幸せの4つの因子
慶應義塾大学大学院の前野隆司教授の連載(最終回)をお届けします。 今回のテーマは「幸せの4つの因子」です。 前野教授には、本日(10月5日)13:30から開催される「星和CareerNext2022公開セミナー」にて、「社員と組織を幸せにする『幸福学』」というテーマでご講演いただきます。 お申し込みがまだの方は、お急ぎください。 |
最終回となる今回は、「幸せ」一般についての研究結果について紹介しましょう。
経済学者ロバート・フランクは、他人と比較できる財を地位財、比較できない財を非地位財と名付けました。地位財には、金、物、地位などがあります。
これらによる幸福感は長続きしない傾向があると言われています。
それは、慣れの効果や、より上を目指す効果によると考えられています。
一方の非地位財は、幸福感が長続きする財です。
こちらは、心的、身体的、社会的に良好な状態(ウェルビーイング)が影響すると言われています。
私が行ったのは、心的幸福の因子分析です。
1980年ごろから、どのような心的要因が幸せに寄与するのかについての多くの研究が行われてきました。
そこで、私たちは、幸せの心的要因についての87個の質問を1500人の日本人に対して行い、その結果を因子分析しました。
その結果得られたのが幸せの4つの因子です。
第1因子は、やってみよう!因子(自己実現と成長の因子)。
やりがい、強み、成長などに関係する因子です。
やってみようの反対は、やらされ感、やる気がない、やりたくない。そんな人は幸福度が低い傾向があります。
第2因子は、ありがとう!因子(つながりと感謝の因子)。
感謝する人は幸せです。
また、利他的で親切な人は幸せ。多様な友人を持つ人は幸せです。逆に、孤独感は幸福度を下げます。つながりが醸成された社会・コミュニティーを作ることが重要です。
第3因子は、なんとかなる!因子(前向きと楽観の因子)。
ポジティブかつ楽観的で、細かいことを気にしすぎない人は幸せです。
リスクを取って不確実なことにチャレンジしイノベーションを起こそうとするマインドもこの因子に関連しています。
第4因子は、ありのままに!因子(独立と自分らしさの因子)。
人と自分を比べすぎる人は幸福度が低い傾向があります。
自分軸を持って、人と比べすぎずに我が道を行く人は幸せです。
これら4つの因子を満たしている人は幸せです。
ぜひ、みなさんも、ご家族、職場やコミュニティーのお仲間も、4つの因子を満たして幸せに生きてください。
〇 幸せと健康・長寿
みなさんは長生きしたいですか?
幸せな人は不幸せな人よりも寿命が7年から10年長いという研究結果があります。
また、幸せな人は免疫力が高く、健康であるという研究結果もあります。
つまり、私たちが「健康に気を配る」ように「幸せに気を配る」べき時代がやって来たのです。
では、横軸に年齢、縦軸に幸福度を取ったグラフはどのような形を描くのでしょうか。
世界中の様々な調査の結果、おおむねU字カーブを描くことが知られています。
時々異なる結果も報告されていますが、私が日本人を対象に行った調査でもU字カーブでした。
すなわち、20代の幸福度は高く、40代あたりが底となり、60代になると再び幸福度が高まるような、U字状のカーブを描くのです。
また、スウェーデンの老年学者トーンスタムが1980年代後半に提案した「老年的超越」という概念があります。それによると、90歳を超える高齢者は、自己中心性が減少し、寛容性が高まり、死の恐怖が減り、空間・時間を超越する傾向が見られるようになり、高い幸福感を感じることが知られているということです。
従来型の価値観では、脂の乗った40代あたりをピークとする逆U字状の幸福感が想定されていたのではないでしょうか。
人はこの世に生まれた後、学び、成長して青年期を迎える。
その後は衰え、老いていく。
しかし、ウェルビーイングの科学は教えてくれます。
それは上下が逆なのです。
人生100年時代。
40代を超えると幸福度は上がり続け、90~100歳で老年的超越を迎える。
皆でそれを目指し、皆でそれを支える社会を作れれば、世界で最初に超高齢化社会を迎える日本は、世界一幸福な国になれるのではないでしょうか。
〇 幸福度を高める方法
これまで、幸せな状態とはどんな状態であるかに関する様々な知見について述べてきました。
しかし、どんな状態が幸せな状態かがわかっても、幸せになれるわけではありません。
どんな人が天才かがわかっても誰もが天才になれるわけではないことと同様です。
このため、今回は、幸福度向上法について述べましょう。
幸福度を向上させるためには様々な方法があることが、介入研究によって解明されてきました。たとえば、A群には毎日今日あった3つのいいことを書いてもらいます。
B群には別の何かを3つ書いてもらいます。
これを1週間続け、幸福度の変化をアンケートにより測定すると、A群の方が有意に幸福度が上昇していたという結果が得られました。
これにより、3つのいいことを毎日書くという介入が有効であることが示されたわけです。
これは、セリグマンによる研究結果です。
このような幸福度向上法がいくつも明らかにされていますので、その一部を紹介しましょう。
これらを高めることによって、幸福度を高められると考えられます。
・主体的に自己決定すること
・やりがい・生きがいを深めること
・夢を持ち思い描くこと
・強みを伸ばすこと
・何かを成し遂げること
・成長すること
・広い視野を持つこと
・自己肯定感を高めること
・自己開示すること
・楽観的にものごとを捉えること
・自分らしさを持っていること
・ものごとを満喫すること
・美しいものを創造すること
・笑顔でいること
・多様なつながりを構築すること
・相談に乗ること
・寄付をすること
・ボランティアをすること
・グループ活動をすること
・感謝すること
・幸せな人と共にいること
・自分と他人を比べ過ぎないこと
・コーチングや対話をすること
・健康でいること
・散歩やスポーツをすること
・上を向いて大股で歩くこと
・植物や動物と触れ合うこと
・マインドフルネス瞑想をすること
などなど。
以上のように、幸せというのは身近な事柄であるだけに、様々な方法で向上させることができます。たとえば、主体的・自主的に行っていることを述べ合ったり、感謝していることを述べ合ったりするだけでも幸福度が向上します。
さらに詳しく知りたい方は、幸福学やポジティブ心理学の書籍を参照していただければ幸いです。ぜひ、皆さんも幸せに気を配り、お幸せに!
参考文献
(1)『ウェルビーイング』 前野隆司・前野マドカ (日経BP 2022)
(2)『ディストピア禍の新・幸福論』 前野隆司(プレジデント社2022)
【筆者プロフィール】 前野隆司 氏(まえの・たかし) 前野隆司(まえの・たかし) 工学博士 1984年東京工業大学卒業、1986年同大学修士課程修了。 専門は、システムデザイン・マネジメント学、幸福学、イノベーション教育など。 キヤノン株式会社、カリフォルニア大学バークレー校訪問研究員、ハーバード大学訪問教授等を経て現在慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科教授。慶應義塾大学ウェルビーイングリサーチセンター長兼務。 日本機械学会賞(論文)(1999年)、日本ロボット学会論文賞(2003年)、日本バーチャルリアリティー学会論文賞(2007年)などを受賞。 【著書】
『アドラー心理学×幸福学でつかむ!幸せに生きる方法』 前野隆司・平本あきお(ワニブックス 2021年)、『無意識がわかれば人生が変わる』 前野隆司・由佐美加子(ワニブックス 2020年)、『脳はなぜ「心」を作ったのか』 前野隆司(筑摩書房 2004年)など他多数。 |
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