第3回 会社が中高年社員に求めるキャリア自律とは
一般社団法人ソシエトスの代表理事 木暮淳子氏のコラム。 第3回は、中高年社員が激変する環境に柔軟に適応して、会社や社会に貢献していくためのキャリア自律についてです。 |
大企業の定年退職者がセカンドキャリアでなかなか活躍できない理由
私どもの法人では、高齢になっても働き続けたいシニアと企業をマッチングさせるお手伝いをしています。高齢となっても元気なうちは仕事を続けたい人の数が増えているのを実感しています。実際に統計を調べてみると、65歳以上の2021年の労働人口比率*は、男性で34.9%、女性で18.4%となっており、それぞれ14年前の2007年の29.8%、12.9%と比べて大きく増えてきています(総務省統計「労働力調査 2021」)。65歳になっても何らかの形で働き続ける人の割合が年々増加しているのです。
しかし、シニアを受け入れた企業様では、なかなかその対処に苦慮しているようです。「働き手は欲しい」、でも「シニアはなかなか難しい」。マッチングのお手伝いをしている私どもがよく聞く、その理由上位3つはだいたい次のようなものです。
(1)「これまでの大企業でのやり方を押しつける」
(2)「テーマが与えられれば一生懸命仕事をするが、指示待ち姿勢で自ら動き出せない」
(3)「自分で手を動かせない」
定年退職後に働く場は、多くの方にとってそれまでとは異なり、中小規模の会社となることがほとんどです。定年まで勤めた会社では、それなりの資本が揃っていて制度や仕組みもキチンとしていることがほとんどですが、そうはいかない企業様も多いのが現実です。これまでの大企業流のやり方を「べき論」で上から目線でもの申すと、職場で衝突が起きてしまいます。
また、これまでの経験を活かしてその会社で足りない部分を補ってもらいたいと考えて採用を決めたのに、自分で仕事の範囲を決めてしまっていて期待したように動いてくれないといった不満もよく聞かれます。
さらには、これまで部下がやってくれていたような資料づくりを自分でやるのは“どうも苦手”という方が多いことも、「シニアは結局あまり役に立たない」と思われてしまう原因となっているようです。
あくまで筆者の経験からの感触ですが、シニアが新しい企業で働くのに適応するには2年程度はかかるようです。
社員として求められることはどこでも同じ ~自分の価値を高めるということ~
会社に雇用されている以上、会社に貢献するという話は、なにもシニアが新しい職場で働く場合に限ったことではありません。今や環境変化はものすごいスピードで起きており、どこの会社でも半年、一年のスパンで新たな会社に生まれ変わっていると言えるほどの変化が起きています。
会社が必要としている人財とは、若手・中高年といった年齢にかかわらず、価値を生み出してくれる人たちのことです。企業は生き残っていくために常に進化をしていかなければなりません。立ち止まっていれば市場から退出させられてしまう圧力に常にさらされているからです。
一方、人間は慣れたことを好む傾向にあります。長年働いてきた組織の考え方や仕事の進め方が染みついており、それを変えるにはエネルギーが必要なので、ついつい現状維持となってしまうのです。しかし、現実を直視して、自らの存在価値を探り、常にその価値を高めていく努力が求められています。
米国企業の日本法人社長にインタビューしたとき話してくれたことが印象に残っています。「アメリカ人は、夜学に行って資格を取ったりして転職していく。結局自分の給料を稼ぐ道具は自分で手にするんだと考えていて、自分で自分を高めていくんですよ。与えられるんじゃなくて自分でもぎ取っていく姿勢がすごい。」
終身雇用・年功序列などが徐々に変化していく中、もはや自分のキャリアを会社任せにしておくことはできません。自分のスキルはどこにあるのか、自分の価値はどういうところにあるのか客観的に見つめてみて、自ら価値を高める努力が欠かせません。今の自分の能力や立ち位置を客観視するためには、社内にばかりいてはわかりません。積極的に社外の人と交わって学習の場に出てみるなど、まず行動してみることが大切になってきます。
意識を変えることが先か、行動を変えることが先か
現役で働いている会社員時代も含めてイキイキと働いている中高年の方は、どこかの時点で“行動を変えて”、自分の存在価値を見出しています。そんな方は活力があるので、周囲の人からも魅力ある方に映っています。一方、不満ばかりで他責思考の方は組織に老害をまき散らしているばかりでなく、定年退職後も何も決められず、半年・一年と仕事を見つけられないまま過ぎていきます。
まず行動を起こしてみること。やってみたら意外に面白くなってきて、主体的な行動へ繋がっていきます。それはプライベートであっても構わないのです。前向きなエネルギーを発散している人は、仕事でも必ず周りに伝わっていきます。
中高年社員が貢献できる高い価値とは?
定型的な仕事は、ものすごい勢いでAIやロボットに代替されていく時代です。これまで築きあげてきたオペレーション・エクセレンスな仕組みはシステム化され、人間はその最低限の管理をする仕事を担うだけになっていくでしょう。では、これまで価値を持っていた作業に替わって、私たち中高年社員は何をもって価値を提供していくことができるのでしょうか。それは、未だAIにはできない複雑なヒューマン・コミュニケーションの分野があげられます。
中高年になると「人の話を聞かず、頑固になる」と敬遠されることが多いと聞きます。しかし、コミュニケーション力を磨くことによってそれを防ぎ、存在場所を確保していくことは可能です。雰囲気がよくて業績のよいチームは、一方的な情報伝達ではなく双方向のコミュニケーションがよく取れています。相手の話をよく聴くという、寄り添う姿勢がメンバー同士、自然とできていることによって信頼関係が築かれているからです。経験豊富で落ち着いた中高年こそ、「人の話をよく聴いて相手を理解してあげる」対話力を身につければ、組織のコミュニケーション・ハブとして貢献していくことも可能なのではないでしょうか。
「あの人だから、話してみよう」と周りから思われる人は、“敬遠される存在から、必要とされる存在へ”と変化していきます。人間とは不思議なもので、居場所が見つかると新たなモチベーションが生まれ、主体的な行動を起こしていきます。コミュニケーション力UPは一つの方法ですが、中高年社員にとっての自律的な価値創出につながることは間違いありません。一度、今の自分のコミュニケーションのあり方を振り返ってみて、対話力UP講座などにご参加されてみてはいかがでしょうか。
【筆者略歴】 木暮淳子(こぐれ・じゅんこ) 一般社団法人ソシエトス 代表理事 都市圏で働くミドルシニアが持つチカラを人材が不足している地方創生に活かしてもらうために、「ネクストステージ・スキル開発プログラム」の提供を行う法人として2016年に設立。 |
このメールマガジンの筆者、木暮淳子氏にご協力いただき開発したeラーニングプログラム『キャリア羅針盤~ライフキャリアプラン』の詳細を弊社Webサイトで詳しく紹介しています。
2022年度の配信は今回が最後です。
2023年度の配信は4月12日より開始します。引き続き、よろしくお願い申し上げます。
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