働きながら「幸せな介護」を目指す
これから4回にわたり、介護問題に取組む、「一般社団法人QOLアカデミー協会」「株式会社QOLアシスト」の代表 矢野憲彦氏からビジネスパーソンが理解すべき介護問題についてお話をいただきます。 |
◆人生の質を高めるために
このメールマガジンをお読みになっている皆様の中には、そろそろ家族の介護や将来のことが心配になっている方や、すでに介護の悩みや不安を抱えている方もいるのではないでしょうか。
今は介護の不安はないという方も「辛く、苦しく、悲しい」と考えられがちな介護を恐れて見ないふりをしていらっしゃるのかもしれませんね。
しかし、高齢の親や家族を持つ方であれば、明日にでも介護問題に直面する可能性があります。
この「介護」という人生における大きなイベントが、自分の人生や仕事を犠牲にするものではなく、家族に喜ばれ、満足いくものにできたら素晴らしいと思いませんか?
私が代表を務める一般社団法人QOLアカデミー協会、株式会社QOLアシストでは、シニアとその家族の人生の質(QOL=クオリティーオブライフ)を高めるための活動を行っていますが、このQOLを高めるためには、「介護」という課題を避けて通ることはできません。
このメールマガジンでは、これから4回にわたり介護に関する情報を発信してまいりますが、働く世代の方々に後悔のない人生とQOL向上を実現し、「幸せな介護」を実感いただくヒントとなれば幸いです。
◆日本の超高齢社会の現状と課題について
今、日本が超高齢社会に突入しているということは皆様もご存知のところだと思います。WHOの定義では65歳以上を「高齢者」と定義しています。そして、ある国の65歳以上の人の割合を「高齢化率」として発表しています。
高齢化率が7%を超える社会を「高齢化社会」、14%を超えると「高齢社会」、21%を超えると「超高齢社会」としています。
日本ではそれとは別に65歳以上75歳未満の人を前期高齢者、75歳以上の人を後期高齢者と呼んでいます。
日本では1950(昭和25)年頃の高齢者は総人口の5%程度でした。その後1970(昭和45)年は7%、1994(平成6)年は14%を超えています。
そして現在、65歳以上人口は3,627万人で総人口の29.1%を占めています※1。
この高齢化率は、WHOが定義する「超高齢社会」の21%以上の基準を大きく上回っており、他の国と比べても突出して高い水準です。
ちなみに世界の国の高齢化率(2020年)でみてみると、アメリカ16.6%、中国12.0%、フランス20.8%、インド6.6%です※2。
日本の高齢化は今後も進行すると見込まれており、2065(令和47)年には65歳以上人口は総人口(8,808万人)の38.4%で約2.6人に1人、3.9人に1人が75歳以上となる社会が到来すると推計されています※3。
◆少子高齢化の現状と課題
高齢化と共に問題となっているのは「少子化」です。1人の女性が一生涯に平均して出産する子どもの数を示す合計特殊出生率が2.1以上であれば、人口は増加するとされています。
日本では1960年代から1970年代初頭にかけては、おおむね2.0以上という高い水準を維持していました。しかし、1970年代中頃以降、急速に低下し、1.5以下にまで落ち込み、2020年代に入ると約1.3前後で推移しています。2022年には、新型コロナによる影響で、過去最低だった2021年の1.30を0.04ポイント下回り過去最低の1.26を記録し、出生数も前年を4万875人下回る77万747人となり、初めて80万人台を割り込みました※4。
1947年から1949年は第一次ベビーブームで、出生数は急増しました。この3年間に約964万人が生まれ、「団塊の世代」と呼ばれています。2025年にはこの世代が75歳以上の後期高齢者になり、医療や介護などの社会保障費の増大が懸念され、「2025年問題」ともいわれています。
年齢と共に要支援・要介護の認定を受ける人の割合は増えていきます。60代のうちは3%未満にとどまりますが、70代に入ってからどんどん上昇していき、85歳以上では60%まで達してしまいます。また、認知症患者の数も2015年時点では517万人でしたが、2020年では602万人、2025年には675万人に達し、2050年には1,000万人に届く可能性もあります。2040年には高齢者の46.3%、つまり2人に1人が認知症を発症する可能性があるといわれています※5。
要支援・要介護者の増加は介護職員の不足も深刻化させます。厚生労働省は介護職員の数が、2025年度に約32万人、2040年度に約69万人不足すると発表しています※6。
介護職員が不足するということは、皆さんの家族が要介護状態になっても質の良い介護支援を受けることが難しくなるということです。必然的に介護に関して、家族が負担する比重が高くなるということを考慮しておいてください。
以上、私たちの置かれている現状をご理解いただけたでしょうか? 今はまだ実感がない方も多いかもしれませんが、今のうちに準備をしておかないと、介護で苦悩し、体調を崩し、仕事を辞めなければならない事態になるかもしれません。
最悪の事態を避けるために、次回は、家族の介護の現状と介護離職を避ける方法についてお伝えしたいと思います。
※1 総務省 統計トピックスNo.132「統計からみた我が国の高齢者」
※2 内閣府「令和4年版高齢社会白書 全体版」
※3 内閣府「令和4年版高齢社会白書 全体版」
※4 厚生労働省「令和4年(2022)人口動態統計月報年計(概数)の概況」
※5 ニッセイ基礎研究所 基礎研レポート2023-07-25「令和 5 年全国将来推計人口値を用いた全国認知症推計(全国版)」
※6 厚生労働省 社会・援護局「第8期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について」
【筆者プロフィール】 矢野 憲彦(やの・のりひこ) 株式会社 QOLアシスト 代表取締役 |
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