベーションの維持」「リスキリング」を大半の企業があげると共に、「年下上司とのコミュニケーション」「自己理解不足」「周囲との協調性」など、職場でのコミュニケーションや姿勢に関する回答が多く見られた。

 それを受けて「シニア社員の活性化について」に対する回答は、「キャリア研修の実施」「キャリア面談の実施」への回答は共に実施済みと検討中を併せると100%に近い。

 次いで「人事考課・処遇のメリハリづけ」「給与水準の改善」も約80%が実施済みまたは検討中と回答している。

 特徴的なのが、「学び直し支援の充実」と「配置ポストの開発」が、実施済は少数派なるも、検討中企業が多くを占め、各社試行錯誤の検討段階であることを窺わせる。また、「副業の解禁」「短日短時間勤務制度の新設」「転進支援制度」「早期退職金加算」などのセカンドキャリア構築支援も、検討中企業を加えると過半を超える(図表)。


シニア社員の活性化について

 大半の企業では既に「社内講座の充実」や「社外講座費用の補助」は実施されているものの、「リスキリング」「学び直し支援」の中身や動機付けは大きな課題になっているといえよう。

 定年等の根幹である人事制度に関しては、半数の企業が「役職定年の見直し」を、3分の1の企業が「定年の見直し」「定年後再雇用の見直し」を予定している。その見直し内容は「年齢引き上げ」や「廃止」が多くを占めている。また制度対応とは別に、個別運用で65歳以降も既に「就業機会」を付与している企業が半数を超えたことも、人材・人員不足を裏付ける結果となった。

 今回の調査の焦点である「70歳法」への対応状況は、おおよそ「対応済」と「方針決定」が合わせて3分の1、「具体案検討中」が3分の1弱、「情報収集中」が3分の1となり、「検討未着手」は徐々に少数派となってきたことが明らかになった。対応済の選択肢は「70歳まで継続雇用」が大半を占めており、「定年廃止」が少数見られた。

 今回の調査結果とは別に、企業人事の担当者からは、従業員の希望も勘案して「業務委託方式」を軸に検討中であるとの声を聞くようになってきたことを補足しておきたい。

 また、「70歳法」では「対象者基準」を設定することが可能となったが、実際「対応済」の企業では、「職務に必要な能力」「資格」「考課」「健康状況」などの基準を設ける企業が多くを占める結果が得られた。ただ、「対象者基準」をクリアする割合の想定は「多数」から「少数」まで回答は分かれた。

以上をまとめると、多くの大企業では、50~60代社員がボリュームゾーンとなる中で、
・人材不足の危機感と相俟って、対象層の戦力化・活性化対策が愁眉の課題となりつつあり、評価・配置・研修や面談等の見直しが進んでいる。
・70歳法対応の検討も徐々に進みつつあるが、65歳未満の活性化対策のコピーではなく、当該層のニーズや能力スキルも見極めながら、対象者選定の最適解等を検討中である。
といえよう。

 昨今、従業員のキャリア自律が大きなテーマになっているが、今回の調査でも、モチベーションの維持や、学習意欲の低下に悩む企業が大半を占めることが明らかになった。

 定年後研究所が2022年に実施したキャリア自律に関する「大企業会社員意識調査」では、職場での期待役割の明確さや成長機会の付与が、年齢問わず、キャリア自律や学びの姿勢には決定的に重要であるとの結果が出ている。

 研修メニュー揃えも、配置ポスト開発も、人事評価のメリハリづけも、全て、取組の組織的な背景や当該層への期待感を、会社側が繰り返し丁寧に語ることが施策実効性の鍵であることを付言しておきたい。


 今回のコラムで紹介している「企業アンケート調査」や「大企業会社員意識調査」に関する詳細をご希望の方は、定年後研究所Webサイトの“お問合せ”までお問い合わせください。
後日、星和ビジネスリンクの担当者よりご案内申し上げます。


【筆者略歴】
池口 武志(いけぐち・たけし)

一般社団法人定年後研究所 理事 所長
1986年 日本生命保険相互会社入社
 本部リテール販売部門、人事、営業企画、契約管理、販売最前線等で長く管理職(部長、支社長など)を経験し、多様な職種の人材育成にかかわる。その間、オックスフォード大学 Diplomatic Studies修了。
2016年 研修事業も行う星和ビジネスリンクに出向
キャリア羅針盤の開発を統括。現在、同社取締役常務執行役員も務める。
2023年3月 桜美林大学大学院老年学修士課程修了
 キャリアコンサルタント、消費生活アドバイザー、AFP、心理的資本協会理事、シニア社会学会会員
著書に『定年 NEXT』(廣済堂新書 2022年4月)、『人生の頂点は定年後』(青春新書 2022年10月)

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