シルバーマネーへの不安解消法

 日本ファイナンシャル・プランナーズ協会常務理事、同特別顧問を歴任された得丸英司氏による集中連載。2回目となる今回は、リタイヤ後のお金(シルバーマネー)の不安についてお話しいただきます。
 得丸氏には、9月8日開催の「星和Career Next 2022第3回公開セミナー」にもご登壇いただきます。

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◆「老後の不安=お金のこと」に「老後2,000万円問題」が拍車?

 以前、定年後研究所で60歳を迎えた男女約300人に「セカンドライフの不安、リスク」についてインタビューしたことがあります。

 「定年後のセカンドライフの一番の不安は収入面です。
65歳までは継続雇用制度を利用するので給与収入はありますが、水準は大きく下がります。この他にどんな収入があるかが知りたいです」

 「4人目の末子(まっし)が就職したので、家計が少し楽になり、ようやく貯蓄ができるようになりそうです。無駄遣いを減らして、少しでも貯蓄に回せるように……。それだけで良いのでしょうか?」

 「夫婦ともに元気なうちは、旅行や趣味に時間とお金を費やして楽しみたいという気持ちはあります。ただ、83歳の母親のことを考えると、今後は「同居」も考えないといけません」



 昔から、「老後といえばお金」「お金といえば不安」と言われ、結果として「老後の不安はマネー」という意識が定番化しました。

 実は、このインタビューが行われたのは、2019年7月のこと。
金融庁の金融審議会(市場ワーキング・グループ)が公表した報告書『高齢社会における資産形成・管理』が「老後2,000万円問題」として話題になっていた時期と重なります。
選挙の時期とも重なったため、本来の家庭経済の側面だけでなく政治的な側面なども含め、あらゆるメディアで幅広い議論が行われていました。

 そのため、個人(世帯)としてマネープラン(家計設計)を考えようとしていた人には、プランニングに必要な情報にたどり着く前に、他の情報で“満腹状態”になってしまったのではないかと考えています。
そのような人にとっての「老後2,000万円問題」とは、いったい何だったのでしょうか。
これまで抱えていた不安が、より一層増大しただけで終わっていたのなら大変残念なことです。

◆「マネー」単独での学習より「キャリア」との複線学習を
 一方で、「老後2,000万円問題」は、自分自身のことを見つめて考える良いきっかけを提供してくれました。
社会全体のことを知ることは、「私の場合はどうか?」という自分への興味にもつながります。
 私は、その興味を、「面倒くさい」、「忙しい」とこれまで後回しにしてきた老後のマネープランに取り組む行動につなげるようにしてくださいとインタビューにご協力いただいた皆さんに、申しあげました。

 ライフイベントを想定して、キャッシュフロー表を作成……とマネープランだけを単独で考えると、“面倒くさい”という言い訳が出てしまうことも理解できます。
しかし、ライフキャリアプランとセットで考えることで、その印象は大きく変わるはずです。

 自身のライフキャリアプランが明確になり、将来の自分の姿が見えてくると、おのずとライフイベントもはっきりとします。
イベントを決めることが、それを実現するためのキャッシュフロー表づくりのきっかけとなるからです。

 最近では、夫婦と子ども2人で有職者1人の標準世帯、夫婦共働きの世帯、子どものあり・なし、単身など、いろいろなパターンの世帯を想定して、それぞれのケースを学ぶ、ライフプラン研修と称したマネープラン研修が開催されています。
多様な生活スタイルに対応しているようにも思えますが、どんなに細分化したケースを学んでも、それぞれの世帯の実際のケースには当てはまりません。
結局は、自分自身に問いかけ、私(我が家)のパターンを創り出し、それをキャッシュフロー表に表現していくことになります。

 さらに、そのマネープラン研修を、集合研修(リアル、オンライン、オンデマンドなど)の方式で社員に実施するには、学びのパターンが増えるほど研修時間は長くなります。
そして、長い時間をかけた研修でも、受講者が自身のキャッシュフロー表を作るには、また別に時間を取って取り組むことになるわけです。

 最初から個別ケースに対応した学習教材で学ぶことができれば、不要なパターンを学習する必要がなく、効率的に学ぶことができるのですが……

◆「マネー(プラン)自律」を促すことが、老後のお金の不安解消に!
 前述の2019年の金融庁の報告書が発端となり話題となった「老後2,000万円問題」。
報告書によると、2017年の高齢夫婦無職世帯の平均収入から平均支出を引くと毎月54,520円不足するという総務省の『家計調査(2017年)』を引き合いに紹介しています。
つまり、老後期間が仮に30年だとすると、不足額は、54,520円×12ヵ月×30年で約2,000万円となるわけです。
このことから、多くの人は、老後に2,000万円足りなくなると思ってしまったのです。
また、実際に報告書を熟読した人は少なく、『老後は2,000万円不足(金融庁報告書)』といったメディアの見出しに踊らされた人が多かったと思われます。
しかし、このデータはあくまで2017年の平均値から算出した金額であり、平均値だけの情報がすべてに当てはまると解釈させてしまったことは残念です。

 ちなみに、2020年の家計調査のデータを使って同じ計算をすると、収入から支出を引いた不足額は、毎月1,500円となり、30年間ではわずか55万円の不足という結果になります。
これも平均値ですので、すべての世帯で老後資金不足問題は発生しないと言ってしまうと、とんでもない誤りだということは分かりますね。

 このように、マネープランの場合は、全体論を個別のケースに無理やり当てはめたり、平均値などの一つのデータですべてを語ったりすることはできないということがお分かりいただけたと思います。

 大切なのは、正しくマネープランに取り組むこと。
マイプランを立てることが、老後のお金の不安解消への近道となるのです。

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【筆者プロフィール】
得丸英司氏
得丸英司(とくまる・えいじ)
CFP®

大手生命保険会社で25年にわたり、法人・個人分野のFPコンサルティング部門に従事。
NPO法人日本ファイナンシャル・プランナーズ協会常務理事、 同特別顧問、慶應義塾大学大学院講師、一般社団法人定年後研究所所長を歴任。

◎ 星和ビジネスリンクは、現役世代が定年後の人生を豊かに過ごすための調査研究を行う機関として、「一般社団法人 定年後研究所」を設立しました。
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