再雇用に代わるシニアの新たな働き方 ~業務委託契約とは~
前号に引き続き、シニアの新しい働き方、業務委託契約について、リスタートサポート木村勝事務所代表の木村勝氏のコラムをおとどけします。 今回は個人事業主としての働き方をめぐる環境の変化について解説していただきます。 |
◆業務委託契約(個人事業主化)という働き方の可能性
今回のコラムでは、「今いる会社」 と 「仕事はそのまま」 で 「(雇用ではなく)業務委託契約」 を締結する “半”個人事業主としての働き方を考えていきたいと思います。
総務省の労働力調査(2022年)によると、日本の雇用者は6041万人で就業者に占める雇用者の割合は89.9%です。9割弱の人が企業に雇われて働いています。
日本で一番ニーズがある仕事は、講師や国家資格者のようなスペシャリストの仕事ではなく、営業や人事、経理など会社の中にあるごく普通の仕事です。今は雇用されているビジネスパーソンがその役割をほぼすべて担っていますが、その仕事を雇用ではなく業務委託で担っていくのが “半”個人事業主です。
2017年に出版した拙著 「働けるうちは働きたい人のためのキャリアの教科書」(朝日新聞出版)でもこうした“半”個人事業主の働き方を提唱させていただきましたが、その当時は副業・兼業解禁の機運も低く、業務委託を締結して働くことはまだまだイレギュラーな感覚でした。
今は違います。企業が副業・兼業を解禁するに伴って業務委託で仕事をすることに対する抵抗感が少なくなっています。
経団連が2022年10月にまとめた 「副業・兼業に関するアンケート調査結果」を見てみましょう。この調査は、経団連会員企業における副業・兼業に関する取り組み状況やその効果などを把握するため実施したもので、会員企業の副業・兼業解禁状況だけでなく、社外からの副業・兼業人材の受け入れについても調査をしています。
その結果は、社外からの副業・兼業人材の受け入れについては、回答企業の30.2%が「認めている」または「認める予定」と答えています。社外から副業・兼業人材を受け入れることの効果については、「人材の確保」(53.3%)、「社内での新規事業創出やイノベーション促進」(42.2%)、「社外からの客観的な視点の確保」(35.6%)が上位を占めており、企業における必要な人材の確保策として、副業・兼業者の受け入れを図っていることが明らかになっています。
この調査からもわかるように、自社社員に対する副業・兼業の解禁に伴い、雇用以外の働き方(=業務委託)に関しても抵抗感が無くなりつつあります。電通や健康機器のタニタが積極的に自社社員の個人事業主化を図っていることは有名ですが、多くの企業で雇用に限らず多様な働き方を柔軟に受け入れるようになってきているのです。
◆業務の個人事業主化が進む理由
(1)企業における副業・兼業の拡大→業務委託経験値の蓄積→抵抗感が薄れる
企業は副業・兼業を認めるようになっていますが、認めている副業は、実は図の【雇用+雇用】パターンではなく、下の【雇用+業務委託】パターンです。【雇用+雇用】パターンは、労働時間を2社間で通算して残業分を算出する必要があるなど、労務管理が複雑になり、多くの企業で認めていません。
企業は、【雇用+業務委託】パターンで自社の社員に対して業務委託による副業・兼業を認めていますので、逆の受け入れである「個人事業主に業務委託で仕事を依頼する」ことに対しても経験値を積んでいます。
筆者は、2014年に個人事業主として仕事を始めましたが、その当時は業務委託契約という働き方に関して企業側も経験値が少なく、「やったことがない」「雇用以外の働き方は想定していない」という企業が多かったのですが、最近は雇用ではなく業務委託契約の締結を求める企業も増えてきています。

(2)65歳超の働き方として法律で想定されていること(改正高年齢者雇用安定法)
改正高年齢者雇用安定法では、65歳を超え70歳までの就業機会の提供を努力義務化しています。65歳までは「雇用が義務化」されていますが、65歳を超え70歳までの期間は、「雇用に拘らず業務委託契約を締結する」ことも措置の一つとして認められています。
業務委託での就業機会提供について、国がお墨付きを与えているようなものですので、企業も今後65歳以降の就業機会提供に関しては、雇用だけでなく業務委託契約を締結することが増えることが予想されます。
(3)コロナ禍でのテレワーク経験
今回のコロナ禍は、多くのビジネスパーソンにとってこれからの自分自身の働き方をあらためて考える大きなきっかけになりました。
各種アンケート調査でも「コロナ禍を経験し、転職への関心が高まった」と答える割合が高まっています。テレワークの経験により、一日中フル稼働していたと思い込んでいた自分の仕事時間の中にかなりの隙間時間があることや、朝夕の通勤時間の無意味さに気づいたのです。
こうした気づきは働く側だけでなく企業側も同様です。社員として雇って、会社に来て仕事をしてもらわなければ回らないと思っていた業務がテレワークで完結できることに気づきました。今回のコロナ禍で経験したテレワークでの業務遂行は、実質的に業務委託で仕事をやってもらうのと何ら変わらないケースも多いです。
コロナ禍は、ある意味働き方に関する“パンドラの箱”を開けました。こうした経験は、雇用だけではなく業務委託という仕事の提供方法があることを企業に知らしめ、業務委託で個人事業主と契約することの抵抗感をますます薄れさせています。
次回は、業務委託契約(個人事業主化)という働き方を導入する企業側のメリットをもう少し掘り下げて考えてみたいと思います。
【筆者プロフィール】 木村勝(きむら・まさる) 人事インディペンデント・ コントラクター(独立人事業務請負人)、中高年専門ライフデザイン・アドバイザー、電気通信大学特任講師。 著書に |
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