シニアになったら「運用」から「管理」へ

 日本ファイナンシャル・プランナーズ協会常務理事、同特別顧問を歴任された得丸英司氏による集中連載。最終回となる今回は、リタイヤ後のお金(シルバーマネー)の正しい管理についてお話しいただきます。
 得丸氏は、明日(9月8日)の「星和Career Next 2022第3回公開セミナー」にもご登壇予定です。

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◆使ってみてはじめて分かる「お金の価値」
 2024年の上期中を目途に、日本銀行は約20年ぶりにお札のデザインを一新します。それに伴い一万円札の肖像は、現行の福沢諭吉から渋沢栄一になるそうです。ところで諭吉の一万円札と栄一の一万円札、どちらの価値が高いでしょうか。
「額面」が同じ1万円ですから、答えは当然「同じ」です。

 ファイナンシャル・プランニングの場面では、「価格(かかく)」と「価額(かがく)」というコトバがよく登場します。
「価格」というのは、モノの価値を貨幣で表したもので、いわゆる値段のことをいいます。
ガソリンや野菜の価格などの商品の値段のことです。
一般的に、商品の価格は「需要と供給」の関係で決まります。
一方、「価額」というのは、モノの値打ちに相当する金額で、法律用語としては「具体的に特定した物や財産の金銭的価値」のことをいいます。
そこには「評価」というモノサシが関係します。

 例えば、ある温泉地にA旅館とB旅館があるとします。
宿泊料金はともに、一泊二食付きで1万円だとします。
しかし、実際に宿泊してみると、A旅館はリニューアルしたばかりで、施設も新しく、なにより料理がすばらしくおいしかったのです。
それに対して、B旅館はあまり手入れが行き届いていない古臭い建物・施設で、料理もまずく、まったく評価できるところがありませんでした。
A旅館に宿泊して大いに満足したAさんは「1万5千円くらいの価値を感じた。得をした気分」と言いました。
一方、B旅館に宿泊したBさんは「せいぜい5千円ぐらいの価値しか感じなかった。損をした気分」とがっかりしました。

 Aさんが持っていた一万円札も、Bさんが持っていた一万円札も、「使う前」は同じ額面の1万円でした。
ところが、お金を使ってみると、Aさんの評価額は1万5千円と額面の1.5倍、Bさんの評価額は5千円と額面の2分の1となったのです。

 このように、「お金の価値」は使ってみてはじめてわかることが多いのです。
この観点で考えると、「お金をどう殖やすか」はもちろん大切ですが、「お金をどう使うか」の方がもっと大切なのです。
マネープランを作成するときに、しっかりとしたライフキャリアプランが必要だという意味がお分かりいただけたと思います。

◆シニアになったら「資産運用」よりも「資金管理」のススメ
 「運用」というと、どうしても「利殖」つまりお金を殖やすことだけをイメージしてしまいます。
そうすると、金融商品の選択の問題になってしまいがちです。
「貯蓄か投資か」、「安全性、収益性、流動性のバランスはどうか」など、検討の範囲が限定されてしまいます。

 ファイナンシャルプランナーの浅井秀一さんは、「お金に役割を持たせる」といいます。
私は、このことが「お金は使ってはじめて価値がわかる」ことにつながるのだと思っています。
浅井さんは、今から30年以上も前に『シルバーマネー三分法』を提唱しています。
老後の資金は、お金の役割(使途目的)によって、「使うお金」「備えるお金」「残すお金」の三つに分けて管理することをすすめています。

 日常生活で「使う」お金、これは定期、定額で出ていくお金ですので、年金のように定期収入のカタチをつくると便利です。
もしもに「備える」お金、いつ使途の時期が訪れるか予測できませんので、流動性・換金性に配慮した金融商品にして持っておくべきです。
そして、子どもなどの遺族に「残す」お金、これは存命中に使うことなく、亡くなってはじめて必要となるお金ですので、遺族を受取人にした生命保険金にしておくといいでしょう。

 このようにお金の役割(使途目的)を定めれば、ある程度は金融商品の選択が決まってくるのです。

◆「キャリア」と違い、会社が尻込みしがちな「マネー」
 最近では「キャリア自律」といって、キャリア開発の主役は従業員本人であり、会社はサポート役という認識が広まりつつありますが、以前は「キャリア形成は会社の仕事」と労使共に考えていました。
それだけに、会社としては、従業員のキャリア形成については、本業のごとくしっかりと面倒を見てきたのです。

 それに対して「マネー」はというと、「個人のお金の領域には立ち入り難い」むしろ「会社があまり立ち入るべきではない」という考え方が主流であったと思います。
したがって、マネーをテーマにしたライフプラン研修は、どうしても“おざなり”になりがちだったのではないでしょうか。

 時間的な制約、マネー関連の個人データをどこまでそろえるかなど、運営上難しい面は多々あるのですが、「キャリア」とくらべると“腰が引けている”ような気がします。
そんな具合ですので、従業員サイドも、「あとはご自分でやっておいてくださいね」とマネー研修でいわれても、優先順位が低く、結局何もやらずじまい……こんな実情だったのではないでしょうか。

 この連載のメインテーマのように、「マネープラン」と「キャリアプラン」は「車の両輪」だと思います。「マネー」と「キャリア」の両方に“重き”を置いた、ライフプラン研修を構えることが、従業員一人ひとりの「マネー自律」「キャリア自律」をサポートすることにつながるのではないでしょうか。

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【筆者プロフィール】
得丸英司氏
得丸英司(とくまる・えいじ)
CFP®

大手生命保険会社で25年にわたり、法人・個人分野のFPコンサルティング部門に従事。
NPO法人日本ファイナンシャル・プランナーズ協会常務理事、 同特別顧問、慶應義塾大学大学院講師、一般社団法人定年後研究所所長を歴任。

◎ 星和ビジネスリンクは、現役世代が定年後の人生を豊かに過ごすための調査研究を行う機関として、「一般社団法人 定年後研究所」を設立しました。
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