第2回 キャリア研修は中高年社員にこそ必要
一般社団法人ソシエトスの代表理事木暮淳子氏のコラム。 第2回は、キャリア教育を受けたことがない中高年社員が「働くこと」の意味を再発見するために必要なキャリア研修の重要性についてお伝えします。 |
自分の人生やキャリアについては会社任せで考えたことがないのが中高年
「ただ何となく忙しく毎日を過ごしていて、自分の将来についてあまり考えていない、というか考えないようにしていた・・・。」これは、中高年向けキャリア研修に参加した方のアンケートから見えてくる研修前の中高年社員の姿です。
40歳代後半~50歳代になると、親の介護が始まったり、子どもの自立前のさまざまな問題に直面したり、あるいは自身の体力の低下や健康にも不安を感じるようになってきます。加えて、老後の生活のためにはウン千万円以上必要だ、などとの情報もある中で、自分自身のことや将来のことに関する“ややこしい問題”について考えることを無意識に避けてしまうことが多いようです。
現在50歳前後の社員の方は、就職したころから産業構造の変化や技術の進展に煽られながらも、会社から与えられた仕事を一生懸命こなし、実経験の中からキャリアを伸ばしてきました。また、自ら人生設計を考えなくても、定年まで勤めあげれば老後は親世代のようにつつましくも年金で暮らせる生活を想像してきたことでしょう。人生設計やキャリアのことは会社にお任せして、自分は一生懸命与えられた役割を果たすことにひたすら邁進してきたのが中高年社員なのです。しかし今になって見えてきた自分の未来は、想像したものと何かが違いそうだと気づいています。しかし、そうとわかってはいるものの、問題に向き合ことを恐れて意識の外に追いやってしまうことが少なくありません。
中高年社員に実際に会ってお話を伺ってみると、本当は気がかりになっていることを実にさまざまにお話しされます(図1)。しかし、なかなかそれらに対処していくきっかけがないのです。だからこそ、そうした中高年の方々に、一旦立ち止まって自分の将来の課題について考えてもらうのが中高年に向けたキャリア教育の意義のひとつと言えるでしょう。
バックキャストで考えるライフキャリア・プランニングから今やるべきことが見えてくる
“定年後も含めた人生全般”という期間に時間軸を少し伸ばして自分の未来を考えていくことで、今やるべきことに気づくことができます。
日本人の平均健康寿命は男性が72.68年、女性が75.38年となりました(内閣府「令和4年版高齢社会白書」より)。65歳で会社を定年退職してからも趣味や仕事、社会活動などを通して自分らしく元気で活動できる期間がおよそ10年あります。実は、定年になってから次にやることを考えればいいやと思っていても、気力/体力がついてこず、結局は何もやることがなくて一日中テレビを見ている人が多いそうです(図2)。
「今日やらなければならないことが何もない」という状態に陥らないように、例えば70歳になったとき、自分はどんな人生を送っていたいのかを考え、バックキャストで50歳代の今からしておかなければならないことを捉えてみるのが、ライフキャリア・プランニングです。
ライフキャリアとは、「生涯にわたって生きがいや働きがいを感じられる活動を通した生きかたや働きかた」のことです。今の仕事にとどまらず、将来にわたって社会とかかわる活動すべてを“キャリア”と捉える考え方として認識が広がってきており、自分自身の生きかたの軸や目標を定めてその実現に向けてプランニングするのが、ライフキャリア・プランニングなのです。そのプランニングでは、「自分の人生はこうありたい」というところから出発して、今するべきことに落とし込んでいきます。その第一歩の気づきが表1です。
筆者が出会う70歳以上の方でイキイキと活動されている方のほとんどは、現役時代から仕事以外にも情熱を傾けられる趣味やその他の活動を発掘し、それを続けている方々です。充実した人生を実現する資金を得るために、定年後のマネープランを50代のうちからプランニングし、準備を始めています。目標があるから、50代の今、「働く」意味をしっかり認識しているのです。
手あげ方式のキャリア研修では本当に必要な人に届いていない
日常の仕事が忙しい人ほど、一旦立ち止まって将来のことを考えてみる時間を取れていないのが現状です。また、前述したように、忙しいことを理由に未来に起こりうる“困ったこと”について見て見ぬ振りをしてしまうことも・・・。
近年は研修メニューも豊富なので、数ある研修の中から受講者自ら選んで参加する方式で研修を実施する企業様も多いですが、こと中高年向けキャリア研修に関しては、なるべく多くの方に一度は受けていただきたいものです。手あげ方式のキャリア研修では本当に必要な人に届いていないのが現状です。今、課題を認識していない人にこそ、必要なのです。
企業に社員のキャリア開発支援の考え方が必要だと言われ始めたのは2000年頃。実際に浸透してきたのは2010年頃と言われています。ちょうど今50歳前後の方はキャリア教育を受けてこなかった世代でもあります。会社が求める業務執行能力に合わせるように自ら能力を磨いてきた中高年ですが、自分自身に向き合う機会はほとんどありませんでした。
社員の能力開発は「自己責任」だと考える経営者も未だいらっしゃるようですが、今、社員の職業生活設計に即した能力開発を支援することは事業主の責務となっています。中高年社員にも、一旦立ち止まって自分の将来について考えてみる機会を平等につくっていくことが求められているのです。(参照:職業能力開発促進法)
中高年向けキャリア研修は「働くこと」を再考するきっかけとなる貴重な機会
定年退職が近づいたり、役職定年を迎えると中高年社員のモチベーションが低下して組織に悪影響を及ぼしているという話をよく聞きます。即効性のある解決策はなかなかみつからないものの、「働く意欲」を失った原因は待遇の低下以外にも、「働く意義」を見失っているからに他なりません。
中高年社員向けのライフキャリア研修で、今一度自分の価値観や存在意義を確認し、自分のありたい姿を考えてみると、今やるべきことが少しずつ見えてきます(図3)。組織や他者から必要とされる活動や後輩の成長を手助けすることに改めて気づいたり、自分のためにこれからどう生きるか、どう働くかを考える貴重な機会となっています。
DXで仕事のやり方はずいぶん変化していますが、これまで中高年が経験してきたさまざまな事柄で無駄なことはひとつもありません。必要な変化は受け入れながら、新しい時代をつくっていく一員としてまだまだ活躍の場があります。自分の存在意義を再確認するのがキャリア教育の第一歩です。自分のことを後回しにしてきた中高年社員の皆さんだからこそ、これからの時代に自分らしい人生を描いていっていただきたいものです。
【筆者略歴】 木暮淳子(こぐれ・じゅんこ) 一般社団法人ソシエトス 代表理事 都市圏で働くミドルシニアが持つチカラを人材が不足している地方創生に活かしてもらうために、「ネクストステージ・スキル開発プログラム」の提供を行う法人として2016年に設立。 |
このメールマガジンの筆者、木暮淳子氏にご協力いただき開発したeラーニングプログラム『キャリア羅針盤~ライフキャリアプラン』の詳細を弊社Webサイトで詳しく紹介しています。
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