20年以上前から「生きがい就労」を実践する集団があった
~「ディレクトフォース」の存在~

 得丸英司氏による連続コラム、前回は生計のための就労から、生きがいを得るための就労へとシフトするときに必要な「マネーの基礎知識」についてお話をいただきました。
 2回目となる今回は、得丸氏自身もメンバーとして活動している「一般社団法人ディレクトフォース」を通じた「生きがい就労」についてお話しいただきます。

●社会貢献とやりがいの両立を目指したシニア集団
 私が所属する「一般社団法人ディレクトフォース(DF)」は、“世界のシニアの先駆者集団”を目指して活動中で、昨年創立23年目を迎えました。

 DIRECTFORCE(DF)は、DirectorとForceを合体させた名前で、現在会員数が約600名、会員は企業や団体をリタイアした方ばかりで、平均年齢は73歳のシニア集団です。

 メンバーは「社会貢献を通じ、価値ある生き方を求める」「自己研鑽に励み、充実した生活を求める」「健康に留意し、交友の輪を広げ、人生を楽しむ」ことを活動理念としています。

 現在、DFには教育支援や企業支援を実践する7つのグループ、10の部会・研究会、33の同好会があり、まさに「生きがい就労」のデパートのようです。メンバーはいずれかに所属して、各々の生きがいを見つけています。

●子どもたちの「驚き、喜び」に魅せられて
 DFでは学校などで理科実験の出張授業を行っています。現役時代に製造業などで技術系の仕事に従事してきた経験豊富な80人ほどのメンバーが、「子どもたちに理科好きになってほしい」という想いで年間200回を超える授業を展開しています。

 出張授業はすべてメンバーが手を動かして準備をします。実験の材料も「100円ショップ」などで調達した材料をつかって自らつくり出すという手間の掛けようです。

 様々な業界の経験者がアイデアを出し合って、「墨流しで絵葉書をつくろう」「エタノールで船を走らせよう」「光の花を咲かせよう」等々、全部で25もの実験テーマをラインアップしています。

 それだけに、「すごーい!」「えっ!どうして?」「なるほど!」といった、子どもたちの驚きや喜びに接したときの満足感が金銭にも勝る“最高の報酬”になるといいます。

 DFの中でも理科実験グループの活動は、経済的事情よりも「やりがい」に軸足を置いた「生きがい就労」の典型事例と言えます。

出張授業の様子

●ビジネスの世界での貢献活動で報酬を得る

 理科実験グループの活動は、DFの「教育支援活動」の代表例ですが、DFでは会員の経験や知見を企業の経営や企業活動に活かすための「企業支援活動」も展開しています。

 例えば、優れた技術力を持っているものの、営業体制が脆弱なため、販路開拓に苦戦している企業からのヘルプ要請に対しては、DF会員の豊富な人脈・企業脈が活かされます。また、「自社ブランドを立ち上げたい」という若手経営者等の場合は、現役時代に流通・小売業でマーケティング・ブランディングに従事していたDF会員の腕の見せ所となります。

 ある大企業の工場に出入りしている中小企業経営者には、大企業の工場長経験者であるDF会員が寄り添って「伴走支援」を行います。なかには、毎月DFの事務所を訪れて、DF会員と雑談的に様々な話をして帰る経営者もいます。

 このようにDFの企業支援活動は、DF会員の経験、知識、スキル、人脈等を無駄に眠らせることなく、現在の企業経営に活かすことによって社会に貢献しようとするものですが、支援対象が営利企業の場合は、ビジネスとしての対価を求めています。その報酬形態は、コンサルティング料であったり、紹介料や成約報酬であったり様々です。

 この企業支援活動からの収入は、社団全体の収入のかなりのウエイトを占めていて、社団運営のための物件費、人件費捻出に大きな役割を担っています。また、社団が得る報酬は、企業支援活動に従事するDF会員にも還元されています。

企業支援活動

●「生きがい就労」実現のために

 DFを立ち上げた頃には、会社人生の後に「自走人生」がやって来る「人生ふた山論」といった、私が定年後研究所の所長として提唱していた考え方も無ければ、「プロボノ」「越境学習」等といったコトバも無かったでしょう。

 「会社を卒業してもまだまだ元気なのだから、何かをやらなくては……。どうせなら、世のためになることをしよう」というように“自然発生的”にDFは出来たのではないでしょうか。

 理科実験グループが生まれたのも、あるイベントで「理科実験をやってくれないか」と頼まれたのがきっかけで、最初は「子ども相手の理科実験を手伝うのか?」という疑問の声も多かったようですが、実際にやってみると、喜んでくれた子どもたちの反応に強く背中を押されて、レギュラーの貢献活動として続けていくことになったそうです。

 「生きがい就労」のネタは身近にたくさんあると言われていますが、個人の努力や企業単独で準備するには、まだハードルが高いようにも思います。“自然発生的に”生まれたDFですが、世の中に「生きがい就労」の道を提供できる団体としての期待は大きいのではないでしょうか。DFとしても「生きがい就労」を模索する“現役会社員”に門戸を開放するなどの展開は検討の余地がありそうです。

 私は今後、70歳までの雇用を考えるとき、このような社会貢献活動も一つの選択肢となるのではと考えています。

【筆者プロフィール】
得丸英司(とくまる・えいじ)
一般社団法人定年後研究所 特任研究員、CFP®資格認定者
1957年生まれ。
日本生命保険相互会社の営業教育部門で25年間FP業務に従事。日本FP協会常務理事・特別顧問、慶應義塾大学大学院講師、定年後研究所初代所長などを歴任。
著書:『「定年後」のつくり方』(廣済堂新書)


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