幸せに働くことのメリットは?
前号に引き続き、10月5日(水)に開催の「星和CareerNext2022第4回公開セミナー」にて 「社員と組織を幸せにする幸福学」というテーマでご講演をいただく慶應義塾大学大学院の 前野隆司教授のお話をお届けします。 2回目となる今回のテーマは「幸せに働くことのメリットは?」です。 |
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働き方改革、健康経営、人的資本経営などの重要性が叫ばれる中、幸福経営に注目が集まっています。
このため、今回は、働き方と幸せについて考えてみましょう。
企業の目的は利益を上げることでしょうか、従業員を幸せにすることでしょうか。
この問いを7年くらい前にSNSで投げかけた時、炎上しました。
「企業の目的は株主の利益のため。そんな基本もわかっていないのか」と教え子にまで批判されたものです。
それから数年、SDGs、社会企業、ESG投資、人的資本経営などの概念が脚光を浴びるとともに、アメリカでも企業の目的は株主利益ではなくマルチステークホルダーの利益だと言われ始めるなど、Well-being中心社会への大きな価値転換が進んでいます。
Well-beingとは、読んで字のごとく「良い状態」を表します。
英和辞典を引くと、健康、幸せ、福利、福祉とあります。
つまり、Well-beingは身体的、精神的、社会的に良い状態を表し、「幸福」や「幸せ」よりも広い意味を持つ単語です。
Happinessは感情的に幸せな状態、すなわち、短期的な心の状態を表しており、「幸福な人生」のように長期的な心の状態も表す幸福・幸せよりも狭義の単語だというべきでしょう。
本稿で幸せという時にはWell-beingを意味すると捉えていただければ幸いです。
学術的には、もともと心理学分野で行われてきた幸福研究が、近年では、行動経済学、医学、脳神経科学、テクノロジーなど、様々な分野で行われるようになってきました。
多くの研究の結果、幸せには様々な事柄が影響することも明らかにされています。
すなわち、幸福度とGDPや収入との関係、幸福度と格差の関係、幸福度と従業員の創造性・生産性・欠勤率・離職率との関係、長続きする幸せと長続きしない幸せ、幸福度と環境・健康・寿命・心的要因の関係などです。
経営学においても多くの幸福経営研究が行われています。
従業員を幸せにする経営の有効性として世界中で様々なエビデンスが得られています。
幸せな社員は不幸せな社員よりも創造性が3倍高い、生産性が30%高い、欠勤率が低い、離職率が低いなど、多くのことが明らかにされています。
また、幸せな社員は、利他的で、他人を助け、チャレンジ精神が強く、仕事への満足度が高く、エンゲージメント(会社や仕事への愛着や没頭の傾向)が高く、モチベーションが高く、レジリエンス(危機から立ち直る力)が高く、出世も早いことが知られています。
これらより、すでに幸福経営は科学的に考えて必須です。
従来の合理的経営とは、精神論は抜きにして、資源を適切に分配し生産性が高く効率的な経営を行うことでした。
しかし、合理性・生産性の価値軸が変化したのです。
いまや精神論は科学になりました。
ワクワク生き生きと幸せに働く社員は創造性・生産性が高く離職率・欠勤率が低いのですから、社員が幸せに働いているか否かというパラメーターも考慮して経営を行うことが科学的・合理的な経営となったのです。
もっというと、短期的な利益よりも従業員の幸せを重視した方が長期的な利益につながると考えられます。
幸福経営は流行ではなく科学なのですから止められません。
近い将来、社員の幸せを考えない経営は基本的人権の侵害ないしはハラスメントとみなされる時代が到来するでしょう。
怒鳴ってでも叱ってでもノルマの分だけ働かせるのが合理的という前近代的な考え方は幸福論・精神論の科学が発展する前には存在し得ましたが、現在および未来にはありえなくなりました。
経営者・管理職・人事担当者は最先端の幸福経営学を学んで新しい合理的経営を行うべきなのです。
〇 働く人の幸せ・不幸せの14因子
幸せに働く人は生産性・創造性が高く、欠勤率・離職率が低いことを、前に述べました。では、人々が幸せに働くためにはどのような要因が必要なのでしょうか。
慶應義塾大学前野研究室とパーソル総合研究所は2020年7月に「はたらく人の幸せに関する調査」の結果を公表しました。
ここでは、幸せと不幸せは単なる反意語ではなく、幸せな働き方の条件と不幸せな働き方の条件は異なるのではないかという仮説のもとに、はたらく人の幸せの7因子、不幸せの7因子を求めました。
2020年2月に国内の4634人に対して行ったアンケートの結果を因子分析して求めたものです。
また、これらの結果が生産性やエンゲージメント(仕事への没入、愛着)に関係することや、業種ごとの値の違いも分析しました。
はたらく人の幸せの7因子は、自己裁量因子(マイペース因子)、自己成長因子(新たな学び因子)、リフレッシュ因子(ほっとひと息因子)、他者貢献因子(誰かのため因子)、役割認識因子(自分ゴト因子)、他者承認因子(見てもらえてる因子)、チームワーク因子(ともに歩む因子)の7つから成ります。
また、はたらく人の不幸せの7因子は、オーバーワーク因子(ヘトヘト因子)、自己抑圧因子(自分なんて因子)、不快空間因子(環境イヤイヤ因子)、評価不満因子(報われない因子)、協働不全因子(職場バラバラ因子)、疎外感因子(ひとりぼっち因子)、理不尽因子(ハラスメント因子)の7つです。
これらの値は、各因子につき3問、14因子合計42問のアンケートに答えることによって求まります。
オンラインサイトも開設していますので、アンケートに答えて全国平均との差を確認してみることもできます。
また、調査結果に基づいて話し合ったり、幸せ改善提案活動を行ったりすることによって、幸福度を向上させることができるでしょう。
ただし、アンケートのような定量調査に傾注しすぎないことも重要です。
なぜなら、アンケートには残念ながら誤差や不正が付きまとうからです。
また、私は社員が幸せに働く多くの会社を見てきましたが、極めて幸せな会社は数値では測りきれないやる気とつながりに満ちています。
よって、質的な方法も重視すべきでしょう。
また、バイタルデータの計測や人工知能の利用など、テクノロジーを用いる方法も発展することでしょう。
今後、様々な手法で働く幸せが模索されていくと考えられます。
参考資料
(1)『幸福学×経営学 次世代日本型組織が世界を変える』
前野隆司・小森谷浩志・天外伺朗 (内外出版社 2018年5月)
(2)『幸せな職場の経営学-「働きたくてたまらないチーム」の作り方』
前野隆司 (小学館 2019年6月)
(3)『「はたらく人の幸福学プロジェクト」の成果を発表 はたらく幸せ・不幸せをもたらす7つの要因を特定。誰でも幸福度を測れるツールを公開』
(慶應義塾大学前野研究室とパーソル総合研究所 2020年7月15日)
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【筆者プロフィール】 前野隆司 氏(まえの・たかし) 前野隆司(まえの・たかし) 工学博士 1984年東京工業大学卒業、1986年同大学修士課程修了。 専門は、システムデザイン・マネジメント学、幸福学、イノベーション教育など。 キヤノン株式会社、カリフォルニア大学バークレー校訪問研究員、ハーバード大学訪問教授等を経て現在慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科教授。慶應義塾大学ウェルビーイングリサーチセンター長兼務。 日本機械学会賞(論文)(1999年)、日本ロボット学会論文賞(2003年)、日本バーチャルリアリティー学会論文賞(2007年)などを受賞。 【著書】
『アドラー心理学×幸福学でつかむ!幸せに生きる方法』 前野隆司・平本あきお(ワニブックス 2021年)、『無意識がわかれば人生が変わる』 前野隆司・由佐美加子(ワニブックス 2020年)、『脳はなぜ「心」を作ったのか』 前野隆司(筑摩書房 2004年)など他多数。 |
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