「人生100年・現役80歳」 時代の到来
~対応が求められるシニア社員の活性化~
本号より4回にわたって、リスタートサポート木村勝事務所代表の木村勝氏よりシニアの新しい働き方、「業務委託契約」について教えていただきます。 木村氏は、ミドル・シニアのキャリアの専門家としてご活躍で、現在「業務委託契約者」として働いておられます。 |
◆はじめに
生産年齢人口(15~64歳の人口)減少の大きな流れの中で今後ボリュームゾーン化するシニア世代の活性化は、企業経営においても大きな鍵となっています。その一方で役職定年、定年再雇用によるシニア社員のモチベーションダウンが大きな課題になっていることも事実です。
今回のコラムでは、改正高年齢者雇用安定法で65歳以降の働き方の選択肢の一つとしても想定されている個人事業主という働き方(業務委託契約)に焦点をあてていきます。
個人事業主という働き方は、長年培ったシニアの経験・知識・スキルを有効活用することができる、雇用に代わるシニアの新しい働き方になると筆者は考えています。今回から4回の連載コラムを通じて、企業・シニア社員双方からみた再雇用と業務委託のメリット・デメリットや業務委託(個人事業主)制度導入のステップなどについても解説していきたいと思います。
初回の今回は、個人事業主という働き方を考える際の前提となる 「人生100年・現役80歳時代のシニアを巡る働き方の現状・課題」 について考えていきたいと思います。
◆シニア社員がモチベーションを下げる理由
筆者は、今年62歳(昭和36年生まれ)。まさに定年退職を既に迎えたシニア世代ですが、我々世代を含め団塊Jr世代(2023年時点で49歳~52歳)は、新卒一括採用で入社し全員横並びで会社の出世コースに参加し、「収入」 と 「役職」 を働くモチベーションとして頑張ってきたサラリーマンが多いです。
この入社以来働くモチベーションとなっていた 「収入」 と 「役職」 という目標が無くなるのが、50代以降特有のキャリアイベントである「役職定年」(管理職)と 「定年」 という2回のタイミングです。
正社員の賃金カーブを見ても給与のピークは50代前半で、55歳を過ぎると下がり始めます。また、役職定年制により、55歳で課長職から、58歳で部長職から降りるケースが多くなってきます。人生100年・現役80歳時代、役職定年の55歳から25年、定年の60歳から20年間、これから先が長いのですが、この2回(「役職定年」「定年」)のタイミングをシニア社員は会社人生におけるキャリアのゴールと考えてしまい、モチベーションを下げてしまうのです。
2018年11月に発表された一般社団法人 定年後研究所とニッセイ基礎研究所の試算によると、55歳以降の世代が役職定年でやる気を失うために生じる経済的な損失は年に約1兆5000億円にのぼるという報告がなされています。一企業だけの問題にとどまらず日本経済にとっても大きな課題です。
◆実は定年後が長い
図をご覧ください。縦軸に年齢、横軸に1日の24時間を取り、0歳から80歳までの人生総時間を可視化した図になります。
20歳から60歳まで「長い、長い」 と思っていた会社(組織)で仕事をしてきた時間(図の労働時間)よりも20歳から60歳までの自由時間(図の在職中の自由時間)の方が長いことをまず皆さんは意外に思われるのではないでしょうか。
また、かつては 「余生」 と考えられていた60歳定年から80歳までの時間が、20歳から60歳まで会社(組織)で勤務していた時間よりも長いという事実に気づきます。
「人生100年・現役80歳時代」 には、定年退職以降の期間が長いのです。
◆キャリアに関する健全な危機意識を持ったシニアは実は多い
「人生100年・現役80歳」時代の到来と言われるようになって久しいですが、40歳が就労年齢80歳の折り返しであるならば、50歳は人生100年の折り返し地点と言うことができます。定年というキャリアの一つのゴールが現実的に目の前に見え始める時期でもあります。このちょうど人生の折り返しにあたる50代で真剣にセカンドキャリアを考え始める人は多いです。
筆者は、2020年から2022年まで3年連続で東京都主催の「東京セカンドキャリア塾」という講座にて講師をつとめました。55歳~64歳を対象としたプレシニアコース(65歳以上を対象としたアクティブシニアコースもあります)を担当しましたが、この講座には多くの在職中の50代シニアサラリーマンが参加します。
会社が終わった平日の夜(19時から21時)や休日の土曜日昼間に講座は開催されますので、生半可な気持ちでは2か月間のコースを修了することはできません。40代までは、会社の中核として馬車馬のように仕事一途に働いてきた方が多いですが、50代になり 「このままではいけない」 とキャリアに関する健全な危機意識を持ち意欲的に参加されています。
◆シニア活躍のための多様な選択肢を準備する
こうした健全な危機意識を持つ意欲あるシニアの受け皿として現状は「雇用」しか準備していない企業が多いと思います。親の介護などもあり、週3日間勤務、繁忙期のみの勤務、在宅勤務など個別事情に応じて柔軟な勤務を望むシニアが実は多いのですが、「シニア社員就業規則」を定め、全員一律的な取り扱い(週5日フルタイム勤務を原則としている企業が多い)を適用している企業がほとんどです。
年齢が上がるほど個人の意欲・体力に差が出てきますし家庭環境など個別事情も異なってきます。また、やる気あるシニアにとっては、こうした全員一律的な取り扱いがモチベーションを下げている面もあります。
従来通り 「雇用」 という枠組みの中でフルタイム勤務もあれば週3日間などパートタイム勤務もある、あるいは雇用以外の選択肢として業務委託も選ぶことができる。シニアの活用・活性化のためには、こうした多様な働き方の選択肢を準備しておくことがポイントです。
次回は、今回のコラムのテーマである 「個人事業主(業務委託契約)」 という働き方に関して解説していきたいと思います。特に 「今いる会社」 と 「仕事はそのまま」 で 「(雇用ではなく)業務委託契約」 を締結する働き方を 「“半”個人事業主」 と定義して解説を進めていきたいと思います
【筆者略歴】 木村勝(きむら・まさる) 人事インディペンデント・ コントラクター(独立人事業務請負人)、中高年専門ライフデザイン・アドバイザー、電気通信大学特任講師、 著書に |
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