「変身資産」の有無がこれからのミドルシニアのキャリアを決める(後編)
今週の「星和HRインフォメーション」は、先週に引き続き、ミドルシニアのキャリア形成にとって重要な「変身資産」について木村勝先生からお話しをいただきます。 今回は、「変身資産」を獲得(蓄積)していくために必要な要素についてご説明いただきます。 |
前回は、人生100年・80歳現役時代には、「変身資産」 が必須という説明をさせていただきました。今回は、この 「変身資産」 をどう獲得(蓄積)していくか、考えてみたいと思います。
株式会社ライフシフト社CEOであり、多摩大学大学院教授である徳岡晃一郎教授は、変身資産を5つのファクターで分類しています。
(1)マインド — 変化に対して前向きでいる精神力
(2)知恵 — 変化を読んで活用する実践力
(3)仲間 — 変化の中で助け合って知を生み出す友
(4)評判 — 変化の中で埋没しない信頼とアピール力
(5)健康 — 変化を乗り切る基礎体力
それでは、こうした変身資産を伸ばしていくためには、どうしたらいいのでしょうか。
私は、変身資産を伸ばしていくためのドライビングフォースとして5つのMを考えています。
「マインドセット」(1M)からスタートし、「ミッション創造」(2M)、「見える化」(4M)、「マルチ化」(5M)のサイクルを回していきます。中心に位置する 「学び」(3M)が、ほかの4つの“M”に推進力を与える燃料役を担います。
「マインドセット」(1M)
行動変容のきっかけとなる出来事を見逃さないことです。
キャリアは節目の連続で成り立っています。今回のコロナ禍も大きな外部環境が変化する重大な節目でしたが、実際自分の役割、仕事のやり方、仕事観が大きく変わってしまった方も多いかと思います。
キャリアの節目は、役割、人間関係、アイデンティティーさえ変化させる不安な時期でもありますが、新たなステップを踏み出すための行動変容の絶好のチャンスでもあります。
変化をおそれることなく、またスルーすることなくチャンスと捉えることが、「変身資産」を蓄積していくためのポイントです。
ミッション創造」(2M)
「同じ企業でキャリアを全うする」 という従来のキャリアの前提がくずれつつある今、過度に会社に依存するキャリアプランに従うことはリスクです。
たとえ雇用されて働いているとしても「自分会社」を経営しているという個人事業主マインドを持つ必要があります。
その際には、ぜひ「自分会社」のビジョン・ミッションを創造してみてください。
キャリアの方向性が明確になり、この視点を持つことにより、見える世界が変わってきます。
変化に対して敏感になり、変化を自分事として捉えることができるようになります。
「学び」(3M)
働く期間が長期化するほど、変化の幅は大きくなり、それに対応するためにも、「常に学び続ける力」 が必須となってきます。
変化を先読みし、向こう10年先を見越して知識を仕入れ、波を起こしていく必要があります。60代以降も活躍するためには、50代での学びが必要です。
「見える化」(4M)
せっかく創造したビジョン・ミッションも学びの結果も「見える化」されていなければ行動の変容につながりません。
「見える化」の際には、自分の「物語」を資産として考えることも重要です。
ミドルシニアの皆様は、バブル乱舞から 「失われた20年」 と呼ばれた冬の時代、あるいはリーマンショック、東日本大震災、そして今回のコロナ禍と大きな外部環境の変化を乗り切ってきました。こうした変革の時期をどう乗り越えてきたか、その一つひとつの体験(物語)こそ、これから起こり得る大きな環境変化に対する「変身資産」になります。
こうした経験も 「見える化」し、「変身資産」に織り込んでいくことが重要です。
「マルチ化」(5M)
マルチ化には3つのマルチ化があります。(1)知識・経験・スキルのマルチ化、(2)人脈のマルチ化、(3)収入源のマルチ化です。
(1)知識・経験・スキルのマルチ化
メンバーシップ型雇用のもとで転勤を繰り返してきたミドルシニアの皆様には、既に(1)のマルチ化はできています。
あとは、それをきちんと棚卸し、「見える化」することでその人オリジナルの「変身資産」になります。
(2)人脈のマルチ化
社内だけでなくぜひ社外に目を向け、会社という看板があるうちに人脈を広げてください。
リアルでの接触がますます少なくなる今後は自ら積極的に動いて意識的に社外人脈を広げていく必要があります。
(3)収入源のマルチ化
副業兼業が解禁される流れを積極的に活かし、ぜひ1年以内に今の会社以外から収入を得る体験を積むことをおススメします。
金額の多寡は関係ありません。会社以外から収入を得るという経験がブレークスルー的な効果をもたらします。
2回にわたり 「変身資産の有無がこれからのミドルシニアのキャリアを決める」 というテーマを取り上げてきました。
働く期間が長期化し外部環境変化の幅も大きいVUCAの時代をサバイバルするためには、現状に安住することなく、積極的に変化をチャンスとして活用していくことが必要です。
「最も強い者が生き残るのではなく、最も賢い者が生き延びるのでもない。唯一生き残るのは、変化できる者である。」
人生100年・現役80歳時代を生き抜くミドルシニアにとっての至言です。
【筆者略歴】 木村 勝(きむら・まさる) 一橋大学社会学部卒業、大手自動車メーカーの人事部門を経て、独立人事業務請負「リスタートサポート木村勝事務所」及び「行政書士木村勝事務所」開設独立開業。 30年を超える人事経験を通じて多くのシニア世代ビジネスパーソンのキャリアチェンジのサポートを行っている。 |
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