企業からみた業務委託(“半”個人事業主)という働き方導入のメリット

 木村氏によるコラム3回目は、どんな人がどんな形で「“半”個人事業主」として働くことができるのかを解説していただきます。

◆“半” 個人事業主の類型 スペシャリスト型とリリーフ型
 個人事業主的な働き方に対して企業・シニア社員双方で受け入れる土壌ができつつあることは前回のコラムで解説させていただいた通りです。

 「受け入れる条件整備が進みつつあることは理解できたが、“半”個人事業主として働くことができる人は、特別なスキルや資格を持つ人だけで営業や経理などごく普通のビジネスパーソンにはそもそも関係のない話ではないか?」

 そう思われる企業人事の方やシニアの方もいらっしゃるかと思います。
確かに今までは、専門職的な職種(法務部員や研修講師)や特別な資格やスキルを持つビジネスパーソン(ITの専門家、公認会計士など)が個人事業主的な働き手の中心でした。こうしたタイプの個人事業主を「スペシャリスト型“半”個人事業主」とここでは名付けます。

●「スペシャリスト型“半”個人事業主」の特徴
□特別なスキルや資格をベースに仕事を行う
□外部の専門家に依頼することで代替できる場合もあるが、立ち上がりまで時間がかかり、報酬も高額になりがち
□どんな職種にも必ずしも当てはまるわけではなく、職種が限定される傾向がある
 ところが最近では、スペシャリスト型とは性格の異なる「リリーフ型“半”個人事業主」に対するニーズも増えつつあります。

●「リリーフ型“半”個人事業主」の特徴
□その会社独自の業務プロセスや用語を熟知し、人間関係も有する。今まで築いてきた実務能力、人柄など信頼感をベースに仕事を請負う
□その会社の実務面での即戦力としてその実力をよく知る人からの依頼で仕事を行う
□誰かが対応しなければならないその企業でのエッセンシャルワークも対象になる

図は、“半”個人事業主を「スペシャリスト型とリリーフ型」を横軸に取り、「契約期間の長短」を縦軸にとったマトリックスです。皆さまが一般的にイメージされる“半”個人事業主は、マトリックス表の左上の「スペシャリスト型×短期契約型」に近く、特別なスキルが必要とされる業務に必要なときに必要なだけスポット的に専門家として登板するタイプです。これに対して「リリーフ型」は、職種に限定はありません。どんな職種でも登板の可能性があります。


“半”個人事業主の類型

◆「リリーフ型 “半”個人事業主」ニーズが高まるこれだけの理由
コロナ禍を経て日本企業の人手不足は深刻な状態に陥っています。「人手不足に対する企業の動向調査(2022年10月)」

「人手不足に対する企業の動向調査(2022年10月)」

 また、若手層・中堅層を中心に転職者が増え(大転職時代の到来)、その補充ができずに業務遂行に支障をきたしている企業も多いです。

 今までは雇用の調整弁的な役割を果たしてきた非正規社員もその活用が難しくなっています。2013年に行われた労働契約法の改正により、5年間契約更新を繰り返した契約社員に対して無期転換権が発生するようになりました。無期転換権とは、条件を満たした契約社員側から有期から無期への労働契約変更の申し出があった場合には、企業はそれを認めなければならないとするものです。また、派遣社員に関しても2015年の派遣法改正で同じ職場で3年以上勤務することが基本的にはできなくなりました。

 その一方で企業は、シニア社員の処遇で頭を悩ませています。環境変化の大きい中、雇用という流動性の低い形でシニア社員を社内に囲い続けることをリスクと考えているのです。「働かないおじさん」問題はその典型的な事例です。

 こうした両者間のギャップを埋める担い手となりうるのが、シニア“半”個人事業主です。今まで培ってきた経験・スキル・知識を活かして即戦力としての活躍が期待できます。シニア側もフルタイムではなく稼働日限定の勤務により自由な時間が生まれます。指揮命令を受けることもありませんので、年下上司との微妙な関係も解消されます。

 また、育児・介護休業法の改正等も、「リリーフ型 “半”個人事業主」のニーズを高めています。育児・介護休業法とは、育児・介護を理由に労働者が離職することなく、両立しながら働けるように支援する目的で創設された法律ですが、2022年には男性育児参加を支援すべく大きな法改正が行われました。

 従来の育児休業制度に加えて新設された出生時育児休業は、男性の育児休業取得促進策のひとつで、子どもの誕生から8週間以内に最大4週間の育児休業を分割して2回まで男性が取得できる制度です。

 こうした環境整備により、これからは男性も育児休業を積極的に取得していくようになりますが、企業にとって頭が痛いのは休業取得期間中の工数穴埋めです。休業終了後に確実に復職してきますので、新たに人を採用して穴埋めするわけにはいきません。取得期間も人によって長期短期バラバラです。

 こうした育児休業で空いた一時的な業務補填役がまさに「リリーフ型“半”個人事業主」です。社内の事情は熟知していますので、新規採用のように改めて社内制度、ルールを一から説明する必要はありません。また、何十年間の経験がありますので社内人脈も豊富です。特に具体的な指示を受けなくても超即戦力として育児休業者の穴埋め対応をすることができるのが、シニア“半”個人事業主です。

 次図は必要なスキル等の専門性と業務密度を軸としたマトリックスです。従来、非正規社員が担ってきた左上の領域の担い手がいなくなってきていますので、まずはこの領域を誰かがサポートする必要があります。右下の領域も外部から専門家が採用できない昨今、スペシャリスト型の“半”個人事業主の活躍場所です。


これからの役割分担

 次回(最終回)は、業務委託(個人事業主)制度導入のステップについて解説していきたいと思います。

【筆者プロフィール】
木村勝(きむら・まさる)

人事インディペンデント・ コントラクター(独立人事業務請負人)、中高年専門ライフデザイン・アドバイザー、電気通信大学特任講師。
1961年 東京板橋区生まれ、一橋大学社会学部卒。
1984年 日産自動車に新卒で入社後人事畑を歩み続ける。
2006年 社命により日産自動車を退職し、全員が人事のプロ集団という関連会社に転籍。中高年のセカンドキャリアをサポートする部門の部長としてセカンドキャリア支援業務(出向・転籍・転職等)に従事。
2011年 所属する会社がM&Aにより外資系企業に買収され、それを契機に真剣に自分のセカンドキャリアを考え始める。
2014年 一度の転職経験のない状態から独立し、「リスタートサポート木村勝事務所」を開設。
特定人材紹介会社に所属することなく、ニュートラルな立場でキャリア相談に精力的に取り組み、自分の会社の人事部には相談できないビジネスパーソンのキャリアの悩みに対して個人面談やセミナーなどを通じて支援している。
また、約30年間で培った知見をもとに独立後も企業内人事部に籍を置き、面接、研修などの人事業務サポートや日々発生する人事課題に対応する現役の専門家の顔を持つ。

著書に
『働けるうちは働きたい人のためにキャリアの教科書』(朝日新聞出版)
『知らないと後悔する定年後の働き方』(フォレスト出版)
『ミドルシニアのための日本版ライフシフト戦略』(WAVE出版、共著)
がある。


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