最終回 人に合わせるより、おもしろいと思われる人になる
和田秀樹氏による「長寿時代への中高年からの備え」をテーマとした集中連載。 最終回となる今回は「人に合わせるより、おもしろいと思われる人になる」と題して、品よく、賢く、おもしろい高齢者になるために身につけておくべき思考習慣についてお話しいただきます。 |
『老いの品格』という本を5月の末に出した。
長年、高齢者を診てきた私にはその経験の中で「こうはなりたくない高齢者」「こうなりたい高齢者」の像が自分の中で作られていくわけだが、「こうなりたい高齢者」の努力目標として書いた本だ。
そのエッセンスは、「品よく」「賢く」「おもしろく」ということである。
「品よく」というのはセレブリティというより、意地汚い感じを与えない、せいせいとした感じのお年寄りということだ。
「賢く」というのは、前回(6月22日配信)お伝えしたように、知識が豊富であるより、自分の人生経験を通じてあれこれと考えられるようなお年寄りということだ。
「おもしろく」というのは、常識にしばられない洒脱さということで、実は、タレントの高田純次さんをイメージしている。
私が、文筆家としてもっとも心掛けていることがこの「おもしろく」だ。
売れる売れない以上に、「和田さん、最近おもしろくなくなった」と言われることを非常に恐れている。
本にはさすがに書けないが、仲間内ではかなりハチャメチャなことを言うことがある。
たとえば、財務省内に秘密の任務を遂行する特命係のような部署があって、日本の年金財政を安定させるために、長寿を妨げようとしているというフィクションだ。
2008年にメタボ検診が始り、その翌年に、宮城県で行われた大規模調査の結果から、思いついたものだ。
調査では、小太りの人のほうが、やせ型の人より6~8年長生きするというデータが示され、大手新聞の記事*にもなった。
このデータは、おそらく前年には集計されていたはずだが、それを特命係が見つけて、「健康のために」痩せたほうが良いという情報を出したのではないかという話をすると酒の席ではかなりウケる。もう一度言っておくが、あくまでフィクションの話である。
最近はコンプライアンスが厳しくなってきた関係で、私のYouTube®チャンネルも「誤った情報」として警告を受けて、更新させてもらえないということがあった。
だから、ここでは、これ以上の話は避けるが、プライベートな席では人が考えつかないようなことを考えて披露すると思った以上にウケたり、興味を持ってもらえることがある。
このような話を嫌う人もいるが、私は人に嫌われる覚悟も持っていないと、おもしろい話はできないのではないかと考えている。
もちろんTPOをわきまえる必要はあるが…。
意外性のない万人ウケしそうな話だけをしていては、「あの人はおもしろい」とは言ってもらえない気がする。
若いころは箸が転んでもおかしいが、歳をとると本当におもしろいことでないと笑わなくなる。
ある日、大阪の「なんばグランド花月」でゲラゲラ笑っているお年寄りを見て「はっ」と気付いた。最近のテレビは、無難な笑いしかオンエアしないからおもしろくないと私は考える。
もちろん、人を笑わせて楽しませるにはセンスが必要なのだが、そのセンスを持ち合わせていない私は、へそ曲がりを芸風にすることにした。
世間のみんながコロナ自粛を強調しているときには「自粛の害」。たとえば、高齢者が外出しなくなることで、足腰の筋力が弱って歩けなくなってしまう人も出てくるかもしれない、というようなことを探して話すようにしている。
ほかにも、喫煙の問題であれ、原発問題であれ、ウクライナ・ロシア問題であれ、マジョリティの意見がまとまっているときには、マイノリティ意見を考えるのが、私の思考習慣である。
おもしろい人と言われるためには、普段からの思考習慣が大切だ。
このメールマガジンをお読みいただいている皆さんにへそ曲がりになれというわけではないが、歳をとり、組織を離れると、多くの支持を得ることより、気心が知れた人間が周囲に何人かいることが大切になってくる。
こいつとなら腹を割ってなんでも話せると思える友を持っておくことが大切だと私は思う。
みんなに合わせているだけでは、そういう友達を持つのが難しいだろう。
もちろん、自分の悩みや愚痴を打ち明けあううちに親友ができることもある。一方で、互いに忖度なく意見を交わすことでその相手がなんでも話せる親友になるかもしれない。
ある程度の年齢になって、「おもしろい」「賢い」と思われる人は、多くの人が考えつかなかったようなことを言う人であることが少なくない。
ただし、それが嫌味にならないよう「品よく」ふるまうことも必要だ。
これができれば、冒頭私が言った「こうなりたい高齢者」に近づける。
話を「おもしろい」「賢い」に戻そう。
多くの人が考えつかないということは、みんなの意見とかけ離れているということでもある。
しかし人に合わせているばかりでは、多くの人が考えつかないような話はできない。
これは決して簡単なことではなく、日頃からそのような思考習慣を持つことが大切になってくる。
たとえば、テレビを見ているときも、別の視点がないかを考えていると、思いつくことがある。それをメモしておくと、人と違うことを言えるようになる。
今はインターネットの時代だ。
人と別の視点を探す姿勢さえあれば話のタネはインターネットの中にいくらでも転がっているのだ。
おもしろい人を目指すことで離れていってしまう人もいるかもしれないが、あらたな友人も増えるのではないだろうか。人と同じでいるより、おもしろい人になるトレーニングを現役時代から積んでおくことをお勧めしたい。
『和田秀樹の「テレビでもラジオでも言えないわたしの本音」』で読むことができます。
【筆者略歴】 和田秀樹(わだ・ひでき) 和田秀樹こころと体のクリニック院長、精神科医。 1960年大阪市生まれ。 1985年東京大学医学部卒業。 1988年に日本に3つしかない高齢者専門の総合病院浴風会病院勤務以来、30年以上にわたって高齢者医療にかかわる。 教育関連、受験産業、介護問題、時事問題など多岐にわたるフィールドで精力的に活動し、テレビ、ラジオ、雑誌など様々なマスメディアにもアドバイザーやコメンテーターとして出演。 現在、国際医療福祉大学大学院赤坂心理学科特任教授、川崎幸病院精神科顧問、一橋大学経済学部・東京医科歯科大学非常勤講師、和田秀樹こころと体のクリニック(アンチエイジングとエグゼクティブカウンセリングに特化したクリニック)院長などを務める。 【著書】 |
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