心理的安全性を実現し、組織の生産性を上げるコミュニケーションとは
前回の星和HRインフォメーションでは、心理的安全性を実現させるために、アサーティブ・コミュニケーションの考え方とスキルを身につけることの重要性について日本アンガーマネジメント協会理事 戸田久実氏より解説をいただきました。
今回は、実際にアサーティブ・コミュニケーションをチームに取り入れる方法について解説していただきます。 |
◆伝えたいことのゴールを明確にする
相手に何かを伝えるとき、一番重要なことは「いま自分はここで相手に何を伝えたいのか」「何を目的としたコミュニケーションなのか」というゴールを明確にするということです。研修での質疑応答や相談の場でもさまざまなケースを耳にしますが、このゴールが明確ではない、あるいは、ぶれてしまう方が多く見受けられます。
例えば、相手からどう思われるかが気になる方や、「こんなことを言ったら嫌われるのではないか…」というネガティブな思い込みを持つ方は、「いかに自分が悪く思われないようにするか」「波風を立てないようにするか」ということに意識が向いてしまうことがあります。
「〇〇を相手にわかってほしい」「自分の考えを伝えたい」というところにゴールがなく、「機嫌を損ねないようにする」ことに意識が向くため、何かをお願いする際にも、「手が空いたらでいいのですが…」「…無理にという訳ではないのですが」「できればでいいのですが…」など、必要以上にへりくだり、まわりくどい言い方になりがちです。
また、「自分の意見や考え方が正しい」「〇〇するのが当たり前」と思い込むことや、相手が自分よりもキャリアが浅い、立場が下の場合に「こちらの言うことに従うべき」という思いを抱き、相手を打ち負かすこと、論破することがゴールになってしまうケースもあります。
相手を叱るとき、目的とすべきは相手の成長のために意識と行動を改善してもらうことですが、相手が意に添った行動をすることができないとき、「本来こうすべきなのに」と相手をやり込める、相手がいかに間違っているかを突きつけるだけになってしまう人もいます。
あるいは、「今後、どうしてほしいのか」「なぜそれが重要なのか」を相手に伝えることなく、「なぜ〜しない?」と追い詰めていくだけの人もいます。
何を伝えたいのか、本来何を目的としてのコミュニケーションなのか、ゴールを間違えず、自身の中で整理することは良好なコミュニケーションをとる上で大切なプロセスです。
◆可視化して伝えたいことを明確にする
伝えたいことを明確にするためにも、書き出してみることをおすすめしています。
研修では、ロールプレイング実習に取り組むことがあるのですが、そのための準備として
・ここで一番伝えたいことは何か
・どこまでのことをわかってほしいのか、そのために言うことは何か
内容によっては
・なぜ、何のために〇〇してほしいのか
これらを言語化することで伝えたいことを明確にしていきます。
リモートワークが進み、ネガティブなフィードバックなど言いにくいこともオンラインで伝えなければならなくなったという方もいます。
対面ならば伝えた後も観察でき、場合によってはフォローもできるけれど、オンラインではそうはいきません。だからこそ、どのような言葉を選び、どこまでのことを伝えるのか、可視化し整理してから伝えるようになったという方も多くなりました。
◆「同意」でなくても「理解」はする
正しいコミュニケーションの先にある心理的安全性は、建設的な議論ができるようになることが目的なので、相手の言うこと全てに同意してその場を丸くおさめようということではありません。
価値観も多様化しているので、相手と意見が異なることもあるでしょう。
そのような場合に、「おっしゃることはわかりますが」「でもね」「そうは言っても」と相手の意見をすぐにはじき返すことなく、一旦受けとめて理解したことを示しましょうと研修ではお伝えしています。
はじき返すことにより、相手もさらに「でもね!」とはじき返してきたり、「受けとめてくれない相手との話し合いはできない」と、話し合うことをやめてしまう人もいるでしょう。
そうならないために「□□さんはこう思うのですね」「〇〇してほしいということですね」と受けとめ、その後に、「なぜそのように思ったのか」という背景に耳を傾けたり、自分はどう思っているかを伝えたり、そこから対話をスタートさせてみましょう。
【筆者略歴】 戸田久実(とだ・くみ) アドット・コミュニケーション株式会社 代表取締役 立教大学文学部卒業後、株式会社服部セイコー(現 セイコーホールディングス株式会社)にて営業、その後音楽業界企業にて社長秘書を経て2008年にアドット・コミュニケーション株式会社を設立。 【著書】
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