業務委託(個人事業主)制度導入のステップ
「“半”個人事業主」というシニアの新しい働き方について、リスタートサポート木村勝事務所 代表 木村勝氏からコラムをお寄せいただいています。最終回は、“半”個人事業主を実際に導入する際の手順と注意点についてです。 |
業務委託(個人事業主)制度導入のステップについては以下の通りです。
(1)業務委託に関する企業側・シニア側双方の理解
(2)委託業務の内容決定
(3)報酬額の決定
(4)業務委託契約書の作成・締結
(5)業務委託によるサービスの提供開始
特に重要なのは(1)のプロセスになりますので、ここでは (1)を中心に解説したいと思います。
◆〈業務委託に関する企業側・シニア側双方の理解がポイント〉
雇用という働き方が世の中のメインという状況の中で、個人事業主という新たな働き方を実現させていくためには、「個人事業主と労働者の違いは何か」、「雇用契約と業務委託契約の違いは何か」についてまずは企業・シニア双方がしっかり理解していなければなりません。
◆ 〈最大の違いは指揮命令の有無〉
図は、労働契約における会社との関係を表した図です。
労働契約の締結により、会社と労働者の間には、「使用従属関係」が生じます。この「使用従属関係」により、労働者は職場秩序に従って使用者の指揮命令を受け労務に服することになります。
この 「指揮命令」 の有無が労働者と個人事業主を分ける最大のポイントです。
個人事業主は、会社と対等の関係で業務委託契約(あるいは請負契約など)を締結して自らのサービスを提供します。会社からの指揮命令は受けません。逆に会社から指揮命令を受けて働くのであれば、それは個人事業主ではなく労働者です。たとえご自身が個人事業主と名乗り業務委託契約を締結していたとしても実態として指揮命令を受けているのであれば、それは労働者になります。
〈今まで当たり前だった勤務管理も対象外〉
労働基準法などの労働法は労働者に適用される法律です。個人事業主は、労働者ではありませんので、労働基準法などの労働法規の適用はされません。
そのため今まで労働者として働いていたときには当たり前だった勤務管理も対象外になります。したがって、時間外(残業)とか休日出勤(休出)という概念は個人事業主にはありませんので、残業手当も休日出勤手当も当然支払われません。個人事業主として働く際には、このあたりの意識転換もしなければなりません。
また、ここでの解説は紙面の関係上省きますが、労働者の場合には意識せずに当然のように加入している社会保険や労働保険についても業務委託では取扱いが変わってきます。
〈委託業務の内容と報酬額の決定〉
続いて、(2)委託業務の内容決定と(3)報酬額の決定についてです。
“半” 個人事業主は、業務委託契約(あるいは請負契約)を会社と締結して仕事をしていくことになりますので、まずは業務委託契約書を作成する必要があります。
業務委託契約書の中で最も重要なポイントは「委託業務の内容」と「報酬額」の設定です。
【委託業務の内容】
“半”個人事業主として仕事をしていくうえで一番重要なことは、「何をするか」 です。業務内容に関しては、想定しうる業務はできる限り洗い出して「見える化」し記載したほうがお互いトラブルになりません。会社としても社員に任せる仕事と個人事業主に任せる仕事が明確になることで洩れダブりもなくなり、効率的な業務運営ができるようになります。
【報酬額の設定】
個人事業主の報酬は、自分の提供するサービスが市場でどれくらいの価値で評価されるか、いわゆる市場原理で決まります。労働者とは異なり、働いた時間に比例して報酬が決まるのではありません。「かけた時間」ではなく「出した成果」を評価して決められるのが個人事業主の報酬の基本です。
しかしながら、“半”個人事業主として最初に契約する報酬水準に関しては、クライアント企業の要求する業務内容・水準や “半”個人事業主側の実力なども異なりますので、市場相場で決めることは難しいのが実状です。
それでは、“半”個人事業主が初めて今まで労働者として勤務していた会社と業務委託契約を結ぶ際の報酬はどのように考えたらよいでしょうか?
“半”個人事業主の報酬額設定の際にベースとなるのが雇用で働いていた(働いた)と想定した場合の“実質”給与です。このベースとなる給与は、給与明細に示されている額面の額だけではありません。会社は、労働者を雇用することによって表面上の給与以外に様々な費用を負担しています。そのような隠れた会社負担分を織り込んだうえで「もしそのまま雇用契約で働いていたら会社としていくら負担するか」をベースにしてそのうえで個別条件を加味して決めていくと双方納得性が高く、合意に至りやすいです。
〈終わりに〉
第1回コラムにてシニア活躍のための多様な選択肢を準備することを提言させていただきました。制度導入にあたっては、こうした新たな働き方が会社・シニア双方にとってメリットがあることをお互いがきちんと理解したうえで行っていくことが成功のポイントになります。
パーソル総合研究所の「シニア従業員とその同僚の就労意識に関する定量調査」(2021年5月公表)によるとシニア層の働きぶりが若年社員の転職意向に影響を与えているという結果が出ています。業務委託により個人事業主として働く選択肢は、兼業・副業が当たり前となりつつある若手社員にとっても魅力ある働き方に映ります。
4回にわたるコラムをお読みいただきありがとうございました。今回コラムでご紹介させていただいた “半” 個人事業主というシニアの働き方については、11月下旬に出版予定の拙著にて詳しく解説をしておりますので、ご興味のある方はぜひご覧ください。
【筆者プロフィール】 木村勝(きむら・まさる) 人事インディペンデント・ コントラクター(独立人事業務請負人)、中高年専門ライフデザイン・アドバイザー、電気通信大学特任講師。 著書に |