介護離職を防ぐ職場の支援
介護職員の育成と介護問題の解決に取り組む、矢野憲彦氏のコラム。 3回目の今回は、介護離職のデメリットと介護離職を防ぐための仕組みや取り組みについてお話をいただきます。 |
●介護離職のデメリット
前回のメールマガジンでは家族介護の現実についてお話ししました。
介護の知識や準備、制度を理解していないと、介護は精神的にも肉体的にも苦しくつらいものになってしまいます。毎年約10万人が介護離職をしています。また、介護と仕事の両立がつらく、仕事を辞めたら楽になるだろうという考えは大きな誤りです。安易に離職してしまうと、個人的には以下のような問題が生じます。
・収入が減少し、生活水準が低下する。
・キャリアやスキルが停滞し、再就職が困難になる。
・仕事と介護のバランスが崩れることで、心身の健康が損なわれる。
・介護をする人、介護を受ける人双方の生活の質(QOL)が低下し、家族との関係が悪くなる。
また、企業や組織においても、労働力や生産性が減少し、競争力やイノベーション力が低下してしまうかもしれません。
これらの問題は、今後ますます深刻化する可能性がありますし、コロナ禍で在宅勤務やテレワークが普及したことで、仕事と介護の境界線が曖昧になり、家族介護を担う方の負担が増加している例は少なくありません。
安易な介護離職のデメリットについてはおわかりいただけたでしょうか。ここからは、介護離職を防ぐための対策についてお話しいたします。
●介護離職を防ぐために
◆介護保険制度の理解と活用
40歳以上の方は、毎月給与から介護保険料が引去りされています。介護保険制度とは、高齢者や障がい者が自立した生活を送るために必要な介護サービスを受けられるようにする制度です。
介護保険制度を利用するには、まず介護認定を受ける必要があります。介護認定とは、介護保険の給付対象となるか否か、介護の必要度を判定することです。
認定調査員が自宅や施設などで面接や身体機能の測定を行い、その結果をもとに専門家の会議で介護の必要性と要介護度が判定されます。
介護認定の結果は、要支援1・2や要介護1~5の7段階に分類され、段階に応じて介護者(家族など)とケアマネージャーが相談しながらケアプランを作成します。
サービスには在宅サービスや施設で生活する入所サービスなどがあるので、これらを上手に活用しながら仕事との両立を目指しましょう。
◆介護と仕事の両立支援制度
1.介護休業制度
社員が要介護状態にある対象家族を介護するための休業で、 休業期間中に、仕事と介護を両立できる体制を整えることが大切です。
・対象家族:配偶者(事実婚を含む)、父母、子※1、配偶者の父母、祖父母、兄弟姉妹、孫。
・対象労働者※2:対象家族を介護する男女の労働者(日々雇用を除く)。
・休業期間:対象家族1人につき3回まで、通算93日まで休業できます。
・休業給付金:雇用保険の被保険者で、一定の要件を満たす方は、介護休業期間中に休業開始時賃金月額の67%の介護休業給付金が支給されます。
2.短時間勤務制度※3
社員が要介護状態にある対象家族を介護するための所定労働時間の短縮等の措置のことです。
・対象家族:配偶者 (事実婚を含む) 、父母、子※1、配偶者の父母、祖父母、兄弟姉妹、孫。
・対象労働者:対象家族を介護する男女の労働者(日々雇用を除く)。
・勤務時間:通常の勤務時間よりも短い時間で働くことができます
(週30時間の勤務などが一般的です)。
・給与:勤務時間に応じた給与が支給されます
(週30時間勤務なら、週40時間勤務と比べて給与は7割程度になります)。
・制度の活用方法:社員と会社が相談し、適切な短時間勤務のスケジュールを決定します。
3.介護休暇制度※4
社員が要介護状態にある対象家族を介護するための休暇で、年次有給休暇とは別に取得できます。
・対象家族:配偶者(事実婚を含む)、父母、子※1、配偶者の父母、祖父母、兄弟姉妹、孫。
・対象労働者※5:対象家族を介護する男女の労働者(日々雇用を除く)。
・休暇期間:対象家族1人につき年5日(対象家族が2人以上の場合は年10日)まで、1日単位、時間単位での取得ができ、対象家族の病院の付き添いや施設への送迎などに利用することができます。
休暇給付金:介護休業給付金とは異なり、介護休暇には給付金の制度はありません。
これらの介護制度やサービスを活用し、決して一人で介護を抱え込まないようにしましょう。
※2労使協定を締結している場合に対象外となる労働者もいます(入社1年未満の労働者、申し出の日から93日以内に雇用期間が終了する労働者、1週間の所定労働日数が2日以下の労働者)。
※3短時間勤務等の措置は、会社によって利用できる制度が異なります。
※4有給か無給かは、会社の規定によります。
※5労使協定を締結している場合に対象外となる労働者もいます(入社6か月未満の労働者、1週間の所定労働日数が2日以下の労働者)。
◆職場で支える家族の介護
1.介護について相談しやすい職場づくり
介護に直面したときに同僚、上司、人事担当者などに相談しやすい環境づくりのためには、誰もが介護に直面する可能性があることを知り、日頃から情報の共有と介護に関する基本知識を持っていることが大切です。
2.介護に直面しても活躍し続けられる職場づくり
介護に直面すると残業ができなかったり、急な休暇をとるなどの可能性があります。チームワークと柔軟で多様な働き方で成果を出し続けられる職場づくりが重要です。日本の超高齢社会では、家族介護は大きな課題です。家族の介護と仕事が両立できるようになれば、社会全体がより豊かで活力あるものになり、家族のQOLも向上することになります。
以上、介護離職を防ぐための考え方や制度の活用について少しだけお話ししました。
次回の最終回では、介護を苦しみではなく、介護を経験することによって人生をより充実したものにする「幸せな介護」の進め方についてお話しします。
【筆者プロフィール】 矢野 憲彦(やの・のりひこ) 株式会社 QOLアシスト 代表取締役 上級心理カウンセラー、介護離職防止対策アドバイザー®、心療回想士、ヘッドリンパセラピスト、JADP認定メンタル心理カウンセラー®、1級フードアナリスト®などの資格取得。 |
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