第1回 中高年社員がハイパーチェンジに取り残されないための対処法

 本号から3回にわたって、一般社団法人ソシエトスの代表理事木暮淳子氏のコラムをお届けします。木暮氏は中高年社員のキャリア開発教育の専門家で1on1メンターコーチとしてご活躍中です。
 第1回は、「中高年がハイパーチェンジに取り残されないための対処法」です。
 木暮氏は「ハイパーチェンジ」を、変化のスピードが速いだけでなく、「目新しさ」と「予測不可能性」も含んだ誰も経験したことがない変化であると定義しています。

 コロナ禍を経て在宅勤務が多くなり、必要な書類はすべてメール送信、同僚や部下とはオンラインでミーティング、「あれはどうなった?」と部下に聞くだけでもタイムラグが発生。PCの画面という狭いバーチャル空間で仕事をしていると、どこに必要なファイルがあるのか探すだけでも頭がぐるぐる回ってくる。加えてコミュニケーションを円滑にしようと導入されたチャットシステムでの気軽なやり取りが増え、仕事のスピードは増すばかりで、一瞬たりとも気が抜けない。

 これは、筆者が日頃感じる仕事の変化ですが、おそらくリモートワークなどで仕事をしている多くの中高年の方が実感されている現象なのではないでしょうか。

 コロナ禍で助長された面もあり、こうした仕事のやり方ひとつとってみても、我々を取り巻く状況にはハイパーチェンジが起きています。

 ハイパーチェンジとは、「スーパー(超)」をさらに超えた極超高速変化という意味ですが、変化のスピードが速いだけではなく、「目新しさ」と「予測不可能性」も含んだ概念で、誰もが経験したことのない出来事が起きているというわけです。とりわけ変化への適応に少々弱くなった我々中高年には対応が難しい時代が訪れています。

 そうしたハイパーチェンジのど真ん中にあっても、現在50歳代の中高年社員の方はあと10年~20年は(収入を得る、得ないは別にして)社会参加により仕事をしていく可能性が高いと予想されます。こうしたハイパーチェンジに弱い中高年が、これからも活躍していくためには、どのように働いていけばいいのでしょうか。企業のミドルシニア向けキャリア研修を通じて多くの中高年社員と接してきた経験を交えて、このコラムでは皆さんと一緒に考えてみたいと思います。

AIや情報技術といった自動化技術が中高年社員に与える影響
 アメリカのシンクタンク、マッキンゼー・グローバル・インスティテュート(MGI)の「The future of work(未来の仕事)in Japan」(2020年5月)によると、少子高齢化が進む日本では、労働力不足を補うために2030年にかけて現在の2.5倍の労働生産性向上をしないと現在のGDP成長率を維持できないという研究報告がされました。

 また、反復型ルーチンワークが多い日本の仕事は自動化される余地が高く、2030年までに既存業務のうち27%が自動化されると試算しています。その結果1,660万人分の雇用が代替される可能性があるとも報告されています。

 こういう話を研修などでしてもピンとこない大企業の中高年社員の方が多いのですが、1,660万人とはどういう数字かと言いますと、2021年3月期に上場している会社1,898社の従業員数(正社員)は約281万人(東京商工リサーチ調べ)ですから、日本の上場会社の正社員数の約6倍の人の仕事が自動化によって変っていくと予想されているのです。

 環境に適応できない中高年は、真っ先に存在価値を落としていくことになります。

「The future of work in Japan ~ポスト・コロナにおける「New Normal」の加速とその意味合い」(2020年5月)」資料

最近よく聞く「リスキリング」
 2021年の春頃から「リスキリング」という言葉を聞く機会が増えてきたように思います。
今後AIや情報技術によって仕事が変っていくことが避けられないとするならば、必要とされるスキルを身につける学び直し(=リスキリング)によって対応していきましょうね、という意味合いで使われています。デジタル化によって生まれる新しい仕事や、新たな仕事の進め方にも対応できる人材を育成するためのスキル習得を指していることが一般的です。

 IT系大手企業では、全社員にリスキリング研修を実施してデジタル化に対応しようとする動きも活発ですが、中高年社員が新たな仕事に転換するレベルにまでリスキリングするのはなかなか困難なのではないでしょうか。
では、どうしたら、中高年社員はこのハイパーチェンジ時代に取り残されずに、仕事をつづけていくことができるのでしょうか?

自分の価値を高める“学び”を見つける
 これだけさまざまな環境が変化しているにもかかわらず、日本では個人の社外学習・自己啓発を行っていない人の割合は46.3%と諸外国と比較しても際立って高いことが報告されています。これまでは、必要なトレーニングは会社が用意してくれていたかもしれませんが、これからは自ら「自分の価値」を高めていく努力が必要だということです。中高年になるとこれまでの経験に安住したり、あと定年まで数年だからとアクセルを緩めてしまう方が多いようですが、定年後も社会変化に取り残されないために、時間軸をもう少し伸ばして、学び続ける意識を持つことは大切でしょう。

「経済産業省の取組」令和4年2月経済産業省資料


 これまでの職業経験・人生経験で培ってきた能力に磨きをかけるのもよいでしょう。わたしたちがミドルシニア向けにご提供しているE-ラーニングのキャリア研修では、「自ら動き始める主体性」「規律性」「実行力」「挑戦する力」「計画力」「発信力」「傾聴力」など20個の能力の棚卸しをしていただき、自分自身の強みを点検していただいています。

 おそらく多くの中高年がこれからの仕事に活かすという意味では、デジタル技術やマネジメント能力というよりも、ヒアリング力やコミュニケーション力といった対人関係能力(ヒューマンスキル)のチカラを高めるという方向が合っているのではないでしょうか。ヒューマンスキルは人間性と考えれば、いくつになっても高めていきたい能力ですね。

学びは好奇心を刺激し、意欲を生み出す
 わたしたちが行動を起こすときの原動力には、社会環境要因や個人の性格などから形成された個々人の“欲求”が深く関係していると言われています。なかでも、「成長すること」についてあらゆる年齢の人が根本的な欲求を持っています。日々の生活が忙しくて忘れてしまっているかもしれませんが、わたしたち人間は何歳になっても褒められたいし、元気であれば何かに取り組んで挑戦したい、成長したいと考えているものなのです。 

 試しに時間と空間のスペースを少し空けて、仕事に役立ちそうな学びを取り入れてみてください。意外にそうした時間を捻出できることに気がついたり、楽しさを発見できるはずです。学ぶことでこれまで固定的だった人間関係から、新しいネットワークが広がったり、別の考え方があるということに気づいたり、新たな情報を手に入れることもできます。

 仕事を取り巻く環境の変化を「どうしようもない」とあきらめるのではなく、受け止めて一歩踏み出すためにも“学び”を利用してみましょう。

 たまたま頼まれた新たな仕事に挑戦してみる、新たな配属先の仕事に主体的に取り組んでみる、そんなところにも学びの種は転がっています。「こんなこともできるんだ」と自分の可能性を広げていくことで、居場所も見つけていくことが、きっとできるはずです。

【筆者略歴】
木暮淳子(こぐれ・じゅんこ)

一般社団法人ソシエトス 代表理事
国家資格キャリアコンサルタント、認定心理士

 都市圏で働くミドルシニアが持つチカラを人材が不足している地方創生に活かしてもらうために、「ネクストステージ・スキル開発プログラム」の提供を行う法人として2016年に設立。
理事にわが国のキャリア形成支援第一人者で数多くの著書を持つ筑波大学名誉教授・渡辺三枝子先生を迎え、個に寄り添ったミドルシニアのキャリア形成支援を目指している。大手企業向けの50歳代キャリア教育プログラムでは、年間1,000名以上のキャリア研修を行う。星和ビジネスリンクの『キャリア羅針盤~ライフキャリアプラン』のプログラム開発にも携わる。

このメールマガジンの筆者、木暮淳子氏にご協力いただき開発したeラーニングプログラム『キャリア羅針盤~ライフキャリアプラン』の詳細を弊社Webサイトで詳しく紹介しています。

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