家族の介護は突然やってくる!

 介護問題に取り組む、「一般社団法人QOLアカデミー協会」「株式会社QOLアシスト」の代表 矢野憲彦氏からビジネスパーソンが理解すべき介護問題についてお話をいただきます。今回は、突然はじまる介護の時、介護者に何が起こるのかをご説明いただきます。

◆家族介護の現状と苦悩
 前回のメールマガジンでもお伝えしたとおり、我が国の高齢化は急速に進んでいます。それに伴い、今後は介護を必要とする方が急速に増えることが予想されます。
もし明日、ご家族が突然倒れ、あなたが介護を担うことになったとしたら、あなたの人生、仕事、家庭、収入、健康、未来はどうなるのか、考えたことはありますか?

 家族介護とは、身近な家族を自宅で介護することをいいます。日本では、高齢者の約8割が自宅で暮らしており、そのうちの約6割は家族介護を受けています。

 家族介護は、大切な家族を見守るという意味で素晴らしいことですが、同時に肉体的、精神的、経済的に受ける負担から、ストレスを感じて感情的になってしまう介護者の方もいます。また、仕事と介護を両立させることが難しく、介護者の多くが仕事を辞めるか、減らすことを余儀なくされています。

 介護でストレスを感じてしまう主な原因には以下のことがあげられます。

◆一人で抱え込む
相談できる家族や、手伝ってくれる人がいないと、全ての介護を一人で抱え込んでしまい、身体的にも精神的にも過度のストレスを感じます。

◆自分の時間が制限される
家庭環境や要介護者の状態によっては、1日中離れられない状態となり、毎日の生活を要介護者のペースに合わせるために、自由に自分の時間が取れなくなります。

◆疲労や睡眠不足に陥る
身体が不自由な方を介護する場合、車いすやベッドへの移乗や移動により介護者の身体的な負担は大きくなります。また、夜のトイレ介助や徘徊、たんの吸引などで介護者の疲労は慢性的なものとなり、睡眠不足に陥ることも珍しくありません。

◆経済的に不安定になる
自宅での介護には、住居の改修に加え、介護用ベッドや車椅子など、多くの介護用品が必要となることから、支出がかさみます。また、介護者の中には、仕事を時短にするだけでは対応できず、仕事を辞めざるを得ない状況となる場合もあり、介護がはじまると、支出の増加に加え、減収となることも多くあります。

◆「介護うつ」になる
介護者がストレスを溜めすぎると、うつ状態に陥ることもあります。介護うつとは、介護者が身体的、精神的にストレスを溜め込むことが原因となり発症するうつ病。本人や周囲の人も気づきにくく、知らず知らずのうちに症状が進行し、気づいた時には深刻な状態になっていることも多々あります。
この、うつ状態が悪化し、自殺や虐待、介護殺人に発展するケースも毎年のように起こっています。

 ここで、本人も周囲も気づきにくい介護うつの症状について少しだけ触れておきます。以下のような症状が2週間以上続くと、介護うつの可能性があります。定期的に確認を行い、変化を感じた場合には医師に相談しましょう。

症状 特徴
食欲不振 食欲がわかず、体重の減少や体力の低下につながる
睡眠障がい 疲れているのに眠れない、何度も目が覚めるといった症状が現れる
慢性的な疲労感 疲労が取れず、肩こりや腰痛、頭痛といった不調が続く
無気力、無関心 気分が落ち込み、何事にもやる気や関心が起きなくなる
焦燥感 原因がわからない不安や焦りを感じ、神経質になることがある
自殺願望 介護うつによる思考障がいから、自殺願望が生まれることがある
国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター発表のデータを基に筆者作成    

◆人生を介護の犠牲にしないために
 介護に直面すると、「何をしたらよいのだろう?」「お金はどうしよう?」「いつまで続くのだろう?」といった不安がわいてきます。これまでに介護の経験がない方ならなおさらです。

 あなたの人生を介護の犠牲にしないために、そして、幸せな介護を実現するためには、知っておくべき事や、取り組むべき事があります。これらをしっかり理解し、実践することで、介護による不安や苦労、ストレスは、かなり和らぐと思います。

 突然の介護に立ち向かうための主なポイントは以下のとおりです。

◆介護の知識と計画
介護は突然やってくることが多いため、事前の準備は不可欠です。
まずは、お住まい地域の「地域包括支援センター」の場所や連絡先を調べましょう。また、介護保険や支援制度などの内容を理解し、有事の際に上手く活用することが大切です。

◆家族や友人のサポートを受ける
単独で介護を行うことはとても困難で、支えが不可欠です。家族や友人と協力し、介護の負担を分散しましょう。近所の方の助けを借りることもできるかも知れません。

◆自分の身体のケアをしっかりと
ご自身の健康と幸福は、介護を成功させるためにも不可欠です。適切な休息を取り、燃え尽き症候群(バーンアウト)を防ぐためにも自身の時間を確保しましょう。介護者の健康こそが、家族の介護を行う時に最も重要となります。

◆介護離職を避ける
家族介護を経験した人なら、その苦労と疲れから「仕事を辞めて介護に専念した方が楽になるのでは」と考えたことがあるかもしれません。しかし、仕事を辞めると経済的にはもちろんのこと、かえって精神的、肉体的な負担を増大させることになります。

 家族の介護は突然やってきますが、準備と対策を行うことで乗り越え、幸せな介護を実現することができます。一方、それらを怠っていると、あなたの健康や人生の大きな負担になりかねません。

 次回以降のメールマガジンでは、介護による離職を避け、人生をより豊かにするヒントについてお話しいたします。

【筆者プロフィール】
矢野 憲彦(やの・のりひこ)

株式会社 QOLアシスト 代表取締役
一般社団法人 QOLアカデミー協会 代表理事
関西学院大学卒業。東京の健康医学の研究所にて自然治癒力の研究と教育に専念。
東京大学大学院医学系研究科に研究生として通い、健康講座を全国で1,400回以上開催、健康人生相談は5,000件以上実施。
2010年独立後、介護の学校を立ち上げ1,800名以上の介護職員を養成。シニアとその家族の人生の質(QOL)を高めることを使命に活動中。
 現在、高齢の親が家族に迷惑をかけず、悔いのない人生を送るために、認知症予防や自己肯定感向上をサポートし、見守りと親孝行ができる「わた史書・回想サービス」を展開中。
 上級心理カウンセラー、介護離職防止対策アドバイザー®、心療回想士、ヘッドリンパセラピスト、JADP認定メンタル心理カウンセラー®、1級フードアナリスト®などの資格取得。

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